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馬車が邸に着いた。気絶してしまったお父様を魔法で浮かせ、私は馬車から出る。出迎えはミルだった。つやつやの黒い毛をなびかせながら走ってくる姿は大変可愛らしいのだが、今はかなり重い物体を浮かせているためもうそろそろ止まってほしい。
「ミル、ステイ」
私がそう命じると、ミルはすぐにその場に座った。賢くて良いことだわ。私がミルの横を通り過ぎると、彼は私の歩調に合わせて歩いてくれる。玄関の扉を開けると、一目散に厨房に走り出した。
「もう、食い意地が張ってるんだから」
「お嬢様、お帰りなさいませ。って、旦那様!?」
私の姿を捉えた侍女・マリアはお父様の姿を見て仰天する。まあ、そうなるわよね。自分のお邸の旦那様が魔法を使えるはずのない娘に浮かべられて気絶してるんだから。私が何かしたのかと疑われてもおかしくはない。
「お父様は心配ないわ。私がヴィクト様に誕生日プレゼントでもらった物にちょっと驚いて気絶しているだけ。本当に心配ないわ」
私が圧をかけるようにそう言うと、マリアは困惑しながらもメリウェザー家の護衛騎士を呼び、お父様の部屋に運ぶように命じた。そして私をダイニングルームへと導く。
「お嬢様、奥方様と若様たちがお待ちです」
「分かったわ。もうここからは一人で行けるわ」
私がそう言うと、マリアは私に頭を下げて他の仕事をしに行く。それを見届けた私は、今度は一人で進み始めた。本当に、この邸は広いわね。いつも使っている場所ならまだしも、あまり使わない場所に行った帰りとかは迷いそうね。そんなことを考えている間に、私はダイニングルームに着いた。中からは誰かが楽しそうに話しているのが聞こえる。お兄様たちが喋っているんだろう。私はそう予想して扉を開ける。でも、中にいたのは私の家族だけでなく使用人の少女。
「メイニー?なんであなたがここにいらっしゃるの?」
私の言葉に、彼女がピンクブロンドの髪を揺らして私の方を向く。きれいな水色の瞳は、怯えるように潤んでいた。
「ル、ルディシア様。わたし、料理を運んできて、今帰るところなんです」
彼女の返答に、私は思わず眉を顰める。
「今帰るところ?だったらなんでお兄様たちと談笑していたの?」
私は鋭い瞳で平民にもかかわらず学園に入学したメイニーを睨めつける。ヒロイン補正なのよね、そこ。すると、メイニーは瞬時に怯えた表情になった。それを見たレオンお兄様が私の方を有り得ない、という表情で見た。すでにヒロイン補正がかかっている、という感じかしら。
「何を言っているんだ、ルディ。使用人が主人の息子と話して悪いことでもあるのか?」
「ええ、ありますね、今だけ限定で。この時間は使用人たちが忙しく動き回っています。それなのに、一人だけが主人の息子と話しているというのは他の使用人たちに面目が立ちませんわ」
私が言い返すと、お母様が何かから目覚めたかのような顔をした。
「そうですよ、レオナルド。わたくしたちが使用人の仕事を奪ってはいけません」
その言葉に、レオンお兄様は目尻を吊り上げた。
「母上まで、そのようなことを仰るのですか!?メイニーのことをどうしても悪者にしたいかのような言い草、いくら二人でも許さぬぞ!」
「レオナルド、何を言っているの。あなたこそ、ルディシアとわたくしを悪者にしたいかのような言い方、謹みなさい!」
おうおうおう。母と息子の激論が始まったぞ!
「母上。どうかお気を鎮めてください。俺がそんなに悪いことを言いましたか?どう考えたって悪いのはそちらの方でしょう。いい加減に諦めて下さい」
おーっと、息子の攻撃!素晴らしいお手本のような笑顔を浮かべて、相手を見下した言い方だ!それに対して母、目尻をこれでもかと言うばかりに吊り上げた!そして全ての令息が堕ちる笑顔を浮かべる!だがしかーし、目尻が吊り上がっているので娘としては複雑だー!
「あなたこそ、悪いのはどう考えてもそちらの方でしょう。母親に向かって何ですか、その口のききかたは」
その攻撃に兄、グッと唸る!半分は母の圧力強めの笑顔によるものだと感じ取りました、解説者こと私、ルディシア・メリウェザー!という具合に私が心の中での実況を繰り広げていると、アレクお兄様がため息をつくのが聞こえた。
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