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高まる信頼と感情: 極限で紡がれる絆

「絶望を紡ぐ者」との戦いは、まさに苛烈を極めていた。エルドリアスの剣は、傷ついた体から繰り出されるとは思えぬ速度で魔将の触手を切り裂くが、その漆黒の体はすぐに再生し、終わりの見えない悪夢を連想させた。彼の全身は悲鳴を上げている。剣を振るうたびに筋肉が軋み、古傷が疼いた。皮膚は汗と血に濡れ、その熱い感触が彼の意識を朦朧とさせる。彼の耳には、自身の荒い息遣いと、重い鎧がぶつかり合う鈍い金属音が、戦場の喧騒の中で最も大きく響いていた。

「少将! 左腕に、魔力の集中を確認!」

リアーナの鋭い声が、戦場の轟音を突き破って彼の耳に届いた。彼女の五感は、戦場の物理的な喧騒を越え、魔将の放つ魔力の微細な流れ、エルドリアスの生命力の揺らぎを正確に捉えていた。彼女の視界には、疲労でかすむエルドリアスの背中が映る。その背中には、新しい傷が次々と生まれ、彼女の心を締め付けた。彼女の鼻腔には、焦げ付いた硝煙と、彼から滲み出る血の匂いが混じり合う。

「くっ……!」

エルドリアスは、左腕を狙って放たれた「絶望の冷気」を寸前で避けた。その直後、リアーナの掌から放たれた温かい回復魔法の光が、彼の体を包み込む。彼の皮膚に触れるその魔力は、戦場の冷気とは全く異なる、生命そのものの熱さだった。体が軽くなる錯覚すら覚える。

「馬鹿な……あれだけ攻撃を受けたのに、なぜまだ立てる!?」 魔将の、地を這うような低い唸り声が響く。その声には、苛立ちと理解できない混乱が混じっていた。

「団長、行けますか!?」

「くそっ、あんな化け物を相手に……!」

兵士たちの声が、遠くから聞こえてくる。彼らの声には、エルドリアスの奮闘への驚きと、そして諦めきれない一縷の希望が宿っていた。金属がぶつかり合う甲高い音、魔族の甲高い咆哮、兵士たちの悲鳴と雄叫びが入り混じり、戦場はまさに混沌のるつぼだった。

「ああ……リアーナ……お前がいなければ、今頃、俺は……!」

エルドリアスは、魔将の攻撃を避けながら、一瞬だけリアーナに視線を向けた。彼の瞳には、感謝と、そして言葉にならない感情が宿っていた。リアーナの魔法は、彼の痛みを和らげ、動きを助ける。だが、その光が届かない場所で、エルドリアスの筋肉は悲鳴を上げ、古傷は熱を持ち続けていた。彼の口から漏れる呼吸は、血の鉄臭い味がした。極限状態の戦場で、彼は自分の命を、そして兵士たちの希望を、リアーナの回復魔法に託していた。彼女の存在が、彼の唯一の光であり、彼を突き動かす原動力となっていた。

リアーナもまた、同じ思いだった。エルドリアスが剣を振るうたび、その肉体が軋む音が彼女の耳にはっきりと聞こえる。彼女の掌から放たれる回復の光は、彼の体に吸い込まれるように消えていくが、それでも彼女は休むことなく魔力を送り続けた。彼女の頬を伝うのは、汗か、それとも恐怖からくる涙か。彼女は、戦場の喧騒の中で、エルドリアスの隣で戦うことの重みと、彼への感情が急速に高まっていくのを痛感していた。

「(エルドリアス少将……あなたは、私の光……!)」

彼女の心臓は、激しいドラムのように鳴り響く。彼が傷つき、倒れそうになるたびに、彼女の胸には激しい痛みが走った。しかし、彼が再び立ち上がり、敵に立ち向かうその姿を見るたびに、彼女の体には新たな力が満ちるのを感じた。彼の背中は、どんな時も彼女を守ってくれている。彼女の手が触れた彼の鎧の冷たい金属の感触も、今はどこか心強く感じられた。

エルドリアスは、魔将の猛攻の中で、リアーナの存在がどれほどかけがえのないものかを痛感していた。彼女の回復魔法がなければ、彼はとっくに倒れていただろう。彼の指先が、魔将の黒い体に触れる。そこから伝わるのは、死の冷たさと、微かな魔力の脈動。彼の剣が魔将の皮膚を切り裂くたびに、闇色の血飛沫が舞い、その生臭い匂いが鼻腔を刺激した。

「(まだだ……まだ、終わらせない……!)」

エルドリアスは、視界の端で、奮闘する兵士たちの姿を捉えた。兵士たちが再び絶望に飲み込まれそうになった時、エルドリアスの微かな笑みやリアーナの歌うような魔法の詠唱が、その冷気を一時的に払う彼らは、希望の光を再び見出したかのように、絶望的な状況の中で必死に戦っていた。

「行け、団長! 俺たちが、必ず道を切り開く!」

「リアーナ様も、俺たちを癒してくださっている! もう、諦められねぇ!」

兵士たちの声は、かすれながらも、確かな力を帯びていた。その声が、エルドリアスとリアーナの耳に届き、彼らを鼓舞する。

「ここだ、少将!」

リアーナが、再び魔将のわずかな隙を指摘する。彼女の声は、戦場の騒音の中にあっても、彼の心に直接語りかけるかのように鮮明だった。エルドリアスは、その声に導かれるように、最後の力を振り絞って剣を振り上げた。彼の体は鉛のように重いが、彼の心には、リアーナと共に戦うという、揺るぎない決意が宿っていた。

戦場の極限状態が、二人の間に言葉を超えた強い信頼と、絶対的な支えを急速に育んでいた。命を預け合い、互いの存在がなければこの戦いを乗り越えられないことを痛感する中で、彼らの絆は、硝煙と悲鳴が満ちる戦野に咲く、一輪の「癒しの花」のように、確かな形を結び始めていた。



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