4話
魔術戦闘の実践授業が始まって数日が経過した。
先生の名前はオルディス・リーヴェンというらしい。生徒たちからはリーヴェン先生と呼ばれている。雰囲気が怖いからか、陰では先生たちのことを呼び捨てにする生徒であっても、リーヴェン先生のことは先生をつけて呼んでいた。
先生は第一印象の通り厳しくて容赦のない人だった。出来ない生徒、やる気のない生徒には手加減なしに叱責が飛び、生徒たちが怠けることを許さなかった。
けれど、話の内容は理路整然としてわかりやすく、私の中では聞いていて楽しい授業に分類されていた。先生が怖いところは好きになれなかったけれど、おとなしく真面目に過ごしている分には目を付けられることもない。
ただ、実際に魔術を実践するにあたり、求められている課題をクリアできない時は本当に居心地が悪くなる。
先生の話では、魔術戦闘の基礎について重要なのは身を守るための〈盾〉を維持することと、その〈盾〉を破るための上級魔術を準備することにある。相手の〈盾〉を破れなければ有効打は与えられないから、言われてみれば当然の話ではある。
必ずしもそうではないけれど、基本的に〈盾〉を魔術で破る際には上級以上の魔術が求められる。
ただし、上級魔術は術式に魔力を流して発動するまでに、練度による差はあれど長い時間がかかる。その間は〈盾〉で身を守りつつ、相手を他の魔術で牽制する必要もある。上級魔術を準備している間、ぼけっと〈盾〉だけを張っているわけにはいかないからだ。
そのため、まず真っ先に習得すべきことは〈盾〉を維持しながら〈魔力の矢〉で相手を牽制することと、上級魔術を習得することだった。
さすがに、私たちのような見習いたちを相手に、それらすべてを同時に行うことまでは求められないようだった。それはよかったけれど、私にとって問題なのは〈盾〉と〈魔力の矢〉の併用が全然できないことにあった。
上級魔術を発動することはできる。孤児院にいる時にどこからか上級魔術の術式を見つけてきた私は、院長から教わってそれを習得していた。院長からすれば驚くほどあっさりと習得したらしく、ここに関しては才能があるのだと褒められたのを覚えている。
クラスメイトの中で最初から使えたのは私とセラくらいのもので、そのことは素直に誇らしかった。けれど、だからこそ他ができないことが苦しくもある。それに、そんなのは最初だけのことだった。
他の生徒たちも先生の指導を受けて、リディアを初めとした数人が扱えるようになり、それら上級魔術が扱える生徒が成績の上位組という空気がある。
その上位組の中で〈盾〉と〈魔力の矢〉の併用が上手くできないのは私だけだった。言われた通りに練習しているけれど、全然上手くいかない。上級魔術だけが私にとって心の拠り所だったのに、それも他のクラスメイトたちは次々に身に着けていっており、私は日々焦りを募らせていた。
既に上級魔術を扱えることは褒められたけれど、それきり先生が私を褒めることはなかった。
上級魔術の術式が刻まれた腕輪を磨きながら、寮の自室から外を眺める。今日も天気が良くて、なんだか私の心情を裏切る空模様で、理不尽に恨めしい気持ちになってしまう。腕輪を磨く手にもやる気が乗らず、ただ義務みたいに腕を振るだけだった。まるで、何か別の誰かに腕だけを糸で操られているような、そんな力の入らなさだった。
どうやら複数の魔術を同時に併用するのが苦手なのはわかったけど、じゃあどうすればそれを解決できるのかが全くわからない。先生も、最近はあまり私の指導をしてくれず、ほとんど放っておかれている。最初のうちに何度か言われた内容を要約すると、いくつかコツはあるけど最終的には練習あるのみというのが結論だった。
つまり、私が頑張って練習して出来るようにならなければ、先生から教えられることはないということだ。他のクラスメイトからも何度かコツを聞いてみたけれど、なぜできないのかがわからないみたいな空気で、私は自信を失う一方だった。
深くため息をつく。他の授業は楽しいのがせめてもの救いだった。
寮の自室で、窓の外を眺めながら考える。院長はどうしているんだろう。こんな私を見たらどう思われるんだろう。才能があるといって推薦してもらって、特待枠で学費も大幅に免除されているのにこの体たらく。明日にでも学費を返せとか言われないだろうか。
ここ数日はリーヴェン先生と廊下ですれ違うだけで緊張して気分が悪くなる始末だ。先生はこちらに一瞥もくれないし、こっちの自意識過剰なのはわかっているけれど……。
気分を変えよう。そう思い、腕輪を置いて部屋を出る。今日は午後の授業がなくて少し時間があるし、校舎裏にでも行ってとにかく練習あるのみだ。案外、急にできるようになるかもしれないし。
自分にそう言い聞かせ、両頬をぺちぺちと叩いて渇を入れる。自分を奮い立たせるように、少し強めの足取りで部屋を出た。




