横浜特許許可局
幕が上がる。縦長と横太のコンビが駆け足で登場し、並んで立ち止まる。
警察官の制服を着る長身スレンダーの若い女性が、寿間穂波。もう一人の太った中年男性、馬護律郎は、いつもと同じく青い半袖のワイシャツと霜降りグレーのスラックス。
この二人、神奈川県警本部の刑事部では、「刑事一課の迷コンビ」として名を馳せている。
》ツッコミ担当のマゴリ警部(馬護律郎)が叫ぶ《
マゴリ「気をつけぇ!」
》ボケ担当のスマホ刑事(寿間穂波)が答える《
スマホ「了解っす!」
》一呼吸ほどの間を置く《
マゴリ「神奈川県警本部長に、敬礼!」
スマホ「はっ!」
》二人は、やや斜め左を見上げ、ビシッと敬礼する《
》硬い表情だったスマホ刑事の顔に、輝かしい笑みが溢れる《
スマホ「どうもこんちは! 刑事一課捜査二係の主任、寿間穂波っす」
マゴリ「俺はマゴリ警部だ! 刑事一課で課長補佐をやっとる!」
スマホ「早速っすけどマゴリ先輩、今日も自分にバッチリ教えて下さい」
マゴリ「おうよ! そんでスマホ、今日は、なにを教わりたいのだ!」
スマホ「立て篭もり犯を説得するのに必要なことっす」
マゴリ「そりゃあ、まず大事なのは、よい滑舌だ!」
スマホ「えっ、豚カツとか牛カツのことすか?」
マゴリ「それはカツレツだあ!」
》マゴリ警部が、スマホ刑事の頭に拳骨を落とそうとする《
》スマホ刑事が、俊敏な動作で見事にかわす《
》マゴリ警部が、少なからず苦い顔を見せる《
》スマホ刑事が、いわゆる「しれっ」とした顔で言う《
スマホ「カツ丼とか食べさせて、犯人に自首を促すのでしょ?」
マゴリ「違うわ! 俺が言ったのは滑舌だ!」
スマホ「それって、おいしいっすか?」
マゴリ「食い物じゃねえ!」
スマホ「え、それなら、なんすか?」
マゴリ「よい滑舌というのは、ハキハキして、聞きやすい話し方だあ!」
スマホ「ああ、そうっすか。でもそれ、どうすれば身につくっす?」
マゴリ「訓練だあ!」
スマホ「どんな?」
マゴリ「早口言葉だあ!」
スマホ「えっ、早口すか??」
マゴリ「そうだあ! この俺が手本を示すから、よく聞け!」
スマホ「は、了解っす」
》スマホ刑事が、マゴリ警部に向かって敬礼する《
》マゴリ警部が、大きく息を吸い込んでから早口で言う《
マゴリ「ヨコハマ、トッキョ、キョカキョク!」
スマホ「わっ、マゴリ先輩すごっ!」
マゴリ「おうよ。さあ、テメエも言ってみろ!」
スマホ「よこひゃま、ほっきょく、ぴょぴょぴょ」
マゴリ「こらあ、言えてねえにもほどがあるぞぉ! やり直せぇー!」
スマホ「よこちゃま、ペンギン、ぴょぴょぴょ」
マゴリ「ペンギンじゃあねえだろがっ!」
スマホ「よこすか、なんきょく、ぴょぴょぴょ」
マゴリ「横浜だ! 勝手に場所を変えるな!」
スマホ「よこはま、クジラも、ぴょぴょぴょ」
マゴリ「いやクジラは、ぴょぴょぴょ言わねえよ!」
スマホ「マゴリ先輩、一緒に、ぴょぴょぴょ」
マゴリ「いや俺は、もっと言わねえ!」
スマホ「そんなこと言わず、さあ先輩も、ぴょぴょぴょ」
マゴリ「だから、俺は絶対に言わねえっての!!」
スマホ「ぴょぴょぴょ一回につき、バナナを一本、差し上げます」
マゴリ「なにぃ、そりゃあ、本当か!?」
スマホ「はい」
マゴリ「おう、よっしゃあ! ぴょぴょぴょ、ぴょぴょぴょ、ぴょぴょぴょ、ぴょぴょぴょ、ぴょぴょぴょ、ぴょぴょぴょ、ぴょぴょぴょ、ぴょぴょぴょ、ぴょぴょぴょ、ぴょぴょぴょ! はあ、はあぁ~」
》マゴリ警部が苦しそうに息を荒くする《
》二呼吸ほどの間を置く《
マゴリ「さっ、さあスマホ、俺にバナナを十本くれぇ~」
スマホ「ただし、欲張って十回以上言った人は失格となります」
マゴリ「なんだそりゃあ!! 気合い入れて損したわ!」
スマホ「よこはま、マゴリ先輩、ぴょぴょぴょ十回も」
マゴリ「もぉええわー!!」
二人「「どうも、ありがとうごっざいましたぁー!」」
二人は、敬礼してから走り去る。幕が下りる。