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婚約破棄をもちかけたら、いつも冷静な聖騎士様が泣きそうな顔をしていた

掲載日:2025/05/15

「婚約破棄いたしましょう、レリック様」


 公爵家の屋敷の中でも一番飾り気のない応接間に、凜とした声が響いた。

 声の主は冷め切ったトパーズのような瞳を、対面のソファーに座る美丈夫へと向ける。

 婚約者であるレリックは新月の夜空ような髪に、水晶のような双眸を持つ。

 すらりと高い鼻梁と形のよい輪郭、鍛えられた肢体が女性の心を掴んで離さない。

 一目見れば忘れられない美貌を持つレリックは、聖騎士だ。

 次期聖騎士団長だと囁かれるほどの実力者でもある。


「っ、ステラ」


 懇願するように名前を呼ばれる。

 ステラは様子を窺うように彼へ目を向け、後悔した。

 婚約してから10年、一度も見たことのない顔。

 普段の自信に満ちあふれた雰囲気は消え去り、レリックは今にも泣き出しそうに美貌を歪めている。


「どうして、いきなりそんなことを?」

「だって、職務で満足にデートもできないでしょう? それにデートできたかと思えば急務で中断になりますし」

「それは……」

「記念日だって、一緒にいられないこともしばしばで、ほとほと愛想が尽きましたの」


 この10年で何度も起こった事実を並べれば、レリックは閉口した。


(これでレリックを見るのも最後ね)


 事前に考えていた言葉を口の中に用意して、ステラはそっと息を呑んだ。

 そして、努めて冷たい声色で、言い放つ。


「ご自分が振られた理由がお分かりになったら、出て行ってちょうだい」

「……分かりました」


 レリックが立ち上がったことに、ほっとしたのもつかの間。

 レリックが、ステラの傍に跪いた。

 彼の予想外の行動に目を見開く。

 ステラが抗議する前に、レリックが柔らかな薄紫の髪を掬い上げた。


「ちょっと」

「公爵家からの破談連絡は来ていません。ということは、まだ俺は婚約者ですよね? ダメなんですか」

「ダメよ。いいから出て行って」


 冷ややかにレリックを見下ろす。

 すると彼は肩を落として立ち上がった。

 しかし、一向に動く気配がない。


「ステラ」

「何を言われても答えは覆らないわ」


 痺れを切らしたステラも立ち上がり、扉へと向かうように彼の背中を押す。


「もう一度だけチャンスをくれませんか?」

「嫌よ」

「ステラ、お願いです」

「嫌ったら嫌よ」

「ステラがいなくなるなんて、俺、耐えられません」

「知らないわよ」


 押し問答を繰り返しながらもレリックを部屋の外へと出した。

 何か言いたげな顔で振り返った彼を無視して、ステラは最後だと言わんばかりに口を開いた。


「それじゃ、元気でね」


 にこりと形式的な挨拶を送り、バタンと扉を閉めた。

 ステラは冷たい扉に背中を預ける。


「これでよかったのよ」


 気が抜けたのか、ステラはずるずると座り込んでしまう。

 ポタポタと床に落ちる涙は、後悔だろうか。


「呪われた私なんて、レリックに相応しくないの」



 ◇◆◇



 翌朝。

 ステラは泣き腫らした顔を隠すように化粧を施し、重い体を引きずるようにお茶会へと参加した。

 普段通り、元気な姿を見せなければと呪いで痛む体に鞭を打ちながら令嬢達との駆け引きを繰り返す。

 薔薇が咲き誇る庭園だというのに、癒やしを得るどころか、心労はたたる一方だ。

 声をかけてきた令嬢達の雑談に耳を傾けながら、ステラは本日何回目か分からないため息を呑み込む。


「聞きまして、あの噂」

「えぇ、聞きましたわ!」

「部屋に飾って、毎日魔力を注ぐだけで恋が成就するのでしょう?」

「わたくし、やってみたの」


 きゃあっと皆の視線が一人の令嬢へと集まる。


「アイビー様、それで、それで? 叶ったのですか?」

「叶わない恋をしていたので、半信半疑だったのですが……」


 頬を赤らめて目を伏せるアイビー嬢に、彼女の恋が成ったのだと、誰もが悟った。

 一層噂話が加速する。

 そんな令嬢達の中で、ステラだけが冷めた顔をしていた。


(石に魔力をこめただけで願いが叶うなんてばかばかしい)


