第2章 ③ ユイちゃん家族になる 中3
「ユイちゃん、もう怪我大分良くなったね」
「…うん…おかげさまで…」
「これからどうする?うちは基本的に保護した猫は譲渡する事になっているんだ。ユイちゃんを譲渡する訳にはいかないからね。この家にいたいのなら両親に気に入られないと。気に入られれば、僕の方から飼う様に話を進めておくから…」
「うん!ここにいたい!洋介君のお父さんもお母さんもすごく優しいし…仲間の猫もいっぱいいるし…」
「ああよかった。僕もユイちゃんがいてくれると、嬉しいよ」
「うん、じゃあ、猫の姿になってお母さんに甘えてきな。お父さんに触られるのは、嫌だろうから、僕の方から言っておくよ。『この子、男に触られるのは嫌みたいだよって』それでも、多分触ってくると思うから、そうしたら猫パンチしていいよ」
「…うん…軽くしちゃうかも…」
「ハハハ、大丈夫だよ。お父さん和尚さんだからすごい優しいんだ」
—————— 数分後 リビングにて
一階のリビングでは、母の佐和子がソファで本をめくりながら、膝に毛布を広げていた。
その上に、ユイが猫の姿でそっと飛び乗る。
「まあ、この子すっかり良くなったわね」
佐和子はユイを撫でながら呟いた。
「ミャー」
「この子本当に綺麗で可愛いわね」
「うん、この子すごいいい子なんだ…譲渡に回さないで家で飼ってもいいかな?」
「いいけど…でも洋介、珍しいわね…うちには保護猫がいっぱい来るから、特定の猫を飼いたいって言うなんて?」
「うん、なんかね…名前はユイちゃん」
「名前も決めたのね。いい名前ね。“結ぶ”の“結”かしら?ぴったりの名前ね」
「そんなとこかな…」
「どれどれ、ユイ、お父さんが抱っこしてあげようか?」
父の義信が佐和子の膝の上からユイを抱き抱えようとすると早速猫パンチが飛んだ。
「おお!」
「お父さん、この子、男は触られてもらえないんだ。
僕も同じだよ。触られてもらえないの」
「ハハハ、賢い猫だね。人間の男女の区別ができるなんて。それはそれは……よい、よい。人も猫も、心地よい距離があるからの」
「ふふっ……わたしには懐いてるのにねぇ」
佐和子が少し得意げな顔をしながら言った。
——————再び自室
「よかったね。ユイちゃん、これからはうちの家族だね。よろしくね」
「うん、こちらこそよろしくね」
「でも、ユイちゃんも仕事してもらわないといけないよ」
「何、仕事って?」
「ユイちゃん猫語喋れるでしょ。ここにいる人慣れ訓練中の猫達に、人間は危険じゃない事をきちんと伝えてほしいんだ」
「うん、私が猫の姿になって、一緒に教育するの手伝うよ。みんな幸せになって欲しいからね」
「保護猫を譲渡する時に少しだけお金を頂いているんだけど、ボランティア活動だから、トントンもしくは赤字なんだ。でも、人慣れ訓練がもっと早くできれば、黒字になるかもしれない…」
「任せて!私頑張るから」
「心強いな。もし黒字化できたらユイちゃんに少しだけ給料払えるかも…」
「えっ、本当!?」
「うん…名目的には僕が少しだけ貰って、ユイちゃんにこっそり渡すかたちになると思うけど…黒字化が上手くいったら交渉してみるよ」
「私がいれば大丈夫よ。猫語で言えば絶対わかってもらえるから、ふふっ」
「…僕も猫語わかるかな…」
「大丈夫よ、私の前の飼い主のケイさんにも教えたらできる様になったよ。私は日本語教わったけど、読み書きまでは教わらなかったんだ。猫語おしえるから、簡単な読み書きでいいから教えてよ」
「うん…それいいね…猫語ずっと習いたかったんだ。
ユイちゃんには絵本読んであげるよ。絵本で覚えるといいよ」
「うん、絵本読んでよ」
「絵本はもう捨てちゃったなぁ。図書館でいっぱい借りてくるよ」
「うん、ひとりで読める様に頑張る。猫語簡単じゃないけど一緒に頑張ろうね」
「うん、楽しくなりそうだね」