暖房
三題噺もどき―ごひゃくななじゅうに。
部屋の空気が冷たい。
外が曇っているせいで、陽の光が入ってこない。
それだけで、こんなに冷えるのかと思う程に部屋の中が寒い。
この家に住みだして、それなりに年数は経っているはずだけど、何度体験しても寒さに驚く。
体の底から冷えるような寒さなんて、家の中で体感するようなもんでもない。
「……」
これでもそれなりに厚着しているんだけど。
裏起毛の上下セットのパジャマに、履きつぶされたルームシューズに、ふわふわのお気に入りのひざ掛けをしているのに。捨てられたと思っていたルームシューズは自室のクローゼットの中に見つけた。たまたま探し物をしていたら、ひょこりとペンギンの顔が見えたのだ。せっかくだからと一応履いてはいるけどたいして意味はない。
足の指先が冷えているし、手の指先も冷えて仕方ない。おかげでリズムゲームが全くできない。今はイベント期間ではないからいいけど……去年どうしてたんだろう。
「……」
しかしもう、厚着だけではどうにもならないんだろうな。
そろそろ暖房をつけるなりなんなりしないと、寒さで凍えてしまう。
家の中でそんな経験したくないっての。
もう少し天気が良ければ、それなりに温かくなるんだけどなぁ……外の気温に影響されやすい室内ってなんだ。
「……」
何をするわけでもなく、机に座っていただけなので。
暖房機器でも引っ張り出してこよう。
部屋の隅には、未だに直されていない扇風機が居座っているものな。
……あれがあそこにずっとあるのもおかしいんだろう。
「……」
去年の今頃って、ほんとにどうしてたんだろう。
もう12月に入ろうと言うのに、扇風機が出しっぱなしで、暖房もつけないで、リビングは炬燵も出されていない。パジャマと寝具だけは冬用に変えたけど、これだって最近の話だ。ホントは一回干したいんだけど、天気に恵まれない。
「……」
ひざ掛けをベッドの上に放りなげ、椅子から立ち上がる。
ホントに、いい加減新しいルームシューズを買わないと、機能してないんだよなこれ。結構気に入っていたのだけど、基本的にずっと履いているし……これが原因なのかは知らないが、足の裏に汗をかきやすいので、結構へたっている。
「……」
まぁ、それはそのうち解決するとして。……どうせ、そろそろ母あたりが冬用の何かを買いにファッションセンターに行くだろうから、その時にでも探そう。同じタイプのは毎年出てるらしいからな。
「……」
やる気のないルームシューズを履いたまま、自室の戸を開き、廊下を挟んですぐ目の前にある扉を開く。
そこまで広い家でもないので、廊下といっても数歩分の広さしかない。
「……」
開くと、ヒヤリとした風が軽く吹き出してきた。
ここはいつでも冷えているな。まぁ、物置だからそんなものなんだろうけど。それなりに頻繁に開けているんだけど、開けるたび冷たいと思う。
「……」
たいした広さもない物置の奥に置かれているヒーターを見つける。
あれ……あのタイプだっただろうか。いやそうか、私以外ヒーター使う人いないから去年も使っていたやつあれか。みんなエアコンで済むからな。
「……」
そこまで古いものでもないが、いつ買ったのかも分からない程には家にある。
オイルヒーターである。
上に置かれている夏用の掛け布団などを適当にどかし、引っ張り出す。
「……」
しかし去年これ使ったかな……と、今更ながら思いだす。
あまり温まらなくて使わなかったような気もするんだけど。はて。
割と乾燥が酷くなるだけで、暖房機器としての機能をちゃんと果たしていたかどうか……。
「……」
まぁ、とりあえず使ってみて、いらなさそうなら使わなければいいか。
本当は、机で座っている時に使える、足元だけを温めてくれるやつとか欲しいんだけど。あれはあれで正直使うのが怖い、というかなんというか。パソコンがあったり、近くにコンセントがあったりで、どうなのだろうと思う。そこまで気にしなくてもいいものなのかな。
「……」
引っ張り出してきたヒーターの代わりに、扇風機を物置の中に入れる。ホントは、掃除とかしたうえで何かをかぶせた方がいいんだろうけど……今日はそんな気力はない。もうとにかく寒いので何か暖を取りたい。
「……」
ヒーターのコンセントを刺し、スイッチを入れる。
……あったかくなりそうな気配が一ミリもしないんだけど、大丈夫だろうか。こんなもんだったかな。まぁ、とりあえず放置しておこう。匂いが気になりそうだから、窓も開けておくか。
「……」
ほんの数センチほど開けた窓から、野良猫の声が聞こえた。
彼らは寒くないんだろうか。きっと寒いだろうに。私でさえこんなに寒いんだから、室外にいる彼らが寒くないわけない。それでも、生きる術というものはあるからきっと彼らは強い。
「……」
室内にいる癖に、寒さに震えて。
暖房機器に文句ばかり言っている。
そんな私とは大違いだ。
お題:古い・扇風機・野良猫