 そっと令嬢達の輪から一歩下がる。

 きゃいきゃいと騒ぐ令嬢達の話題についていくのは少ししんどい。


「面白そうな話をしているのね」

「! 王女殿下」


 令嬢達がざっと頭を下げる。

 それはステラも同じだ。


「楽にしてちょうだい。私はステラに用があるだけだから」


 王女殿下の言葉は命令でなくとも、誰もが従う。

 ステラは仰せのままにと、令嬢達の中から抜け出した。



 王女殿下に連れられて、茶会会場の端にあるガゼボに座れば、侍女達がさっと焼き菓子を皿に取り分けてくれた。

 礼を言えば、すっと下がっていく。

 ステラは焼き菓子を口に運びながら、彼女へと声をかけた。


「フェリシア王女殿下」

「もう! 他人行儀はよして。幼馴染みにすら壁を作られるとしんどいわ」


 フェリシアはステラを咎めるように頬を膨らませた。

 普段と変わらない彼女に、ステラはくすりと笑みがこぼれる。


「分かったわ。シア」

「素直でよろしい。ステラにたくさん聞いてほしいことがあるの。今日は全部聞いてもらうまで帰さないんだから」

「それはちょっと……。話って毎回婚約者とのことじゃない」

「当たり前じゃない! 愛した伴侶との関係を惚気て何が悪いのかしら?」


 フェリシアが首を傾げると、結い上げられた白髪が軽く揺れる。

 堂々とした宣言に、ステラは苦笑した。


「本当、羨ましいわ。婚約者といい関係を築けて」

「あら。私の目には貴女達もいい関係を築けていると思うわよ? 聖騎士様なんて、ステラにベタ惚れじゃない」


 ふふんと得意げなフェリシアに、少し胸が痛んだ。


(昨日婚約破棄した、なんて言えないわね)


 ステラが眉を下げるが、フェリシアは気にしていない。

 彼女は令嬢達が談笑する庭園へと目を向ける。


「で、今日の茶会はどうかしら?」

「とっても素敵なお茶会よ」

「ステラにそう言ってもらえると嬉しい。頑張った甲斐があったわ。あなた、ステラにお茶を」


 フェリシアが告げれば、一番近くにいたそばかすの侍女が慣れない手つきで紅茶を入れてくれた。


「見ない顔ね」

「つい最近私付きの侍女になったばかりなの。まだ人前にだせるほどではないから、練習させてちょうだい」

「私で練習台になるならいくらでも」

「助かるわ」


 紅茶を優雅に一口飲んだフェリシアが、それでと前置きをする。


「ステラ。あなた、今日も一人なの?」


 フェリシアの言葉に、ステラはすっと目を逸らす。

 そんなステラの反応にフェリシアはため息をついた。


「まったく。パートナーと来られないときは代役を立てなさいってあれほど」

「わかってる、わかってるけど」

「けどじゃないわ。まぁステラがどれだけ聖騎士様を想っているのかぐらい分かるし、彼以外のエスコートを受けたくないのもわかる。でもね、いくらステラが良いと言っても――」


 フェリシアの言葉をかき消すように、ざわりと会場がどよめく。


(え、なにごと……?)


 庭園に咲いた花たちがさっと髪型を整えたり、ドレスを直したりとせわしなくない。

 彼女達の熱い視線を追えば、無色の瞳と目が合った。

 騎士服のまま庭園のアーチをくぐるレリックに、ステラは目を丸くする。


(な、なんでレリックがここに?)


 レリックがぱっと顔を輝かせれば、直撃を食らった令嬢達がくらりと倒れてしまう。

 しかし、彼は気にした様子もなく、ずんずんとステラへと向かってくる。


「よかったわね、聖騎士様が来たみたいよ」

「間に合ったみたいだ」

「えっと、どうしてここに……?」


 昨日婚約破棄を告げたはず、と喉元まで出てきた言葉は呑み込んだ。

 婚約破棄(恥ずべきこと)を大々的に口外する必要もない。

 したり顔のレリックがフェリシアに頭を下げる。


「今日はお招きありがとうございます。王女殿下」

「いいのよ」

「ステラをお借りしても?」

「えぇ。私はもう席を外すから、ここを使えばいいわ」

「ありがとうございます」


 立ち上がったフェリシアに、ステラは助けてと視線を送るが、知らない振りをされてしまった。

 ガゼボから立ち去る彼女の背中を恨めしく見つめてしまったのは仕方がないことだろう。

 令嬢の輪に交ざったフェリシアに内心毒づく。


(シアの馬鹿……!!)


 ふと影がかかり、見上げれば、レリックがわざわざ隣に腰を下ろしたところだった。

 とろけるような目と視線が絡む。

 見ているこちらが恥ずかしくなってしまう顔に、ステラの喉から変な音が鳴った。


「ステラ。今日のドレスも似合っています。まるで春を告げる妖精が舞い降りたのかと」

「……お世辞はいらないわよ」

「本心です」


 膝の上に置いていた手にレリックが触れる寸前。

 ステラが静止の声をかける。


「戯れはよしてちょうだい」

「どうしてです?」

「昨日……」


 婚約破棄をと言いかけ、ちらちらとこちらの様子を窺う令嬢達に気がつき、ステラは口を閉じた。

 レリックはふっと笑って、手を握った。

 逃げられないと知りながら恋人のように手を絡める彼を、周りにバレない程度に睨む。


「そんな顔しても可愛らしいだけですよ」

「昨日の話、覚えていないわけじゃないでしょう?」

「勿論です。貴女がどれだけ寂しかったのか、理解しました」

「へ?」

「文句1つ零さなかったステラがあんな申し出をするぐらいです。俺が、貴女の優しさに甘えていたばっかりに辛い思いをさせました」

「いや、だから……」

「今度からはちゃんとエスコートさせてください。できる限り都合を合わせます」


 真剣な顔で頷かれ、ステラは開いた口がふさがらない。


(こんなに話が通じなかったなんて)


