11話
オルディス・リーヴェン先生。厳格で、必要とあれば遠慮なく厳しい指摘も行う先生。まだ三か月ほどしか彼の下で学んでいないけれど、それでも厳しいのと共に公平でもあるのだということはわかっていた。そして、彼はきっと自分にも厳しい。魔術師の模範のような先生だ……と思っている。
だから、悪戯半分で禁書庫の封印に手を出したリディアの取り巻きたちとは、全くイメージが合わなかった。もちろん、子供の頃の話だから今とは違ったのかもしれないけれど。
エルネス先生は驚く私の様子を見て、満足そうに頷いて続きを話してくれる。
「あの当時はリーヴェン先生も、今のキミみたいに悩んでいたみたいでね。だから禁書に手を出しても自分の実力を高めようとしたんだ。もちろん、発覚した時はこっぴどく叱られたみたいだけど」
あいつが叱られているのなんて珍しくて、クラス中大騒ぎだったよ。と、愉快そうに話す。笑っているけれど、バカにしているという感じではなかった。なんというか、昔の笑い話をしているって感じで、もしかして、リーヴェン先生とエルネス先生って仲が良いのだろうか。
同級生って言ってたし、そうなのかもしれない。なんだか意外だな。
そこで、ふと思い出したことがあった。そういえば、図書塔で騒ぎになった時にエルネス先生以外にも何人かの先生が呼ばれていて、リーヴェン先生もいたはずだ。
気になって、そのことについても尋ねてみる。エルネス先生は感心した様子で頷いて言った。
「あの騒ぎの中でよく見ていたね。アイツも僕と一緒で、禁書庫の封印を守る人間の一人だからね」
「昔は破ろうとしたのに、ですか?」
「あはは、まぁたしかにそうなんだけど。アイツの厳格さは知ってるでしょ?
学生の頃の失敗なんか帳消しにするくらい、今のアイツは信用を得てるってことだよ。もちろん、実力も折り紙付きだしね」
そう言うエルネス先生の様子は、どこか誇らしげだった。
「先生もそうなんですよね。やっぱり封印学の担当だから、封印には詳しいんですか?」
「そうだね。あの封印は〈アルケイオス式多重封印術〉っていうんだけど、七神になぞらえて七人の人間で封印を守るという強固な封印になっているんだ。あれを正規の手順で解除するには、封印を施した七人全員が揃わなくてはいけない」
話を聞いて、図書塔で見た扉について思い出す。たしかに、七つの魔術陣が表面に浮かんでいた気がする。
「僕もリーヴェン先生もその一人なんだ」
あの日、図書塔から出る時にすれ違った大人たちのことを思いだそうとするけれど、さすがに人数まではハッキリと覚えていなかった。リーヴェン先生とエルネス先生がいたことは印象に残っているけれど。
聞いていいことなのかわからなかったけど、私は好奇心に負けて質問してしまう。
「あの封印って、正規の手順以外に破る方法はあるんですか?」
叱られるかもしれないと思ったけれど、エルネス先生は全く気にした様子はなかった。むしろ質問されて嬉しいといわんばかりに、一つ頷いてから得意げに解説をしてくれる。
「あの封印は七人がお互いに内容を知らせずに、別々の封印を施しているんだ。だからその一つ一つをすべて解析して、解除するための術式を割り出せれば解除することができるよ」
想像するだけでも途方もない話だ。パッと見ただけだけれど、あの魔術陣一つ一つがとんでもなく複雑な術式であることは、遠目に見てもなんとなくわかった。当たり前だけど、私では一つも解除できないだろう。
「ただ、あの術式には一つだけ弱点があってね」
「弱点?」
禁書庫の扉を守る大事な封印に、そんなものあっていいのだろうか?
私の心配をよそに、エルネス先生は相変わらず楽しそうに続きを話す。
「基幹術式と呼ばれる、まぁ、全体の封印をまとめるための術式があるんだ。七つの封印をすべて連結させて一つの封印として機能させる術式……といえば、だいたいあってるんだけど」
私に合わせて、やや嚙み砕いた説明をしてくれたのだろう。エルネス先生は言葉を選んでいる様子だった。
「その基幹術式を知っていれば、一つ一つの術式を解析しなくても解除するための術式を作れる……可能性があるんだ。それでもかなり大変なんだけどね」
そう言って、エルネス先生は笑った。
全体をまとめる基幹術式。私の中に一瞬だけ悪い想像が働いて、けれどすぐに振り払う。
かつて禁書庫を破ろうとしたリーヴェン先生も、その基幹術式を知っているんだろうか?
そんな風に疑うなんて失礼だ。先生は厳しいけど立派な人で、私欲のために封印を破るような人じゃない。
「基幹術式を知っているのは封印を施した七人だけだから、そこから破られるような心配はないよ。みんな、教団の上層部が選んだ信用できる魔術師だからね」




