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神綴る封印書庫 ―禁書の欠片と孤児たちの事件録―  作者: 文月沙華
2章:禁書庫の夜

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15話

 緊張で喉がカラカラだった。

 自分を落ち着かせるために唾を飲み込もうとして、喉が引き攣って失敗する。唾一滴分の潤いを得ることにも失敗し、喉に微かな痛みが走った。


 意を決して腕を持ち上げる。そのまま、目の前の扉を二度ノックした。


「入りたまえ」


 すぐに声が返ってくる。失礼のないようにゆっくりと扉を開き、足音を立てないように室内に入って後ろ手にドアを閉めた。

 魔術戦闘の教師に与えられた研究室。リーヴェン先生は自身の机に座り、いつも以上に険しい表情をしていた。自分の留守中に生徒たちがあんないざこざを起こしたのだから無理もない。


 先生に示された来客用のソファに座る。先生は机に座っているから、向かい合う形にならなくて良かったような、むしろこちらのほうが居心地が悪いような……。


「問題に関わった生徒たちから、一通り事情は聞いている。あとは君と、アーシャ・ルクシアの証言を聞けば終わりだ。

 これから私が話す内容について、事実と一致しているかどうか答えなさい」


 てきぱきと、淀みのない言葉だった。


「私の不在だった間、君とエレノア・ヴァルケインの試合後に言い争いがあった。エレノア・ヴァルケインの主張は君の戦い方が卑怯で公平性に欠けるというもので、君はそれに対して反論しなかった。

 言い争いはほとんど一方的なものだったが、それに耐えかねたのかアーシャ・ルクシアがエレノア・ヴァルケインを攻撃し、リディア・アルヴァレンツがそれを防いだ」


 私は思わず立ち上がりかけた。アーシャが先に手を出したことになっている。

 私の様子を見て、リーヴェン先生は眉をひそめる。


「何かあったかね」

「……事実と異なる内容がありました」

「どこが違ったか話したまえ」


 言われて、私は怯んだ。なんとなく、先生の顔に疲れが見えた気がしたから。

 リディアとエレノアは貴族の、しかもかなり偉い家系だったはずだ。対して私は孤児で、何の後ろ盾も持たない。アーシャについてはよく知らないけれど、ルシス族だからこの都市では立場は低そうな気がする。

 私たちの証言と彼女たちの証言、どちらが信用されるだろうか。食い違えば他の生徒たちの意見も聞かれるのだろうか。そうなると、クラスメイトたちはどちらの味方だろう。


 私たちの味方をしてくれる人は少ない気がした。


 それに、お互いの主張が真っ向から対立してしまうと、間に立つ先生も大変そうだ。先生は公平な人だと思う。だからこそ、この問題で間に立ってしまうといらない苦労を背負わせることになるかもしれない。


 一度目を閉じて逡巡し、意を決して口を開いた。

 目を開けた時、先生と目が合って怯みかけたけれど、幸いにも口は淀みなく動いてくれる。


「エレノアを攻撃したのは私です。あの時、アーシャは私を止めようと手を差し出したから、周りからはアーシャがやったように見えたのかもしれません」


 意見が真っ向から対立せず、アーシャを守る方法。


 先生はしばらくの間、私と目を合わせたまま瞬き一つしなかった。私も瞬きをしていなかったかもしれない。

 咄嗟についた嘘だった。見破られたかもしれないと思うと頭が熱くなり、のぼせたようにふらつきそうになる。必死に姿勢を保ち、一度だけ右足の位置を調整して地面を踏み直したところで、先生は大きく溜息をついた。


「わかった」


 思わず息を吐いてしまった。先生が私の言い分を信じたかは怪しかったけれど、私の証言はそのまま受け入れられたらしい。


 その証拠に、

「アーシャ・ルクシアの証言まで聞く必要はなさそうだな」

 と、わざとらしくこぼしてみせた。


 先生は私に罰則としてその日の残りは寮で謹慎することと、放課後に書庫の整理をするよう指示した。


「ありがとうございます。先生」

「何のお礼だ」


 先生は呆れ気味にそう言って、肩をすくめてみせた。

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