 なんと言えばレリックは諦めてくれるのだろうか。


「安心してください。俺はあの申し出には頷きません」

「どうして」

「むしろ、いままで遠慮していたのが馬鹿らしくなりました」

「え……?」

「二度とあんな申し出ができなよう、甘やかして、甘やかして、甘やかし尽くして、俺がいないと生きていけないようにしてあげますね」

「っ……!」


 握られたままの指先へ口づけが落とされる。

 びくりと体ごと跳ねたが、それすら楽しげに見つめられる。

 指先から手の甲、手首へと口づけは上っていく。

 首筋へ顔が寄せられ、ステラは思わず目をぎゅっと閉じてしまう。

 しかし、いつまで経っても覚悟していた生温かな感触が襲ってこない。

 恐る恐る目を開ける。

 するとそこには、意地悪な笑みを浮かべたレリックがステラを見下ろしていた。


「期待しました?」

「っ~!! からかったわね!?」

「からかってませんよ。俺がやりたかったのと……少し試させてもらいました」

「なにが……?」

「ステラが俺のこと、本当に嫌いになったのかどうか」


 レリックの言葉に、ぐっと息を呑んだ。


(ダメよ、気付かれては)


 ステラは震えそうな声を無理矢理抑え、普段通りに言葉を発する。


「さっきは驚いて振り払えなかっただけよ」

「本当に?」

「本当よ」

「……人は嘘をつくとき、咄嗟に同じ行動をすることがあります」

「それがどうしたの?」


 じとりと睨めば、レリックは首を竦めた。

 煮え切らない彼の言葉に、ステラは眉を寄せる。

 彼が何を言いたいのか、理解ができない。


「知っていました? 貴女は嘘をつくとき決まって、本来出したかった言葉を息を呑み込んでから喋るんですよ?」


 獲物を見定めるような目に見下ろされ、ステラは蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう。

 レリックは笑みを深め、言葉を続けた。


「エスコートの約束をしていたのに、緊急招集がかかったとき、貴女は大丈夫だと笑顔で言いながら言葉をのみこんでいましたね」

「それは……」

「ステラに嘘をつかせてしまったのは全部俺の行いのせいなので何も言えません。でも、この嘘だけは、受け入れたくない」

「……どうして?」

「決まっているじゃないですか。俺がステラを好きだからです。だから俺への気持ちが一縷(いちる)でも残っているのなら、チャンスをください」


 ぎゅっと両手で手を包まれる。

 自身の手よりも一回り大きくゴツゴツとした手に胸が高鳴った。


(って、ドキドキしている場合じゃないのよ!)


 ステラがオロオロと視線を彷徨わせていると、よそ見は許さないと言わんばかりにレリックの手に力がこもった。


「ステラ、お願いです。俺を見て」


 恐る恐るレリックと目を合わせる。

 真剣な透明な瞳に見つめられてしまえば、隠し事すら見透かされてしまいそうだ。

 数秒、見つめ合っていただろうか。

 我に返ったステラは握られた手を引くがびくともしない。


「離して」

「嫌です。今離したら、貴女は俺から逃げるでしょう?」

「当たり前でしょ」

「……いきなりあんなことを言い出したのは、やはり呪いが原因でしょうか」


 呪い。

 レリックの口から出た言葉に、ばっと彼へ視線を戻す。


「図星ですか」

「なんのことだか分からないわ」


 内心しまったと思ったが、ステラはすぐに取り繕う。

 聖騎士であるレリックには呪いが見えると聞き及んでいた。

 どこから呪われていると漏れるか分からない以上、常に気を抜くことはできない。

 だからこそ、隠蔽魔法で呪いを隠している。


(呪いは可視化されていないはず、鎌をかけられた?)


