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神綴る封印書庫 ―禁書の欠片と孤児たちの事件録―  作者: 文月沙華
2章:禁書庫の夜

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17話

 あれ以来、アーシャは例の術式を開くことはなかった。ミレナからも話題にすることはない。確証を得られぬまま時間だけが過ぎていき、月が満ちる夜――すなわち満月の夜がやってくる。

 七神の中で月と深い関わりを持つのは虚空神アルリドと運命神ラズリ。月はアルリドの玉座へ通じる道であり、死後の魂はそこで浄化される。ラズリにとっては運命を映す鏡でもあるという。そのためか、無属性魔術の術式は月の満ち欠けの影響を受けて効力に差が出るものが存在している……と、授業で教わった。


 アーシャが持っていた術式もそのうちの一つ。動くとしたら今夜だろう。

 ミレナは未だ迷っていた。アーシャが本当に禁書庫を破ろうとしているのだとしたら、説得してやめさせるべきなのは間違いない。しかし、本人が誤魔化す以上それも難しい。


 結局、禁書庫の前で待ち伏せて現場を押さえることにしたミレナは、夜遅くに寮を抜け出し、人目につかないよう図書塔を目指していた。

 一応、寮を出る前にアーシャの部屋を訪ねてみたけど、応答はなかった。既に部屋を出たのだろうか?

 以前、アーシャが通っていた道には目を光らせていたけど、そこにアーシャの姿はなかった。別の道を通ったのかもしれない。


「急がないと」


 例え封印解除がうまくいくとしても、そう短時間では不可能なはずだ。まだ間に合う。そう自分に言い聞かせ、寮の裏手にある森の中を経由して図書塔へと向かう。

 孤児院にいた頃、こんな森で遊んだことを思い出す。他人より夜目が効くミレナには、月明りさえあれば十分だ。狼とのヴィータの血が、こんな夜だけはありがたい。


 こちらが意識しているせいだろうか、月明りがいつにも増して明るい気がした。鈍く銀色に照らされた森の中は、まるで自分が知らない世界のようでただでさえ落ち着かないミレナの心をさらにかき乱す。

 行ったら引き返せないような、そんな不気味さを感じ、首を振って気のせいだと言い聞かせた。


 図書塔の入口に辿り着き、扉に手をかけてゆっくりと押してみる。意外なことに、すんなりと開いた。普通ならもう閉まっている時間のはず。これもアーシャが開けたのだろうか?

 しかし、開いているということは誰かが中にいるということだ。それがアーシャにしろ別の誰かにしろ、気付かれないように慎重に動かなくてはならない。ほんの僅かにだけ開いた扉から身体を滑り込ませ、すぐに書架の陰に身を隠した。


 手を離した扉がゆっくりと閉まり、背後で微かに音を立てる。つい肩が跳ねてしまったけれど、幸い周囲には誰もいないようだった。

 ほっと胸を撫でおろし、書架の端から顔を覗かせて暗い図書塔の中を見回す。月明りすらほとんど届かず、光源も灯っていない図書塔の内部はミレナにとってもかなり暗い。じっとりと目を凝らし、何か動くものがないか順に探っていく。

 アーシャは……いない。他の人影もない。一階には誰もいないのだろうか?


 二階に向かおうとした時、視界の端でふいに影が動いた。

 驚いて書架に飛びつく、影が灯りを掲げてこちらを照らすのは同時だった。


「誰かいるのか?」


 リーヴェン先生の声だ。どうして先生が?

 とにかく、今は見つかるわけにはいかない。アーシャを止められなくなるし、かといって説明するとアーシャも一緒に捕まるだろう。それは出来れば避けたい。

 書架に身を隠し、じっと耐える。大丈夫、灯りを持っているのは向こうだけだから、よく注意しておけば先生がどこにいるかはわかるはずだ。


 揺れる灯りを目印に、先生の位置から死角になるよう書架を挟んで回り込む。なんとか遠回りして階段まで辿り着き、あとは先生の隙をついて上階へ上がれば、禁書庫の扉まで辿り着けるはずだ。


 リーヴェン先生は先ほどの位置からあまり動いておらず、私に気付きかけた場所の周辺を調べて回っているようだ。どうしよう、階段は先生の位置から丸見えだし、今のままだと気付かれずに登ることはできないだろう。何か手を考えないと。


 何かないかと視線を巡らせていた時、唐突に猫の鳴き声が聞こえてきた。


 にゃぉ。


 どこから聞こえたのかはっきりとはわからないが、入口のほうだったような……?

 先生もそう思ったのか、灯りを掲げ直してそちらに向かっていく。今ならこちらに背を向けている。


 素早く、かつ音を立てないように階段を駆け上がった。どこの猫かわからないけれど、ナイスタイミングだ。あとで探し出してお礼をしたいくらい。

 

 三階に辿り着き、身を屈めて階下にいる先生の様子を見た。まだ猫を探しているだろうか。ここからでは姿が見えない。

 とにかく、早く用事を済ませよう。禁書庫の扉を確認して、何事もなければ私の思い過ごしで済む。


 書架の角を曲がり、禁書庫の扉へと目を向ける。ちょうど、その先の暗がりによく見知った後ろ姿が消えていくところだった。


 アーシャ!


 叫びかけて、咄嗟に口を押さえた。危ない、ここで大声を出したらリーヴェン先生に聞こえてしまう。

 あの先はシェラトゥ教団が立ち入りを禁じている聖域だ。けど、アーシャを止めないと。

 足に力を込め、なんとか一歩を踏み出した。落ち着け、まだ奥まで入ったわけじゃない。止めるなら今すぐ、そうでないとまずいことになる。


 シェラトゥ様、どうかお許しください。


 心の中で早口に祈り、アーシャを止めるために駆けだした。

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