世界の状況:硝煙と悲鳴の最前線
世界は魔族との大規模な戦役の渦中にあった。王国軍は辛うじて防衛線を保っているものの、各地から届く報は劣勢を告げ、希望の光は日ごとに薄れていく。
最前線で戦う兵士たちの五感は、常に極限状態にあった。 地面は、踏みしめるたびにドロリと湿った土の感触と、温かい血の臭いを足裏から伝えてくる。夜闇に響くのは、魔族の低く唸るような咆哮と、剣が肉を断つ生々しい音、そして仲間たちの断末魔の叫び。耳を塞ぎたくなるほどの爆発音が鼓膜を破り、大地が震動するたびに、彼らの心臓もまた激しく波打った。
ある兵士が、震える声で隣の仲間に問いかけた。 「おい、この戦、いつになったら終わるんだ? もう、何日まともに眠っていないか…」 返ってきたのは、乾いた笑い声と、疲労に滲んだ声だった。 「終わる? はっ、終わるならとっくに終わってるさ。俺たちはただ、明日、誰がここにいないかを願うしかねぇよ……」
空は常に土煙と血の匂いが混じった、生臭い硝煙の臭いで満たされていた。視界の端には、仲間が倒れていく姿や、魔族の不気味な形がちらつく。かろうじて生き残った兵士たちは、その瞳の奥に深い絶望の色を宿しながらも、歯を食いしばり、泥と血にまみれた剣を握りしめていた。
野戦病院からは、絶え間なくうめき声が聞こえてくる。 「次はこっちだ! 脚がやられてる!」 「もっと布を! 止血が間に合わない!」 運び込まれる兵士たちの顔は、皆一様に蒼白で、痛みに歪んでいた。彼らの体から流れ出る赤黒い血が、野戦病院の白い布を無残に染め上げていく。 ある若い兵士は、運び込まれる担架の列を見て、吐き気を抑えながらつぶやいた。「こんなの、もう耐えられない……」 ベテランの兵士は、その肩を叩き、静かに言った。「耐えるんだ。お前だけじゃない。俺たち全員が、この地獄を生き抜くために戦ってるんだからな……」 彼らの言葉の端々には、明日をも知れぬ命を燃やす、兵士たちの過酷な現実と痛切な願いが滲んでいた。