 じっと窺うようにレリックを見れば、ふにゃりと破顔される。


「俺の力、侮ってませんか?」

「侮ってなんていないわ」


 侮っているはずがない。

 でなければ隠蔽魔法を使って隠したりはしないだろう。


「目を見れば、呪われているのか分かりますよ」

「え」


 ステラは思わず声が漏れ、自身の迂闊さに唇を噛んだ。

 柔らかく微笑んだレリックが、地を這うような声で問う。


「それで、俺の婚約者を呪った輩に心当たりは?」

「……私は呪われてなんかいないわ」

「ステラ」

「ほら、私いつも通り元気よ? 呪いを受けていたら体調が悪くなったりするのでしょう?」

「ステラ。俺の話を――」

「きゃあああああ!!」


 つんざくような甲高い悲鳴に、何事だと目が向く。

 皆の視線が集まる中心で、フェリシアがぐったりと倒れていた。


「シア……!!」


 緩んでいた手を振り払い、ステラはフェリシアに駆け寄った。

 地に膝を突き、フェリシアを抱き起こす。


「シア、シア、目を開けて」

「う……」


 声をかけてみてもフェリシアは苦しげに呻くだけだ。

 近衛兵がバタバタと走り出しているが、医務官の到着には時間がかかるだろう。

 ふと、座り込むステラに影が落ちる。


「俺が運びましょう。治療はその後で」

「レリック」


 か細い声で彼の名を呼ぶ。

 安心させるように微笑んだレリックは、軽々とフェリシアを抱き上げた。


「ステラ、王女殿下の私室まで案内してくれますか?」

「えぇ。もちろんよ」

「医務官へ伝達お願いします。王女殿下の私室へご足労いただきたいと」


 近くにいた近衛兵はレリックの指示を遂行すべく走り去っていく。


「俺たちも行きましょう」

「……そうね」



 ◇◆◇



 ステラは寝台に寝かされたフェリシアの手を握る。


(あんなに元気だったのにどうして……?)


 結局、あの日茶会は中断となった。

 フェリシアの目が覚めなかったからだ。

 公には心労が祟った故に倒れたとされた。

 だが、ステラは知っている。

 フェリシアが茶会の手配などで倒れるはずがないと。


(それに、心労で倒れて一週間も目を覚まさないなんておかしいわ)


 日に日に痩せ細る彼女の手を、ぎゅっと握る。


(魔法が使用された形跡もなかった。なのになぜ? 一体何が原因なのかしら)


 換気のために開けられた窓から柔らかな風が吹く。

 締め切られたカーテンの隙間から夕日が射し、サイドテーブルを照らした。


(これは……)


 サイドテーブルの上で輝いているのは、なにかの原石のような置物だ。

 茶会で噂になっていたおまじないをするための物でもある。


(シアが叶わぬ恋を……? いえ、シアは婚約者に一途だもの、ありえないわ。ならなぜこんな物がここに……?)


 思案をめぐらせていると、扉の向こうから遠慮がちに声をかけられる。


「ステラ。そろそろ時間です」

「わかったわ。……また来るわね、シア」


 見舞いのために用意された椅子から立ち上がり、部屋を出た。

 後ろ髪を引かれながらも、ステラは廊下を歩き出す。

 ステラの隣を、この一週間で見慣れてしまった騎士服が揺れる。


「別に毎日来なくてもいいのよ? レリック」

「俺がやりたいんです。気にしないでください」

「……そう」

「なにか、進展は……」


 首を横に振れば、レリックは申し訳なさそうに眉を下げた。


「俺がどうにかできたらよかったんですが……」

「王女の部屋に男性は入れないわ」

「陛下も命には替えられないと分かっているでしょうに。慣習とは厄介なものです」

「そうね」

「こういう時、聖女がいてくれればって思ってしまいますね」


 聖魔法の使い手は、基本的に男性のみだ。

 ごく稀に女性に適性があることもあるが、それは数百年、数千年に一人生まれればいいと伝えられている。


「そんなおとぎ話に頼るよりも、陛下に聖騎士を手配してもらう方が早いでしょうね」

「ええ。まぁ王宮の治癒術士が治せないとなると、聖魔法も効くかどうか怪しいところですが」

「同じ系譜だから仕方ないわ」


 聖魔力の使い道は基本的に2つ。

 人々を癒やすか、魔法の無効化だ。

 しかし後者は、誰にでも使えるわけではない。

 ほんの一握りの聖騎士にのみ使えると言われている。

 そして、一般的に聖魔法と治癒魔法と呼ばれるものは、ほとんど一緒だ。

 どちらも怪我を癒やす効果を持つ。

 違いは使用する魔法の属性と効果範囲だろうか。

 白属性の治癒魔法は止血などの怪我を治すことができ、消費魔力は少ない。

 対する聖魔法は、聖属性であり、亡くなった腕などを接合できる代わりに大量の魔力が必要となる。

 治癒魔法の上位互換といえるだろう。

 しかし、治癒魔法で治せないのであれば、聖魔法でも治せない確率が高い。


「すみません。そんな顔をさせるつもりじゃなかったんですが……」


 そっと肩を抱かれ、我に返る。

 ゆっくり彼を見上げば、ステラを気遣うように眉を下げていた。

 レリックの瞳の中でステラは酷く青い顔をしている。


「大丈夫です。王女殿下は強いお方ですから。きっとすぐに目を覚まされます」

「……えぇ」

「王女殿下が目を覚まされた時には、ステラが笑顔でなくては。でなければ王女殿下も心配なさりますよ」

「そうね。ありがとう」


 フェリシアが倒れてから、レリックには励まされてばかりだ。


(突き放したはずの彼に支えられてなんとか平静を保っている、だなんて……。それにシアの異変に気がつけたのは、私しかいなかったはずなのに、全く気がつかなかった。親友失格だわ)


