エピローグ(冬夜宅にて)
いつもの3人が、いつもの4人になり、それが普通になっていく。
◇ ◇ エピローグ(冬夜宅にて) ◇ ◇
間もなく始まる1学期中間試験を前に教師たちが発破をかける。
『この学校の試験は甘くないぞ。』と。
だから、こうして勉強しているというわけでは決してない。
ただこの4人でいる事がとても楽しくて仕方がない、それだけだ。
友達の定義。
ある時冬夜が言った言葉がずっと胸の奥に居座っている。
・・・
『友達ってさ、どこからがそうなのか考えたんだ。
一人でいるよりソイツと居た方が楽しいからなのかなって。
だけど、一人より二人、誰かといたほうが楽しいのはなんか当たり前なんだ。
だとすると・・・』
『だとすると?』
『俺は逆に考えてみたんだ。
暇な時に一緒にいられる奴ってめったにいないよなって。』
『暇な時間を共有できる奴が友達って事か?』
『俺はそれが凄くしっくり来たな。
君尋と、蒼苺と何にもしなくてもとりあえず一緒にいるだろ?
それが凄く居心地がいいんだ。』
・・・
いま、その友達の輪に咲蕾が加わっている。
今日の勉強会会場はその咲蕾宅だ。
「まぁまぁまぁ、今日もいらっしゃい。
ゆっっっっっくりしていってね。」
相変わらずの大歓迎っぷりだ。
・・・
普通は2人づつカップルに分かれて勉強するんだろうな。
イチャイチャしながら・・・
そう思いもするのだが、今の俺達は4人でいる事がとてもしっくりくる。
それに・・・
『2人だと空気が甘くなってしまう。』
そう言ったのは当の冬夜だ。
コイツがこんなことを言うとは本当に思いもしなかった。
初めての彼女とイチャイチャしたくねーのか!
・・・と突っ込みたくもなる。
だが、おそらくは・・・
(自分の心を持て余してしまうんだろうな。)
なんてこの親友の心の中を想像してみたりする。
そして蒼苺。
彼女が俺に『恋し直してくれた』のは嬉しい。
だが、それには多分にあの映画の影響がありそうだ。
ふたたびあんな事にならないためにも、この幼馴染を楽しませてやる努力をしないとな。
冒険心を刺激できるように、
ドキドキさせられるように・・・
・・・でもそれって、・・・難しいよなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日の勉強会は冬夜宅。
一般的には『立派な家』という表現があっている。
ただ、そこに彼の両親はいない。
「 「 おじゃましまーす 」 」
「はい、どうぞ。」
冬夜に招き入れられて、3人で2階にある彼の部屋へ行く。
「凄い、片付いてるね。」
「俺と違って几帳面だからな、冬夜は。」
「君尋君のとこも綺麗だったよ?」
「それはまぁ、あれだ。」
「どこかの誰かさんがやってくれてるんだよね~。」
「あっ! あ~! そうなんだ。
なんだか本当の夫婦みたい・・・だね。」
「はい、お待たせ。」
「あ、ありがとう。」
間もなく冬夜が飲み物を持って入ってきた。
・・・
「ところで冬夜君、ご両親はいつも遅いの?」
「ああ・・・いや、両親は月1,2回しか帰ってこないよ。」
「えっ?」
「こんな広い家を使い放題だ。隠れ家にもってこいだろ!(笑)」
「えっと・・・」
「まぁ、隠すことじゃないか。
俺の両親は政略的な結婚でね。
跡取りだけ仕方なく作って、後は好きにしてるのさ。」
「・・・それって、ずっと・・・一人で・・・?」
「いや、小学校に上がってからこの二人がいたからな。
しょっちゅう遊びに来るし、寂しくなんてなかったさ。
あと、毎日ヘルパーさんも来てくれる。
今日は断ったけどね。」
「今度から二人っきりにしてやろうと思ったんだけどな、
デレ過ぎる自分が許せないらしいぞ、コイツは。」
「ねつ造するなよ。(笑)」
「盛ってはいるけど、あながちねつ造でもないよね~。」
ボッと赤くなって俯く咲蕾。
ちょっと弄っただけで、それも冬夜を弄っただけでこの顔だ。
こりゃ二人っきりじゃ勉強どころじゃないか。
「本当言うとさ、小さい頃は死にたくなるほど寂しかったんだ。
寝る時は特にね。
大抵泣きながらだったな。(苦笑)」
「幼稚園には来てなかったもんな。」
「だな。昼間はずっとヘルパーさんがいて、晩飯拵えて帰ってしまえばずっと一人だった。
だけど、小学校でこいつらと一緒になったからな。
そっからの俺は嘘みたいに幸せだ。」
「どうしたんだ?急にしんみりさせて。」
そこで何故か吹き出す冬夜。
「お前達が甘い空気作るからだろ。
勉強にならない。(笑)」
どうやら本当に甘い空気に慣れていないらしい。
それもまぁ人生勉強だよな。これからだ。
『ぽすん!』
既に涙目の咲蕾が甘く冬夜にパンチを繰り出す。
「思った以上に相性良さそうだな。」
「だねぇ。負けてらんないね。(微笑)」
そう言って大胆にも抱きついてくる。
イヤ、さすがにこの二人の前でこれは・・・・・・。
と思っていたのだが・・・
「あっ・・・えっ・・・」
そっと咲蕾を抱き寄せる冬夜。
参った、参りましたよ。
俺も負けじと抱きしめる。
愛しい愛しい幼馴染を。
お越しいただきありがとうございました。
ただただ、甘々なものを求めた結果、こんなになってしまいました。