第148回『くだらない 承認欲求 白装束』
YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第148回『くだらない 承認欲求 白装束』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約1時間17分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=fneREW3m88Y
↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/
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ある日俺は友人のKに喫茶店へと呼び出された。
メールではなく直接会うなんて珍しいなと思った。
考えてみると、Kとは連絡を取り合うことすら久しぶりだった。
なんでも相談したいことがあるという。
なぜそれほどKとは親しくなかった俺に相談をするのだろうと思ったが、Kは友人が多いタイプではなかったので、消去法的に俺が選ばれたのだろうと自分を納得させた。
喫茶店に入ると、Kはすでにテーブルに座っていた。
彼の肩はがっくりと下がっていて、目の前に置かれたコーヒーは一口もつけられていないまま冷めていた。
「どうしたんだよ、暗いな。」
俺が声をかけながらイスに腰を掛けると、Kははっと顔を上げた。
目の下はクマがひどかった。
「わ、悪いな、一ノ瀬。わざわざ来てもらって。なんでも頼んでくれ、おごるから。」
そう言ってKは俺の方にメニューを差し出した。
おごってもらう気はなかったが、俺はそのままホットコーヒーを注文した。
「それで相談ってなんだよ。」
おごると言い出すからにはお金の相談ではないだろうと安心した俺は、さっそくKに切り出した。
Kの肩が少しびくっとしたのがわかった。
そして顔を上げたり、言い淀んで顔を下げたりを繰り返した。
「そんなに言いづらいことなの? 別に笑わねえから早く言えよ。」
俺はコーヒーを飲んだ。
「言いづらいというか、言っていいものなのかどうか困ってるんだ。」
Kは俺が人に言いふらすのを心配しているのだろうか。
だとしたら名指しで呼び出しておいてそれは失礼だなと思った。
Kは俺の顔を見て、あわてて否定した。
「違うんだ。これは僕の問題で。つまり、僕は今毎日がんばっていることがあって、それは自分のためだからいいと思ってたけど、続けているうちにだんだんどうしても誰かに話したくなったというか……。」
そんなくだらないことかと俺は肩の力が抜けた。
友人の少ないKは誰かに自分の自慢話がしたくなったのだろう。
要するに承認欲求を満たしたくなったのだ。
だとすれば話は早い。
彼の自慢話を聞いて適度にほめて終わりだ。
「へえ。何やってるの?」
ところがKは口をつぐんだ。
「言っていいのかどうか……。」
「いいって。まじめに聞くから。」
「いや、人に言うべきじゃないというか、言ったら効果がなくなってしまうんじゃないかと心配して……。」
「効果? でもお前は言いたくて仕方ないんだろ?」
俺が眉をしかめると、意を決したKは堰を切ったように話し出した。
「実は俺呪いの藁人形をやってるんだ。丑の刻に白装束を着て森に行って藁人形に釘を打ち付ける奴。それを毎晩毎晩。」
俺は言葉を失ってしまったが、Kは続けた。
「でもこういうのって人に隠れてするもんだろ? どうしよう? もう呪いは効かなくなっちゃうのかな?」
Kの形相は必死で俺をからかっているわけではないことはわかった。
「へー、すごいじゃないか。丑の刻参りを毎晩やるなんてそうできることじゃないぜ。大丈夫。俺に話したところで、効果はあるさ。」
俺は頭の中で急いで言葉を探して、次々と使えそうな言葉を並べていった。
するとKの顔に少しだけ明るさが戻った。
「そうかな?」
「ああ、そうさ。ところでそこまでして誰を呪っていたんだ?」
「お前だよ、一ノ瀬。」
Kがさっきと変わらない調子で言うので、俺は彼の言うことが一瞬飲み込めなかった。
「僕は前々から一ノ瀬のことが気に入らなかったんだ。だから呪い殺そうと決めたんだ。」
すると突然俺の胸に激しい痛みが走った。
この痛みはまるで太い鉄の棒を刺されているような痛みだった。
俺は胸を目いっぱい抑え込んだ。
「ぐ、ぐぎぎ……。」
「あれ? 呪いが効き始めた? もしかして死ぬの?」
俺の苦しむ姿を見て、Kは舌をのばしながら喜び始めた。
「一ノ瀬の言う通りだったよ。人に話しても効果は消えないんだ。ありがとうなっ。」
「ち、違う……。これは、呪いじゃない……。」
そうは言ったものの、健康診断で毎年異常なしとなっている俺には呪い以外は考えられなかった。
このまま死んでしまえば、Kの呪いで死んだことになる。
俺は俺を呪ったKにそんな成功体験はさせたくなかった。
Kの承認欲求を満たさせるわけにはいかないと思った俺は、はしゃいでいるKをよそにまわりを見渡した。
すると隣りのテーブルで男女がパンケーキを食べているのが目に入ったので、すぐさまナイフを奪い取るった。
そして最後の力をふりしぼってナイフを自分の胸めがけてまっすぐ突き刺した。
鮮血が噴き出て、やがて俺は死んだ。
これで俺は自殺で死んだのであって、Kの呪いによって死んだわけではなくなった。
もう俺は死んでしまったので確認する手立てはないが、憎い俺を呪い殺すことに失敗したKはさぞ悔しがっていることだろう。
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~感想~
承認欲求を満たしたいがゆえに丑の刻参りのことを話してしまうという話を考えてオチもできていたのですが、そのオチにいまいち踏み切れずずっと迷いながら書いていました。
途中で何度も他のオチを考えてそのための伏線をどう入れようかと考え直してどんどん時間ばかりを食ってしまいました。
キャラクターや関係性も定まりませんでした。
呪いなんて話をやったせいか、ただただ苦しかったです。