 ラウラは自身の不甲斐なさに視界が潤む。

 だが、この場で泣くまいと歯を食いしばった。

 瞬間。

 カツカツと足音が聞こえ、びくりと肩が揺れる。

 目尻から零れそうな水分をなんとか留めておくことに精一杯で、周りに気を回せていなかった。


(今泣きたいのは私じゃない。だから、収まって)


 ぐっと目に力をこめるが、著しい成果はない。


「……ステラ、こっちに」


 彼の腕に引かれるがまま足を動かす。

 中庭へと連れられ、優しく手を離される。


「レリック……?」


 声を発した拍子に涙が零れてしまう。

 一度溢れてしまった水分は止まることをしらない。


「ごめ――」


 レリックが自身の上着をぱさりとステラの頭にかぶせた。

 そして、正面から抱きしめられる。


「ここなら誰も見てません。もちろん俺も見ません。存分に泣いてください」

「っ、どうして、優しくするの」

「ステラが俺の婚約者で、私の唯一だからですよ」

「婚約破棄、したじゃない」

「俺は受け入れていません」


 反論よりも先に涙が溢れ出た。

 止めようと思っても止められず、レリックの服にシミを作っていく。


「今までなにもできなかったぶんだと思って、俺に甘えてください」


 優しすぎる抱擁は、ステラの涙が止まるまで続いた。



 ◇◆◇



 数日後。

 レリックがステラを訪ねて公爵家へと訪れた。

 ひらひらのフリルたっぷりの私室にちょこんと座っているレリックに、ステラはいたたまれなさを感じてしまう。

 日が昇って間もない頃に突然訪問され、応接間の用意が間に合わなかったためだ。

 椅子に腰掛け、問いかける。


「どうしたんですか、こんな朝早くに」

「申し訳ありません。先触れもなく。どうしても伝えなければならないと、いてもたってもいられず……」


 目の前に座るレリックには、迷いが見えた。

 慌てて公爵家へ着たというのに、なんとも煮え切らない態度だ。


「それで、なにがあったの?」

「どこから話せばいいのか……っ!」

「きゃっ」


 紅茶を運んできた侍女の手を、レリックが掴む。

 侍女の手からティーカップが落ち、甲高い音を立て散らばった。

 湯気の立つ床を気にも留めず、レリックは彼女の腕を凝視している。


「レリック……?」

「これはどこで手に入れましたか?」

「これって、この腕輪のことでしょうか? これは、街の商店で購入したものですが……ご覧になられますか?」

「お願いします」


 レリックが凝視していたのは、小さな宝石が連なったブレスレットだ。

 彼が手を離すと、侍女はブレスレットを外し、机に置いた。

 侍女はブレスレットを置くと割れてしまったティーカップを片付け始める。


「一体どうしたの?」

「これが、俺がここに来た理由です」

「?」

「今、社交界で噂になっている恋のまじないは知ってますよね?」


 フェリシアが倒れたあの茶会でも話題になっていた。

 ステラはこくりと頷く。


「知っているわ」

「まじないとは、いわば呪いです」

「!」


 レリックの言葉に、ステラは目を見開いた。

 彼は真剣な眼差しでステラを見つめる。


「呪いは対象を昏倒させることも、死に至らしめることだってできる」

「それって……」

「王女殿下は十中八九呪われたのでしょう」

「そんな……! でも、呪いなら治癒術士が気がつくはずよ」


 レリックが静かに首を振った。


「呪われていたのが、王女殿下自身であれば気付けたでしょう」

「シアが呪われていたわけじゃないと……?」

「はい。呪われているのはこれです」


 レリックがテーブルに置かれたブレスレットを持ち上げる。

 忌々しいと言わんばかりの目をそれに向ける彼は、ステラが見たことのない顔をしていた。

 ごくりと息を呑んだステラに、彼は困ったように笑う。


「貴族の間に広がったまじないは、魔力を毎日注げば恋が成就するというものでしたね」

「えぇ」

「魔力を注がれることで、この石に組み込まれた術式が発動するようになっています」

「その術式とは……?」

「……言えません。これ以上はステラを巻き込んでしまいますから」

「っ、十分巻き込まれているわ!」


 ステラはすでに呪われているのだから、嘘ではない。


(シアみたいに昏倒してしまう呪いでないことが救いだけれど……。だいぶ魔力量が少なくなってきたわね。初歩魔法が使えたら儲けものだわ)


