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秋2

山の木々が赤く色づく、涼しい秋の日のことである。見慣れた気配に気づいて、私は目を開けた。


「もういい!お母さんなんか知らない!」


目を開けた時に聞こえてきたのは、声変わりしかけの、中性的な声だった。

制服を着崩した少女が、橋を走り渡ったのである。


そしてその後を、顔に皺を作った彼女が追ってきた。彼女は橋の入口で立ち止まった。


「まったくもう、思い立ったらすぐなんだから」


呆れたように彼女が言う。

携帯を取り出して少し操作した後、彼女は家の方へ戻っていった。


少女の向かった先を見てから、私は再び目を閉じた。


ーーー


その翌日のことである。


目を開けた時、彼女と先日の少女ーー彼女の娘が、橋を隔てて向かい合っていた。


無表情な彼女と反対に、娘の方は敵意をあらわにしていた。


「優奈、落ち着いて話を聞きなさい」


彼女の方から口を開いた。

諭すように娘に言う。


「お母さんはね、仕事の関係でずっと日本に居られないの。あなたが一人じゃ心配だから…」

「じゃあ一人で海外行けばいいじゃない!私は一人で大丈夫よ、おじいちゃんもいるし!」


遮るように娘が叫んだ。

親子喧嘩であろうか、かなり拗れているようだ。


「お父さんはもう歳なの。分かって」

「うるさい!とにかく、海外には行かないから。大体、お父さんが死んだのだって飛行機で…」


言いかけて、娘はハッとして口をつぐむ。

彼女は悲しそうな顔をして、うつむいた。


「……そうね。無理に連れて行くのも、ダメね。お母さんが悪かったわ」


重い沈黙の後、彼女が静かに言った。

娘は目を合わせようとしない。


「ごめんね、優奈」


哀しそうな声色の後、彼女は家に戻っていった。

出国の為の荷造りでもするのだろうか。


橋には娘が残された。

俯いていた彼女は、そっと橋に寄りかかった。


「川の神様が、見ている橋って言うけど…」


ボソッと口から声を漏らし、橋の上にうずくまる。


「神様なら、助けてよ…」


絞り出すような、悲痛な声だった。


「怒鳴っちゃう私を、上手く言えない私を、助けてよ……」


静かな小川に、小さな嗚咽が木霊する。

私は、彼女が泣き止むまで目を開けていた。

落ち葉が作る緋色の川面に、ゆらゆら流れる時間を感じながら。


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