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 まったく、私って本当に良い子なのね。私、「メリウェザーの三大騎士」の一つ、メリウェザー家の長女・ルディシアはうっとりしながら廊下を歩く。だって、

「植物を育てたい!」

と言っても  

「ゾウを飼いたい!」

と言っても  

「犬を飼いたい!」

と言っても叶えてもらえるんだもの!  

「王家のお城を手に入れたい!」

まあ、さすがに王家のお城は手に入れられなかったけど。そんな良い子の私にも、嫌いな人間がいた。あの女ーーメイニー・ブランシュ。私の乳母の子で、乳兄弟。でも、乳兄弟っていうだけで調子に乗るんだもの。とうとう私のイラつきは限界に達した。理由は簡単。私の犬・ミルのおやつを私がやりに行ったら、メイニーがやっていたのを見てしまったの。最近ミルのおやつへの執着が薄くなっていたのはメイニーが理由だったのだと気付いてしまって堪忍袋の緒が切れた私は、メイニーに怒鳴った。

「あんた、乳兄弟っていうだけで調子に乗らないで!たかが平民のくせに!」      

「ごめんなさい!ルディシア様、申し訳ございません!私はルディシア・メリウェザー様のしもべでございます!」

うん?

  ポクポクポク、チーン。

脳内にザ・沈黙、という感じの音が響く。この人、何で私に頭下げてるのかしら。

「え」

「ル、ルディシア様?」

ずっと私に頭を下げていた人が、不思議そうな顔で私を見つめてくる。待って待って待って待って。ヤバい、嬉しい!あ、私を情緒不安定者だと思わないでね。だってだってだって!今起こったことって最高じゃない!?こんなに嬉しいことあるかしら!?


 美人で強くてかっこいい悪役令嬢に転生できるなんて!


しかも私はまだ6歳!ということは、まだまだ悪役令嬢でいる時間はたっぷり!その間に来たる断罪イベントに備えて、とんでもない悪役令嬢になって見せるわ!私の家は武に長けたメリウェザーの三大騎士の一つ・メリウェザー家。そこの長女である私を侮るなかれ!知の方は自信があるわ!私はなるべくして悪女に転生したのよ!これも運命だわ!本気になった悪女は怖いわよ!メイニー、覚悟しておいてね!

 メイニー・ブランシュ。私の乳兄弟で平民にして……この乙女ゲーム・『聖女物語』のヒロインである未来の聖女様。そして、最終的に王子殿下と結ばれる運命にある。

正直言って、攻略対象の中で王子殿下の顔が一番好みだったけど、この際恋愛はどうでも良いわ!とにかく悪役令嬢の道を極めるのよ!悪役令嬢といえば、ヒロインをいじめるのが定番。だったら。

「あ、あの!ルディシアの様!誠に申し訳ございません!」

今目の前で猛烈に謝っているメイニーをとことんいじめ抜くのよ!そうすれば、ゲームの設定上ヒロインのメイニーをいじめたとして私はきっとこの国一番の悪女として名を轟かせることになるわ!なんなら最高の悪女として歴史に残るかも!?そんなことがあるんだったら悪女に憧れていた私は死んでも良いわ!あ、ううん、死んじゃ駄目だった。だって死んじゃったら悪女の道を極められなくなるんだもの!よし!とにかくいじめないと!

「いくら謝っても許さないわ。一生そこで謝っていなさい。食事もとっちゃダメ。分かったわね?」

私は意地悪く口角を上げる。あら?これ、悪女としてなかなか様になってるんじゃない?

「……っ!ル、ルディシア様!それは流石にひどすぎます!」

メイニーが私に泣き顔を向けてくる。

「え?何で?そっちが先に人の嫌なことしたんじゃない」

「わ、私はっ!ミルがお腹を空かせているように見えたから、おやつをあげただけでっ!決して人の嫌なことはしていません!」

うわ。口答え。しかもヒロインがしなさそうな言い訳。ヒロインこれで大丈夫か?まあ、まだゲーム始まってないし、大丈夫ってことかしら。

「それはあなたが思う嫌ではないこと。その人によって嫌なことは違うのよ。それくらいは考えられない?だって、お母さんマリエッタでしょ?マリエッタは思いやりがある人よ?」

マリエッタ。メイニーの母親にして私の乳母。私はメイニーのことは大嫌いだが、マリエッタは正反対で、大好き。それくらい、愛情深くて正論しか言わない。逆に、メイニーが誰に似たかというと、メイニーの父親。ジョン、という平民だ。綺麗事しか言わないので、そのジョンのことも嫌いだ。マリエッタは子爵令嬢だったのだが、大商人の息子であるジョンと結婚しなければならなかったらしい。マリエッタはメイニーにちゃんと教育をしているのに、メイニーが覚えられないのか、そもそもマリエッタが教育していないのか、ちょっと分からない。

「で、でも、平民の私はちゃんと教育を受けられていなくて……っうっ、ううぅ……っ!」

はあ、下らない。私は目の前で泣き始めたメイニーを見ながら、右手の手のひらに左腕の肘で頬づえをつく。

「なにこれ、めんど。私より年上のくせに」

すごい言葉が思わず口からこぼれ出るほどに、めんどい。これは、見ているだけで神経がごりごり削られていく。

「えっ……?ルディシア様、ひどい……っ!」

「そんな悲劇のヒロイン顔されても私は助けないわよ。だって私、悪女なんだもの」

私はそう言い残し、部屋を出たが、すぐにUターンして、部屋に戻った。ミルを忘れてた。あんな女と一緒にいさせたら可哀想だわ。もしかしたら、私が動物虐待で捕まっちゃうかも。まあ、この世界には動物愛護法なんてないけどね。

「ミル、おいで」

「ワン!」

部屋の扉からミルを呼ぶと、ミルはすぐに私に飛び付いてきた。

「行きましょう。ずっとこんな所にいることないわ」

私はそう言いながら部屋を出た。メイニーの鋭い視線を背に感じながら。

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