 体に不具合はないが、その代わりに体内を巡る魔力の流れが日に日に鈍くなっている。

 しかし、不調を知る者は本人しかいない。

 レリックは諭すように告げる。


「ステラは、待っていてください。俺が全て解決します」

「でも」

「俺は今日、この国で一番力のある公爵家の令嬢に、お願いをしにきたんです」

「……公爵家の力が借りたいと? 私じゃ何も動かせないわよ」

「いえ。俺が知りたいのは情報です。ステラなら、この国の貴族の些細な噂もご存じでしょう?」

「それは、そうだろうけど」

「このまじないで、恋が成就したと聞いたことは?」

「両手でも足りない数いるわ」

「大丈夫です。教えてください」


 いつになく真剣な彼の目に、ステラはそっと息を吐いた。


「……教えれば、シアが目を覚ますのよね?」

「もちろんです。ステラの憂いは俺が払います」


 ステラが記憶にある令嬢達の名を口にする。

 レリックはメモを取り終わると、礼を言って立ち上がった。


(こういう時だけすぐに帰ろうとするんだから)


 レリックを見送るため、ステラも立ち上がって玄関までついて行く。

 馬小屋から彼の愛馬が連れて来られた。


「朝早くからありがとうございました」

「まったくね」

「今度来るときにはちゃんと手土産も持ってきますね」

「そんなのはいいわ。シアを、早く助けて」

「もちろんです。では」


 そう言い残し、レリックは馬と共に駆けていく。

 彼の背中を見ながら、ステラは「あ」と声を上げた。


「アイビー嬢を伝え忘れてたわ」


 使用人に声をかけ、馬車を用意してもらう。

 すぐに追いかけたなら間に合うだろうと、ステラは馬車へと乗り込んだ。



 ◇◆◇



「ん……」


 寒さに震えて目が覚める。

 視界に見える石畳に、まどろんでいた意識が覚醒した。

 がばりと起き上がれば、ずきりと頭が痛む。


「そうだ。私、レリックを追う最中に馬車が事故に遭って……」


 状況を整理しながら、ステラは当たりを見回した。

 灯りがなく、暗闇に目が慣れていなければ迂闊な動きはできないだろう。

 冷たい石畳の床に、窓一つない壁。

 小さな机と椅子があるだけで、その他なんの家具も置いていない。

 出入り口は一つだけで、おそらく鍵がかかっているはずだ。

 光の入らないこの場所は、時間感覚を狂わせる。


 どうするべきかとステラは頭を悩ませる。

 手だけを拘束されているものの、魔封じは施されていないようだ。

 そのことから推測される犯人像は二つ。


(魔法に長けていいる人物。もしくは、私の魔力が弱まっていることを知っている人物ね)


 ステラは思考を巡らした末、今逃げても得策ではないと判断した。

 意識してふぅっと息を吐く。

 肩肘を張っていても、来るべきチャンスを掴めない。

 逃げ出す好機を見逃さないために、ステラは肩の力を抜いた。


 カツカツと軽い足音が聞こえ、扉が開いた。

 扉の向こうからお盆を片手にアイビーが入ってくる。

 予想外の人物の登場に、ステラは目を丸くする。


「アイビー嬢?」

「あら、起きていらっしゃったの? まぁわたくしとしては好都合だけれど」

「好都合?」

「ふふ、まずは食事ですわ。餓死されては元も子もありませんからね。ほら、お食べになって?」


 ステラの目の前の床に料理が置かれる。

 意味が分からずアイビーを見上げれば、いやらしい笑みを浮かべていた。


「手を縛っているから食べられないんでしたね。ふふふ、なら犬のように這いつくばって食べればいいのではないかしら?」

「私、朝食はもう食べたのだけれど」

「安心なさって。こちらは本日の夕食でしてよ。明日からは夕食のみ提供して差し上げますわ」


 下卑た提案は聞かないフリをして、ステラは頭を回す。


(今は夕方か夜。ってことは、私の捜索は始まっている頃ね。もう少し情報がほしいわ)


 勝ち誇った顔をするアイビーから情報を引き出すために、ステラはまた口を開いた。


「……何が目的? 身代金?」

「はぁ? そんなものいりません」

「ならなぜ」

「わたくし、クワイエット嬢にお願いがありますの。王女殿下のお願いも聞いていらっしゃるんだもの。いいわよね」


 確かにフェリシアからのお願いはよく聞いていた。

 しかしステラとアイビーは、気安くお願いをされるような間柄ではない。


「お願い……?」

「貴女が早くあの方と別れてくれないから……」

「?」

「あの方に手紙を書けば解放して差し上げます」


 何が言いたいのか分からず、ステラは眉を顰める。


「呪われたから婚約破棄をしましょう? って、聖騎士様に手紙を書くけばいいだけ。ね? 簡単でしょう?」

「っ、どうして私が呪われていると?」


 ステラの問いかけに、アイビーはケラケラと笑う。


「ここまで言っても分からないの? その呪い、わたくしがかけたのよ」

「……は?」

「だーかーらー、その呪いはわたしくが仕込んだものなの。この日のためにね」

「……そう。よかった」

「よかった?」


 予想外の反応が気に障ったのか、アイビーから張り付いた笑みが消えた。

 ステラは立ち上がり、アイビーを真っ直ぐに見つめる。

 笑みを浮かべれば、彼女の口元がひくりと引き攣った。


「あの人が狙われたものじゃなくてよかったって言ったの」

「は?」

「私への私怨なら、レリックの経歴に傷もつかないでしょう?」

「何が言いたいのかしら」


 意図が読めないのか、アイビーは眉を寄せる。

 ステラはますます笑みを深くして、手首に巻かれた麻縄を魔法で焼き切った。


「もし魔法で貴女を傷つけても、レリックの名声に傷は付かないってことよ!」


 焼け落ちた麻縄が床へと散らばる。

 初歩の初歩ではあるが、まだ魔法を使う魔力は残っているようだ。


(はったりにしかならないけれど、魔力を奪ったはずの相手が魔法を使ったら、焦るでしょう?)


