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「葉牡丹ですが、黒いですね……初めて見ます」
私は真剣な顔になる。そこにヴィクト様以外の攻略対象たちも集まってくる。そして、攻略対象の中で一番勉強ができるマックス様がはっとした顔になった。
「マックス様?何か心当たりが?」
「ああ。これは葉牡丹ではない。葉牡丹に似てはいるが、三日月花という花だ。建国聖史に、太陽花と青霞花という花と一緒に記されているが……妙だな」
建国聖史……確か、聖女と英雄と強き裏の者の三点セットが記された物よね。何が妙なのかしら。
「何が妙なんだ?」
私の疑問をヴィクト様が代弁する。
「三日月花は、裏の者……つまり、関者というか、監視役というか……なんというか、諜報員のような役目をする人物の才能が開花した時に咲くんだ。ただ……今、そのきっかけがあったとは思えない」
それってもしや、私が転生したことなんじゃない?まあ、これはさすがに思い上がりすぎよね。
「きっかけねえ。一番可能性があるのはルディちゃんとかデューくんじゃない?だって今は兄連中いないし」
レイ様が私を指差し、次にミルと戯れているデューに向ける。そんな展開、ゲームにあったかしら。私かデューが強き裏の者とか、あり得るのか。まあ、あったとしたら私はないだろうから消去法でデューかな。デューって引っ込み思案のはずだけど、裏の顔とかがあるのかな?ってかレイ様、兄、連中って……。面白すぎるわ!レイ様、お笑い芸人の才能あるわ!
「ん?どうしたの?」
「い、いえいえ、なんでもございませんわ、レイ様!」
首を傾げたレイ様に、私は身振り手振りを合わせて否定する。でも、レイ様ってほんとに才能あると思うわ。
「建国聖史には、
『神の宿りし国に咲き乱れしは 神の宿りし三色のはな。
美しき聖女成なるならば 神が咲かそう金色の太陽花。
聡き英雄成るならば 神が咲かそう藍色の青霞花。
強き裏の者成るならば 神が咲かそう漆黒の三日月花。
三つのはなが成るならば 神が咲かそう栄光のはな。
三色のはな満開と成るならば 天が与えし支配のはな。
支配のはなが咲くならばその国恵まれ世界を潤おす赤き血のはな。
とおき昔のあやまちを 繰り返させしは誠のはな。
とおき昔の三色のはな 残しし者は ほろびゆき 燃やしし者は 長となる。
とおき昔の物語 忘れし長はほろびゆく。
ここに あやまちの物語あり
』とある。青霞花はすでに王宮にて開花している……つまり、ヴィクトが英雄ということだ。栄光の花というのはその国が世界一の国となるという意味だ。支配の花はその国を支配する力を得られる花という意味だと言われている。不明なのが……」
「赤き血の花」
マックス様、建国聖史を空で言えるなんて、恐ろしいくらいの天才だわ!私もそんな風になってヒロインを実力で倒せる悪女になるのよ!そんなことを考えながら私が答えると、マックス様が頷く。
「ああ。赤き血の花……名前からして、血が世界を覆うのは間違いないと思うが、それは何を示すのか、何を起こすのか……分からないことだらけだ」
マックス様は屈辱だと言わんばかりに前髪をかきあげる。
「分からないこと、それを解明するのが楽しいのではないのですか?」
私は真面目な顔で言ってみる。ゲームでは、マックス様は将来学者になり、不治の病を治す薬を発明する。その道へと導くのは本来ヒロインであるメイニーだが、ヒロインに先手を打って私が導くのよ!なんか良い人になっちゃうけど、ヒロインなんかに先を越されたらプライドがズタズタよ!そんなことを考えてマックス様を見たら、メガネの奥の深緑の瞳をうっとりと輝かせている。私がギョッとしていると、
「君は最高だよ!僕に道を示してくれた!実はずっと悩んでたんだ、将来について!親に色々言われていたからな。だけど君は、僕に当てはまる将来をくれた!ありがとう!」
と言いながら、マックス様が抱きついてきそうになった。私が慌てていると、ヴィクト様がそれを手で制した。
「マックス!幼いとはいえルディは未婚の貴族令嬢だぞ!そう簡単に抱きつくのは良くない!」
その言葉を聞いて、マックス様ははたと我に返る。
「そ、そうだったな。ルディシア、ごめん」
「い、いえ、お気になさらず」
私がそう言うと、マックス様はホッとした顔になる。やっぱり顔面偏差値が高い!これからホッとした顔1つで何人を失神させるのか。そんなことを考えている時、すっと手の平が差し出された。
「ルディシア、僕の道を見つけてくれてありがとう。せめて、握手でもしよう」
握手のお誘いね。これはお受けするわ。
「はい。どういたしまして。握手はお受けします」
私たちはそう言って微笑み合う。ここに、確かな絆ーーいや、私にとってのコネが生まれた。
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