プロローグ
・プロローグ
颯希はSOUSEIのメンバーを集め、久々に飲み会を行うことにした。場所は第2宇宙の第3惑星地球の衛星軌道にある衛星天体ネオ名古屋市。この衛星全土がネオ名古屋市として占めている。第1宇宙で言えば月に似ている。
第1宇宙の寿命があと僅かになったことで近場の第2宇宙が選ばれた。惑星の並びも第1宇宙と似ていることで、惑星の名前もそれに倣った。
ネオ名古屋市の某ホテルの210号室。
颯希と同じグループに属した他のメンバー迅人・将人・尚人・征樹の5人で飲んで潰れていた。
その日の夜明け前に目が覚めた颯希。
そこは見入っている部屋であって見知らぬ部屋でもあった。
そこには飲み明かした形跡も仲間の姿もなかった。
確かに颯希の記憶では、グループで酒を飲んでいた。姿も記憶している。
どこかしら違うようでならない颯希は、秘密のルートを使って自分に記憶操作がされているか調べることにした。
結果、記憶違いだと判明する。
心の奥底に眠らせておいた腹心を呼んだ。
「ガブリエル…起きろ」
「なんだよぉッ。うっせえな」
心の中で悪態をつき、後頭部当たりの髪をぐしゃぐしゃとしている様子がビジョンとなって、颯希の脳裏に送られくる。
颯希自身がそうやりたい気分になったが、先をすすめた。
「どういうことだ。ここはホントに第2宇宙か?」
「んあっ!?待ってろ…」
ガブリエルの表情筋が沈黙しそうになった。
「どうした?」
「…………………」
「おーい、心から出て来れるだろ。ここには俺一人だぞ」
「んじゃ、出させてもらおう」
何もなかった空間に一人の人物が、目の前に現れた。
普通なら驚くところだが、颯希の能力が生み出した人物というか心に閉まっておける人物を呼び出しているだけ。ごく僅かな人にしか知らせていない。他のメンバーは存在を知っていても、彼らの前では呼び出したことがないほど、極秘中の極秘事項である。
胸筋に厚みはあるが腰は細く締まっているが、均整のとれた肉体をした魔王の腹心ベルゼブブ。暗黒の翼を身体に沿わせ、登場
颯希はお手の物。
「このぐらいの明かりでいいか?」
ベルゼブブもこんな調子で言ってくる。その彼が小首をん?と捻った。
「どうしたんだよ、そのん?はなんだ?」
「さっき呼ばれたときに、兵隊を召喚しておいたんだけど」
「おまえにしては上出来だな」
「これでも将軍職だからな。これくらいは」
「で?」
「んー………」
ベルゼブブは指先を天井に向けて
「第10宇宙」
そして、すぐさま颯希を指し示して
「第2宇宙…空間の捻じれでもおきてるのか?」
颯希はさっきのベルゼブブがしたように、頭をかき乱したくなった。
「ってか昔の名前で呼ぶな」
「ああ、わりぃ。ベルゼブブ。それでどうしてそうなったんだ。お前の立ち位置はどこだ?」
「第3宇宙」
「なんで目と鼻の先で空間が違うんだよ!」
「俺が知るか」
颯希へ手を差し出すベルゼブブ。
「空間のはざまに取り残されるへまはしないだろ」
「あああっ!!!くそっ!」
そこには宇宙空間という違う宇宙の空間があるのだが、お互いなんなくやってのけてしまう。
「で、もう第3宇宙なのか?」
「そうなるな」
「一体全体どうなってる。俺がちょっとうたた寝しただけで。空間が捻じれる?」
「俺に言われても困る。お前の中から出たら、宇宙が違ったんだからな」
「でも目視できるんだよな。それ自体可笑しいじゃないか」
ベルゼブブはいきなり颯希にハグした。
颯希の正体は堕天使の長でルシフェル。ベルゼブブの直の上官。
「落ち着けって、総司令官が乱れるなって」
ジタバタしてたルシフェル。部下だが年上のベルゼブブに宥められ、一息つくことができた。
「悪かった。で、限りある情報の中で、こんなことができる要因を述べてくれ」
「俺が知りたい。あの方に聞いた方が早いんじゃないか」
