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なんで、こうなった。私は今、屋敷の四阿でヴィクト様と二人きりでお茶をしている。王子様とのお茶会といえばラブラブするのが定番だと思うが、このお茶会はさながら圧迫面接。いや、ヴィクト様からしたら私を優しい視線で見つめているつもりなのだろうが。こっちからしたら、自分が何か粗相をしたのか不安になってくる雰囲気なのよ!
「その、ヴィクト様。お兄様たちは、いつお戻りになるのでしょう」
私は某乙女ゲームの攻略対象たちを思い浮かべながらヴィクト様に問う。ことの発端はみんなでお茶会をしていたところでヴィクト様を除いた攻略対象たちがお兄様たちに連れられて影のメリウェザーの領地の散策に出かけてしまったことである。ヴィクト様は王子だからふらふらと歩いていては民に萎縮されてしまうし、私は女の子だから危ない、という理由で二人だけ置いていかれた。でもさ……、あんたら絶対わざとやったでしょ!二人きりでお茶をさせて実はこっそり見張ってる人間モニ○リングみたいなもとしてるのバレバレなのよ!そもそも、まだ6歳の幼女に国王の一人息子の接客をしろって、何か失礼があったらお家取り潰しの騒ぎよ!?お父様はお許しになったのかしら。でもあの人、何気に遊び心あるから、あながちあり得ない話では無いわね。というかお兄様たちがわざわざ許可を取りに行くわけなかったの忘れてたわ。
「そんなことを言うのか?俺はようやく君と二人で話せていることに喜びを覚えている」
意地悪王子のなんと眩しいことよ。でも、そんなものに騙されないわよ。
「あら、私よりも面白い話し相手がいると思いますよ?」
私はそう言って手を口元に添える。そして、廊下で聞き耳を立てている人物に声をかけた。
「バレているわよ。もう少し、気配を消す努力をしたらどうかしら?平民として王子様との伝手が欲しいのは分かるけど」
この屋敷にいる平民といえばヒロインのメイニーとその父・ジョンだけ。そして、廊下にいたのは少女の方。メイニーだ。
「ル、ルディシア様!ごめんなさい!わたし、つい……」
「ヴィクト様、この娘は私の平民の乳兄弟・メイニーです。この子と話した方が楽しいと思いますよ」
悪女として王子にヒロインを売るのはいただけないが、仕方ない。未来のライバル関係のために種をまいておかないと。メイニーは上目遣いで期待するようにヴィクト様を見つめる。でもヴィクト様は私たち二人の期待を裏切り、冷たい目でメイニーを一瞥した。
「何を言っているんだ?俺はルディと話したいんだ。すまないが君と話すつもりはない」
嘘でしょ!?私、悪女として嫌われたいんですけど!好かれたくないのに!
「えっ、ヴィクト様、そ、そそそそ、そうだったんですか!?」
私は悪女らしくない年相応の反応をしてしまう。ついでに頬が熱を持っているのが分かる。そんな私を見て、ヴィクト様は意地悪そうに笑う。
「ああ、そうだ。そこのメイニー殿とやら。下がって良いぞ」
「えっ?あっ、は、はい?」
メイニーは困惑を見せながら廊下に出ていく。四阿は再び二人きりの空間になる。
「余計な気を使うな。嫌になってくる」
少し不機嫌そうなヴィクト様の声に、私は心の中で歓喜する。やった!ヴィクト様に嫌がられてるわ!悪女ポイントアップよ!というか、なぜ嫌なのかしら。未来のヒロインと喋るのを嫌がる攻略対象なんているのかしら?私は考え込んではっと思い当たる。まさか、私のことが好きとか?恋愛面で。それだったら辻褄が合う。だって、好きな子と二人きりの空間に相手が他の人間を連れてきたら嫌だもの。いやでも、それはないわよね。悪役令嬢と正統派王子様が結ばれるなんて聞いたことないもの。私は自分のなかで結論を出す。この考えは、完全に頭から消え去った。
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