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 それからしばらく学園入学の詳細を説明された。そして、説明が終わって馬車に向かっている時、背後から「ルディ!」と呼ぶ声が聞こえた。少し低いその声は、この国の王子のもの。

「ヴィクト様!?」

私が驚いて振り向くと、ヴィクト様がお父様に席を外すように指示した。逆らう理由がないので、お父様は大人しく馬車の方に歩いて行った。

「どうしたのですか?国王様が何か仰っていたのですか?」

私が尋ねると、ヴィクト様は首を振って微笑み、私の頭に手を伸ばす。えっ?何?困惑していると、彼の指は私の髪に留めた宝石の割れた髪飾りに触れ、それを外す。髪飾りで留めていた少しの髪がパサリと耳にかかる。

「やっぱりな。丁度いいタイミングで割れたものだ」

「え?丁度いいタイミングで割れた?どういうことですか?」

「ああ、ルディ、今日は何の日だ?」

ヴィクト様に訊かれた私は即「私の誕生日です」と答えた。それにヴィクト様は頷く。

「そうだ。ささやかな物だが……誕生日おめでとう」

そう言って彼が私に渡した箱の中に入っていたのは新しい髪飾り。ローズレッドの少し大きめのリボンに蔦のような柄が刺繍され、オレンジ色の宝石が乗った銀の台座は繊細な細工で、蝶の形になっている。っていうかこの宝石、ファンシービビットオレンジダイヤモンド(長いけどこれが正式名称なのよ)じゃない!?一般的なダイヤモンドの1万分の1しか産出されない普通のダイヤモンドより高いやつよ!?世界で一番価値が高い宝石よ!?

「ヴィ、ヴィヴィヴィヴィヴィクト様!これって、ファンシービビットオレンジダイヤモンドですよね!?」

私が声をひっくり返しながら懸命に訊くと、ヴィクト様は頷き、それがどうしたと言いたげな顔になる。

「そうだ。気に入らないか?気に入らないなら他の宝石に変えるが」

いえいえいえ!気に入ってますよ!ちょっと高価すぎる物が出てきてびっくりしてるだけで!

「いえ、大丈夫です。ありがたく貰っておきます。お祝い、ありがとうございました」

私が箱の蓋を閉じて早口で言うと、ヴィクト様は若干押されながらも「ああ」と頷いてくれた。そんな彼に見送られながら私はお父様の待つ馬車に向かう。ファンシービビットオレンジダイヤモンドって高価な物だけど、私は悪女を目指しているのよ!王子様に世界一価値が高い宝石を貢がせるなんて、悪女らしいじゃない!今日の悪女経験値は史上最高だわ!

「お父様、ただいま戻りましたわ」

私は悪女になれたことに嬉々としながら馬車に乗り込む。待っていたお父様はフワリと優しい笑顔を浮かべた。

「おお、やっと来たか。ルディ?髪飾りはどうした?その箱は?」

質問攻めはやめてください!私は心の中で憤慨しながらにっこりと余所行きの笑みを浮かべる。

「はい。髪飾りはヴィクト様に没収されました。これはヴィクト様いわくささやかな誕生日プレゼントだそうです」

そう言いながら私はお父様に箱を差し出し、彼がどんな反応(リアクション)をするのか眺める。箱を開けたお父様は……絶句し、たっぷり1分間、固まった。

「お父様?お父様ー?」

私が呼び掛けるとようやくピクッと動いた。

「ルディ、私はどうやら物を正しく見ることができなくなったらしい」

「はい、これを最初に見た時は私も同じ気持ちになりました。ですが、お父様の目は正常であられます」

私が努めて冷静に言うと、お父様が大声を上げそうになり、それに気付いたらしい彼は自分で口の周りに結界を張って思いっ切り叫ぶ。気持ちはものすごく分かる。でも理性で押さえた。誉めて。ようやくお父様の口の周りの結界が消えた。

「ルディ、これを、ヴィクトール殿下はささやかな誕生日プレゼントと言って渡してきたのか?」

「ええ。彼の言葉はしっかりと聞きました。間違っても聞き間違いなどしておりませんと、自負できます」

「この宝石の名前は聞いたか?もしかしたら思い違いかもしれない」

「しっかりと、この耳で聞きました。ついでに言うと聞き直しもしました。やはり、ファンシービビットオレンジダイヤモンドと、おっしゃりました」

私が一句一句はっきりと言うと、お父様は遠くを見つめる。あなたには、宇宙が見えているのね、って言いたくなるほど。

「受け止めましょう、お父様」

私がそっと言うと、お父様はついに気絶した。

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