ベルゼブブが言ったあの方とは、ルシフェルでさえ口には出したくない人物だった。
「嫌だ。絶対あいつには連絡しないからな、それにむやみに口出すな」
「悪かった」
そこまで嫌な相手だとはベルゼブブも分からず、説いてみたが藪蛇だった。頭を擦って困った素振りをするベルゼブブ。
「交信してみればいい。メンバーと。俺が探すより速いだろう」
「…そうだな」
(迅人、将人、尚人、征樹。いるか?連絡求む)
颯希は心の中でSOUSEIのメンバーの名前を呼んだが、応答なし。
宇宙が違うと通常、交信するには別宇宙空間通信機器が必要になるのだが、ルシフェルの心の欠片を彼らに分からないように植え付けたんだ。こういった想定はしていなかったが、繋がるはずだと、ルシフェルは自問自答した。
「どうだ?」
「連絡なし」
「ベルゼブブ様、報告があります」
指先程のちっこい兵隊、ベルゼブブの親衛隊の一人が報告にきた。妖精のような羽を持つ男の子。
「ルシフェル様が救助されたことで、残っていた第2宇宙が消滅しました」
ビシッと敬礼して、下がる合図を待っている。
「……第2宇宙が消滅!?」
2人してあんぐり空いた口が塞がらない。素っ頓狂な声が発せられただけだった。
「じゃあ、あいつら、どこに飛んだんだよ」
「お前の浅はかな考えが仇になったな」
ベルゼブブを睨みつけるルシフェル。
「どういうことだよ?」
「万が一を想定してのことだろうけど、心の欠片を埋め込んだことで、どの宇宙に存在するのかわかんないぞ」
「分かる範囲でいい、今現在の宇宙の数は幾つある?」
下がることを許されなかった先程の兵隊くんが、敬礼をしたまま答えた。
「報告します。現在の宇宙の数は777。ラッキーセブンと言われる数字になります」
胸を張って、軍服をまとっての最敬礼の親衛隊1号くん。
他の親衛隊も似たり寄ったりで区別は付きにくいが、個にしてみれば別なのだろうが、ルシフェルからしてみれば自分の兵隊ではないので、細かくは気にしていない。
「わかった。下がれ」
下がる命令を出されたことで、胸を撫でおろし、ホッとしている親衛隊1号くん。軍人らしく、足元をしっかりと固定するかのように回れ右で180度回転した
そして、上に飛んでいくのである。
後ろを向いた意味がないのだが、この際、言っても仕方ないことだ。
「別宇宙間通信機器を使いながら、一つ一つ探すのか」
ルシフェルが頭を掻きながら言う。
「自分の心の欠片だろ。意識飛ばせないのか」
ベルゼブブは自分の親衛隊長に脳波で電波を飛ばし、部下からの連絡を待っていた。
「反応なしだって言ってるだろ」
「それはおかしいだろ。自分の分身の位置が分からないって」
眼が点のルシフェル。そうなのだ。分身を彼らに内緒で埋め込んだチップの存在位置がわからない。ありえないことにルシフェルの頭がショートしたかに思えてならなかった。
大きく腕を振って、掌に拳を打ちつけた。
「そうだよな。普通に考えたらあり得ないことが起きてんだよな」
「そういっているだろ。ルシフェル様…と呼んだ方が思考回路元に戻るか?」
「それはやめろと言ってるだろ。今度言ったら挨拶もできないぐらいの下っ端に降格してやろうか?」
「悪かった」
ベルゼブブの力もルシフェルに匹敵するのだが、ありのままのルシフェルにゾッコンで好きで部下を務めている。
挨拶も見ることさえできないぐらいまで降格になったら、生きた心地がしないとばかりに冷や汗を垂らして、即座に謝った。
ルシフェルもそんなベルゼブブだから、そばに置いているのかもしれない。
「分身の位置が分からない。消滅したわけでもなさそうだ。考えられることは?」
「通信妨害状況下での拉致監禁とかか?」
「あり得ないだろ。俺がいる目の前で、残り4人を拉致?」
「…だよな」