 目論み通り、アイビーは慌てたように後退る。

 もう少し後押しするため、ステラは体内に残った魔力を総動員させ、魔法を発動した。

 ステラの手に、大きな火炎玉が浮かび上がる。

 大きさを維持するのが精一杯だが、おくびにも出さず、ステラは笑みを絶やさない。


「な、なな、なんで……!!」

「貴女が私の魔力量を見誤ってくれて助かったわ」

「くっ」


 アイビーも魔法を発動させた。

 炎を消すためか、大きな水の玉を作り出している。


「生意気なのよ! 貴女がいなければ、聖騎士様もわたくしを見てくださるのに!!」


 単調にステラへと水の玉が投げられた。

 床に当たり水しぶきを上げたと同時に、ステラは部屋の外に飛び出した。

 足首まで隠れるほどの水か部屋に満ちる。

 ステラは水を回避できたが、アイビーのドレスはずぶ濡れだ。


「やだ、やりすぎちゃった。っ、逃がさないわよ」


 一目でステラが部屋にいないと視認したアイビーも部屋から飛び出した。

 ステラは距離を取るために走る。

 が、同じ景色が続くばかりで、出口や階段が見当たらない。


「待ちなさい……っ!?」

「自分の魔法で、得意な雷魔法が使えなくなってちゃ世話ないわね」

「卑怯なことを……正々堂々戦いなさいよ!」

「あら。呪いをかけるような人に言われたくないわっ……!」


 逃げ回るも行き止まりまで追い詰められてしまう。

 振り返れば、いつの間にかアイビーの後ろには男が二人待機していた。


「形勢逆転ね?」


 にやにやとアイビーたちが迫ってくる。

 ステラは再度逃げるため足に力をこめたが、男達に距離を詰められ、両腕を掴まれる。


「っ、か弱い女性に男性二人とは、卑怯では?」


 痛みに顔をしかめながら口を開く。

 だが、返事はない。


「ふふふ。このままここで穢してあげなさい」


 頷いた男がステラのドレスに手をかけた。

 質のよいドレスが裂け、ステラの白い肌が露わになる。


「っ」


 瞬間。

 全身が沸騰するような感覚が、ステラを襲った。


「な、なによ、これ……」


 アイビーの震える声が聞こえる。

 しかし、ステラには彼女の顔も、自身の腕を掴んでいた男も見えなくなっていた。

 ステラを守るように真っ白な魔力が光の柱のように上る。


 今まで抑え込まれていた力が解放されたような、魔力が噴き上がってくる。

 激情にも似たそれを抑える術を、ステラは知らない。


(ちょ、ちょっと待って。これは、本当に私の魔力なの? 制御が……っ)


