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戦場、再び。

エルドリアスが再び戦場に立った時、そこは地獄と化していた。「絶望を紡ぐ者」は、すでに王国軍の陣営深くまで侵食し、多くの兵士がその恐るべき力に蹂躙されていた。

「ぐあああああッ!」

「体が動かねぇ! 気持ちが折れる……!」

兵士たちの悲鳴が、戦場に響き渡る。彼らの顔は恐怖に歪み、その瞳からは生気が失われ、まるで魂を吸い取られているかのようだった。地面には、触手に絡め取られ、血の代わりに黒い液体を流して倒れる兵士たちの姿が横たわっている。

エルドリアスは、まだ完全ではない体を叱咤し、剣を構えた。その剣の柄を握る手に、微かな震えが走るのを彼は感じたが、その震えは彼の決意を鈍らせはしなかった。

「退け! 俺が相手だ!」

彼の声が、絶望に満ちた戦場に響き渡った。その声に、兵士たちが一斉に顔を上げた。彼らの瞳に、かつての「光」が戻ってくる。

「団長!? 団長が戻られたぞ!」

「嘘だろ……まだ、完全に治ってねぇはずなのに……!」

兵士たちの声は、驚愕と、そして微かな希望に満ちていた。エルドリアスの出現は、戦況を変えるわずかな可能性を提示した。

「(まだ、体が重い……だが、ここで、止まるわけにはいかない!)」

エルドリアスは、「絶望を紡ぐ者」へと向かって駆け出した。彼の足裏に伝わるのは、血と泥で濡れた地面の生々しい感触と、爆発で抉られた地面の凹凸だ。その一歩一歩が、回復途中の彼の体に激痛を走らせる。

その傍らで、リアーナもまた、戦場を駆け巡っていた。彼女の目には、エルドリアスを支える光景が捉えられていた。彼の体から発せられる微かな痛みの声が、彼女の五感を通して伝わってくる。彼女の掌から放たれる回復魔法の光が、エルドリアスの傷ついた体を包み込み、彼の痛みを和らげ、動きを助ける。彼女の魔法は、戦場の喧騒の中で、彼の耳には微かな、しかし確かな「癒し」の音として響いていた。

「少将、無理はなさらないでください!」

リアーナの声が、彼の耳に届く。その声は、彼女の魔力と共に、エルドリアスの体に染み渡る。彼が剣を振るい、「絶望を紡ぐ者」の触手を切り裂くたび、リアーナは間髪入れずに彼の傷を癒し、彼の魔力を回復させた。二人の呼吸は、まるで長年連れ添った夫婦のように完璧に合致していた。

しかし、「絶望を紡ぐ者」の力は圧倒的だった。エルドリアスの渾身の一撃すら、闇に吸い込まれてしまう。魔将の放つ「絶望の冷気」は、回復魔法の光すら鈍らせるかのように、周囲の兵士たちの士気を徹底的に削いでいく。

「くそっ、これじゃあ、回復してもすぐにやられる!」

「みんな、気力を保て! 団長が、あんな体で戦ってくださってるんだ!」

兵士たちの叫びが交錯する。彼らはエルドリアスの戦う姿を見て、再び立ち上がろうとするが、「絶望を紡ぐ者」の精神攻撃は容赦なかった。

「(このままでは、ジリ貧だ……)」エルドリアスは焦燥に駆られた。彼の五感は、魔将の放つ冷気と、兵士たちの微かな嘆きの声、そして自身の体の限界を告げていた。彼の一挙手一投足に、回復途中の筋肉が悲鳴を上げる。その肉体の悲鳴が、彼の耳には「まだ、足りない」と告げているかのようだった。

リアーナは、そんなエルドリアスの苦痛を、その肌を通して感じ取っていた。彼女の指先が彼の皮膚に触れるたび、そこから伝わる熱と震えが、彼の消耗度を伝えてくる。彼女の瞳は、戦場の惨状と、エルドリアスの限界の狭間で揺れる。だが、彼女の心は決まっていた。

「少将! 魔力の流れが、ほんのわずかですが、あちらに集中しています!」

リアーナは、魔将の体から発せられる、わずかな魔力の「歪み」を五感で感じ取っていた。それは、彼女の回復術師としての鋭敏な感覚が捉えた、攻略の糸口だった。エルドリアスがその視線でリアーナに頷き、二人の間に言葉なき了解が生まれた。彼らは、互いの存在を信じ、この絶望的な戦場を切り開くため、再び力を合わせる。エルドリアスの剣とリアーナの回復魔法の光が、闇に覆われた戦場に、かすかな希望の光を灯し始めたのだった。


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