エルチェカ・ベル・レイムーン公爵令嬢について①人生3回目
わたし、エルチェカにやっと4歳の誕生日がきた。
でも、お誕生日パーティにはとっても不満。
だって、お城で豪華にパーティーを開いてもらいたかったのに、ダメだって言うんだもん。
わたしはレイムーン家の一人娘なんだから、お城でパーティーを開いて、たっくさんの人を呼んで、祝うべきだったのに。
結局、わたしの屋敷に呼ぶことができたお友達は80人だけだし、届いたプレゼントはたったの50数個。もっとたくさん用意して欲しかったわ。こんなお誕生日パーティーじゃ、全然嬉しくない。
それにミラスター王子が誕生日パーティーに来てくれなかった。
ミラスター王子はとてもかっこいいって、みんなが言っていたわ。だから、母様と父様に、ミラスター王子と遊びたいってお願いしてあるの。
そうしたら、わたしとミラスター王子の婚約が決まったって!
夕食の席で母様から発表されて、さいっこうにハッピー!
嬉しい!そう思ったのに、次の瞬間、頭にたくさんの出来事が流れ込んできた。渦を巻きながら、目に焼き付いていく。
「いやーーーーーーーーー」
経験したことのない激しい頭の痛みに襲われた。椅子から転がり落ちる。用意されたディナーが床に落ちた。
まばたきができない。目をカッと見開きながら頬に涙が流れた。呼吸ってどうするんだっけ。頭が割れそうだよ。助けて助けて。頭を抱えて、床の上を転がりまわった。
狂ってしまいそうな痛みの中、わたしは意識をなくした。
薄れゆく意識の中で、私の元に走り寄る両親と兄の姿がかすかに見えた。
✦ ✦ ✦
『他に好きな人ができた。婚約を解消してもらう』
『君のわがままにはうんざりしていたんだ』
『ソフィに何をしていた!ここまで腐った人間だったとは・・・』
私はあなたが好き。焦り。喪失。怒り。
うんざりしてたなんて、今まで一度も言ったことなかったじゃない。悲壮。苦痛。羞恥。悪意。
許せなかった。怒号。蔑み。衝動。暴力。
苦しい苦しい苦しい。私を助けてーーーー。
そして私は、山奥にある修道院に強固な日程で送還された。その道中、悪天候により、馬車が崖から転落した。
✦ ✦ ✦
不思議な夢を見た。
私はニホンという国の平民で、身体がとても弱い女の子だった。名前を佐藤綾と言った。ニホンには魔法がない代わりに、科学というものが発展していた。私は、その科学の力で手術を繰り返し、人生のほとんどを病室で過ごしていた。しかし、手術には膨大なお金がかかる。平民が貧乏なのは、どこの世界も同じだった。それでも家族は、できる限りのことをしてくれた。
私は家族が好きだった。疲れ切った顔で優しくなでてくれる両親と、泣き虫で頼りないけど大切にしてくれる兄。ニホンの私にも兄がいた。
でも、とても孤独だった。私はいつも窓から外の世界を眺めていた。もっと自由に動いて、楽しいことをたくさん体験してみたかった。点滴の管に繋がれて、ベッドの上から出ることができない自分の身体が煩わしかった。
そんな私の唯一の楽しみは、スマホの乙女ゲーム。
素敵な攻略対象に愛を囁かれると、寂しい自分を忘れられた。特に『ソフィと秘密の花園』というゲームには心酔した。あの時は、単純に素晴らしい作品だったから、心惹かれたのだと思っていた。
しかし、今ならわかる。なぜあそこまで心奪われたのか。
佐藤綾は『ソフィと秘密の花園』、通称『ソフィ花』の悪役令嬢ーーーエルチェカ・ベル・レイムーンの生まれ変わりだった。断罪されてゲームの世界から現代のニホンーーいや、日本に転生したのだ。
しかし、佐藤綾の人生の時は、エルチェカの人生なんて微塵も思い出さなかった。ただの熱狂的な一人のユーザーだった。
そして私は・・・佐藤綾は18歳の誕生日を迎えてすぐに、家族に囲まれながら天に旅立った。