 制御をしようと試みるも、箸にも棒にもかからない。

 途方に暮れているとふわりと爽やかな香りが背後に現れた。


「落ち着いて。ゆっくり、魔力を箱に閉じ込めるイメージをして制御をするんです」

「れ、レリック」


 抱きしめられるような体勢に心臓が跳ねる。

 レリックの黒髪が、首筋をくすぐり、ぞわぞわとなにかが背中を駆け上がった。

 耳に彼の荒い吐息があたり、よほど焦って来たのが伝わる。


「遅くなって申し訳ありません。外にいる男達は捕らえました。今は、この魔力暴走に集中してください」

「後で色々聞かせてね。今はこれをどうにかしないといけないから……箱に閉じ込めるイメージで……」


 すると僅かではあるが、光の柱が小さくなった。


「そう、その調子です」

「これ、難しいわね」

「そうですね。これは聖魔力ですから、いつもの魔力制御では制御できません」

「……は?」


 ステラの動揺と共鳴するかのように、光の柱がぐらりと揺れた。


「あ、集中を乱してはいけませんよ。弾け飛びます」

「っ」

「いい子ですね」


 しばらく魔力を制御するために奮闘していたが、まだまだ光の柱は大きい。

 ステラの心に焦りが生じた頃。

 後ろから伸びてきた大きな手が、ステラの手を絡め取った。


「流石にすぐに制御はできませんね。今からステラの魔力を俺に移します」

「え、そんなことしたらレリックは……」


 今度はレリックが魔力暴走を起こしてしまう。

 そんな不安がステラを包む。

 しかし、彼は柔らかな笑みを浮かべるだけだ。


「大丈夫です。膨大な聖魔力を有してるのはステラだけではありませんから」

「でも」

「絶対大丈夫です」

「……わかった。私はどうすればいい?」


 レリックを見上げれば、濁りのない水晶のような瞳と視線が絡んだ。

 絡んだ手を離され、彼と向き合う。


「俺を信じていてください」

「……あなたを信じていなかった日なんて、ないわよ」

「っ、ステラ、愛しています」


 そっと唇が重なる。

 体内で暴れ狂っていた魔力が、一気にレリックへと流れ込んだ。



 ◇◆◇



「それで、事の顛末はどうなったのかしら?」


 あの後、ステラは過保護なレリックによって即公爵家に帰された。

 聖魔力が覚醒したステラは絶対安静だと屋敷の外へ出ることも禁止されて。

 誘拐事件から一週間経った頃、ようやくレリックが面会に来てくれたのだ。

 ステラの隣に座ったレリックは苦笑しながらも答えてくれた。


「アイビー家は爵位剥奪され、処刑が決まりました。王族に手を出したのですから当然ですね」

「シアは?」

「お目覚めになられましたよ。今はリハビリ中です」

「よかった」


 ステラは胸を撫で下ろす。

 ほっと息を吐く寸前、アイビーの言葉を思い出す。


「呪いは?」

「あぁ、あの石にこめられた呪いは聖女の血筋に干渉するものでした」

「聖女の?」

「ええ。取り込んだ魔力から聖女の血筋を割り出し、聖女に近しい魔力を吸い取って昏倒させるようなものです。そのため王女殿下以外にも昏倒した令嬢が数名いました」

「どうしてそんな回りくどいことを? 王族を狙ったのであれば、シアだけを狙えばよかったのに」


 王族を狙った犯行だと気がつかれないためのカムフラージュかと、ステラは首を傾げる。

 しかし、レリックは首を静かに振った。


「逆です」

「逆?」

「……犯人は俺の婚約者になりたかった。だから、万に一つでも可能性があってはならないと聖女を消そうとした」


 レリックの眉間にシワが寄せられる。

 自分のせいでと責任を感じているのだろう。

 ステラはそっと彼の頭に手を回し、引き寄せる。


「貴方に責任はないわ」

「……ありがとうございます」


 自嘲気味な声に、胸が締め付けられる。


「聖女としての素質がステラにはありました。ただ、昏倒といっても少しずつ体力を奪っていくため、すぐに効果はありません」

「そうなの? でも私は魔力がなくなっていたわ」

「はい。焦った犯人は、もう一つ呪いをかけました」

「もう一つ……?」


 困惑するステラの胸に、レリックはぐりぐりと頭を擦り付けてくる。

 思わず頭を撫でれば、小さく笑った声が聞こえた。


「ステラは知らなくてもいいことですよ」

「レリック」

「……対象の魔力を奪い死に至らしめる呪いです。貴女にかけられたのは」

「へ」

「婚約破棄を告げられたことも衝撃的でしたが、貴女が死ぬなんて耐えられなかった」

「……最初から気付いてたの」

「はい」


 頷いたレリックに、ステラは大きくため息をついた。


婚約破棄(あれ)しか、貴方を遠ざける方法はないと思ったのだけれど」

「逆効果でしたね。俺はステラを手放す気なんてさらさらありませんよ。それにステラの目が嫌だって言ってましたから」

「目が……?」

「ええ。呪いに屈しない強い目です。惚れ直しました」

「……別に、強くなんてないわ」


 大切な人との別れが怖くて、遠ざけようとしたのだ。

 強いはずがない。


「ステラは強いですよ。じゃないと呪いに立ち向かおうとしません」

「それは……」

「ね? 俺はステラが何をしようと守れるよう俺の魔力を少しだけ潜ませていました。丁度、防護魔法を発動できるぐらいですね。まぁそれが生命維持に役立つとは思いませんでしたが……」


 頭に回していた手をほどき、そっと握ったレリックは、懇願するような目をステラへと向ける。

 憂いを帯びた無色の瞳に吸い込まれそうだ。


「あの日、ステラが俺の魔力を使ってくださったから、貴女を見つけることができました」

「……そういうことだったの」


 呪われていたにも関わらず、尽きることがなかった魔力。

 それは、ステラを助けてくれていた。


「私、ずっとレリックに守られていたのね」


 愛おしさが胸を埋め尽くす。

 くらくらしそうなほど重たい愛情を心地いいとさえ思ってしまうほどに、彼への気持ちが抑えられない。


「これからも俺を傍においてください。一生、甘やかしますので」


 レリックの色を帯びた瞳が、否定は許さないと言わんばかりに突き刺さる。

 優しく顎を掬い上げられ、ステラは目を閉じた。

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ステラとレリックの関係、めっちゃ切ないけど心にぐっときました!レリックが本当にステラのことを大切に思ってるのが伝わってきて、思わずニヤッと(笑)。ステラの冷たい態度の裏にある気持ちとか、少しずつ明かさ…
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