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真の英雄の選択: 波紋、そして希望の光

エルドリアスの告白と、その後の「公にする」という決意は、王都に瞬く間に波紋を広げた。その衝撃は、さながら平穏な水面に投じられた巨石のようだった。

「エルドリアス少将が、平民の治療師と……!?」 「身分を弁えぬ! 王国の英雄としての品位を損なうものだ!」 貴族たちの間では、不満と非難の声が渦巻いた。豪華なサロンでは、香水の匂いに混じって、エルドリアスの「愚行」を嘲笑するささやきが飛び交う。彼を次期王妃候補の婿にと目論んでいた貴族たちは、顔を紅潮させて怒りを露わにした。彼らの視線は、エルドリアスをまるで不潔なものでも見るかのように冷たく、その言葉には、上流階級の傲慢さが滲んでいた。彼らの耳には、自分たちの既得権益が脅かされるかのような、不快な雑音が響く。

だが、その波紋は、貴族たちの間で留まらなかった。王都の市井にもその噂は広がり、人々の間で様々な憶測が飛び交った。しかし、民衆の反応は、貴族たちとはまるで異なるものだった。

「あんた、聞いたか? 少将様が、あの野戦病院の癒しの聖女様と、本気らしいぜ!」 「なんだと!? まさか、あの高嶺の花の少将様が……!」 最初は驚きと戸惑いがあったものの、すぐに、熱い共感と支持の声が上がり始めた。

「少将様が、自分の心に正直になったってことだろ? それこそが、真の英雄ってもんじゃねぇのか!」 「ああ、そうだ! 俺たちはあの女医さんに、何度も命を拾ってもらった! 少将様も、きっとそうだ!」 兵士たちの声が、その口火を切った。彼らは、戦場でリアーナの献身的な姿を、誰よりも間近で見てきた。絶望に打ちひしがれ、痛みにもがく兵士たちの傍らで、リアーナは身の危険も顧みず、その白い手から光を放ち続けたのだ。彼らの掌には、彼女の魔力と温かさが、まだ確かに残っている。彼らの耳には、彼女の静かな、しかし確かな励ましの声が、今も鮮明に響く。彼らにとって、リアーナは「少将の恋人」である以前に、「命の恩人」であり、「希望の象徴」だった。彼らの心には、エルドリアスの行動を支持する、熱い衝動が燃え上がっていた。

この兵士たちの声は、かつての戦場でエルドリアスの背中が「揺るがぬ柱」であったように、確かな影響力を持ち、民衆の心を動かす力となった。王都の通りでは、リアーナの献身と、エルドリアスの真摯な愛の物語が語り継がれ、共感の輪が広がっていった。人々の心には、身分や立場を超えた「真の絆」という希望の光が灯り始めたのだ。彼らの視界に映るのは、英雄の人間らしい愛と、それを支える聖女の慈愛に満ちた姿だった。彼らの鼻腔には、清々しい希望の香りが満ち始めた。

そして、その波紋は、ついに玉座にまで届いた。国王は、エルドリアスの決意と、それに対する民衆、特に兵士たちの熱狂的な支持を、冷静に見極めていた。広間に響く貴族たちの不平の声と、市井からの喝采。その対比は、国王にとって、一つの重要な示唆を与えた。

国王は、エルドリアスとリアーナを謁見の間へと召し出した。厳かな静寂の中、二人は王の前に跪いた。冷たい石畳の感触が、リアーナの膝に伝わる。彼女の鼓動は、耳元で激しい音を立てていた。エルドリアスの隣で、彼の静かな呼吸音を聞きながら、彼女は運命の時を待った。

国王の視線は、まずエルドリアスに向けられた。 「エルドリアス少将。貴殿の決意は、王都中に知れ渡っている。貴殿は、王国軍の象徴。その行動が、いかに大きな波紋を呼ぶか、理解しておるな?」 国王の声は、重厚で、一切の感情を読み取らせない。

「はっ。承知しております」 エルドリアスは、一切の迷いなく答えた。彼の声は、謁見の間に澄んだ響きを残す。

次に、国王の視線はリアーナへと移った。 「リアーナ殿。貴殿の戦場での働きは、多くの者から報告を受けている。瀕死の兵士を救い、絶望に光をもたらしたと。貴殿は、真に王国に貢献した者だ」 国王の言葉に、リアーナは顔を上げた。彼女の瞳には、まだ不安と、しかし揺るぎない覚悟が宿っている。

国王は、深々と息を吐いた。 「……戦場という極限の地で育まれた絆は、確かに、通常の絆とは異なるものだろう。貴殿らの関係を、身分というだけで断ち切ることは、王国にとって、もはや何の益もない」

国王は、ゆっくりと玉座から立ち上がった。その姿は、まるで王国の威厳そのものだった。 「エルドリアス少将。そして、リアーナ殿」 国王の声は、謁見の間に響き渡る。 「貴殿らの関係を、ここに認める。そして、祝福する!」

その言葉は、まるで光のように、二人の心を貫いた。リアーナの瞳から、安堵と感謝の涙が溢れ落ちた。エルドリアスの顔には、深い安堵と、そして今まで見せたことのない、純粋な喜びの表情が浮かんだ。彼の掌は、リアーナの小さな手の上に重ねられ、二人の指が、そっと絡み合った。その温もりが、全ての苦悩と葛藤を洗い流していく。

国王の選択は、単なる二人の愛の承認ではなかった。それは、旧態依然とした身分制度に一石を投じ、真の功績と人としての価値を重んじる、新たな時代の夜明けを告げるシンフォニーだった。エルドリアスの行動は周囲に波紋を呼んだが、彼の命を救ったリアーナの献身、そして戦場で築かれた二人の揺るぎない絆は、多くの人々の心を動かし、ついに王国の最高位をも動かしたのだ。


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