「それに通信妨害って言っても精神直結型の交信だぞ。妨害できるのか?」
ベルゼブブはそれこそもう一度、頭を掻いて考えこんだ。
「誰か居るか?」
その声に一人の親衛隊の兵隊が反応した。
「何でありますか?ベルゼブブさま」
「こいつの他に第2宇宙に残ってた生き物は、他に居たか?」
親指をルシフェルに指し、言い放ったベルゼブブ。
「いえ。最後はルシフェルさま、唯一人です」
親衛隊の兵隊もビシッと胸を張り答えた。
「ってことは、別の宇宙にすでに跳んでるか」
「ん?」
ベルゼブブが机の上においてあったポットに首をかしげていた。
「そのポットがどうかしたのか?」
「手を振ると答えてるように思えるんだが、おまえが」
「綺麗なポットだから映ってるだけじゃないのか」
「それなら分かるが、中にお前が居るんだよ。そいつが手を振っている」
「俺はポットにプリントした覚えはないぞ。そんな仕事も受けたことはない」
「だから見てみろって」
どこにでもある電気ポット、下の台座の部分から電力を得て、沸騰し、湯を沸かす。その綺麗に磨かれたポットの表面に、ルシフェル自身が映っている。
言われたので手を振ってみた。すると表面に写っている自身が遅れて、手を振ってくるのだ。
人間なら卒倒ものだが、何せ元天使で現在魔王をしているルシフェルにしてみたら、玩具みたいなものだ。
「えーっと、これは?もしかしなくても…主?」
「良かったぁ生きててくれたんだね。探して…ごめん」
それだけ言って、一方的に交信が途絶えた。
「ちょっと主…」
「探してくれって、創造の主だろ」
「………たぶん、コレのせいだろ?」
ルシフェルはポットを片手にひっくり返してみせた。そこにはSOUSEIのメンバーがプリントしてあった。
でもルシフェルにはわかった。これはプリントやそんなもんじゃないことが。心にズキズキと突き刺さってくるものがあった。俺たちはここに閉じ込められてる。開放してくれと目で訴えてきてるようにルシフェルは写った。
「颯希の仲間か…」
「閉じ込められてるんだと。どこかに。コレは…その欠片の一つかな」
怒気が一瞬帯びたルシフェル。
彼らの視線の先で、指で合図を送る。
ここに入ってと、ルシフェルは自身の心へ、それらを誘導した。
何が原因でこうなってしまったのかわからないけど、その欠片が救済できることが何よりの救いだった。涙は頬を伝って落ちた。
それでも一人一人の視線の先で誘導して、心に入ったと確信できるまで念入りに動作を繰り返した。心に入ったかどうかは彼らの目の生気が失われることで確認した。
「ごめんってのも気になるが、心当たりは?」
「…ないが、主、俺の中で眠っているなら、答えて。今どこ?」
ベルゼブブは一瞬、首を傾げかけててやめた。主とのやり取りの仕方をしらないからだ。
「全宇宙」
「主は俺の中?無事?」
「ごめん」
「謝んなくていいから…主…主?」
ルシフェルは両手を広げて見せた。お手上げ状態と言わんばかり。
「でも、主さまがヒントなのか?」
「近寄れば反応するかも知れない………ベルゼブブ。全宇宙の旅に出ようか」
満面の笑みでハグしそうなベルゼブブを躱し、立ち上がった。
このときのベルゼブブを表現するなら、大型犬がはしゃいで飛びつこうとしている様だと、のちに仲間たちに表することになる。
「まとわりつくな」
ルシフェルは手で抑えようとしたが、それでもベルゼブブがじゃれついた。
「じゃあ、行くか。全宇宙の旅」
満面の笑みを浮かべて、振り返ったベルゼブブ。
「おまえが仕切るな。隣に居たきゃ、翼ぐらい隠せ」
「ぉおお」
ルシフェルに背中を押され、仰け反りそうになったベルゼブブ。
お互いがお互いを見て、二人は第3宇宙に別れを告げた。そして別の宇宙空間に姿を現した。そこはすでのベルゼブブの親衛隊及び一般兵で調査済みの惑星だった。