エルチェカ・ベル・レイムーン公爵令嬢について①悪役令嬢
略して、『ヒールで掌握』。
ゲームの舞台である王立オリオン学園に、私が入学してから半年が経っていた。計画は概ね順調である。
入学直後から立ち上げた“カナリアの会“はまだ波に乗り出したばかりではあるが、徐々に顧客を増やしているし、口コミも好評だ。このままいけば、学園に通う貴族や魔術師の令息・令嬢に多大な貸しを作っておくことができる。
すべては私の計画のため。今回こそ、自分の人生を生き、天寿を全うする。そのための緻密かつ完璧な知略なのである。
私、エルチェカ・ベル・レイムーン公爵令嬢には、過去2回分の人生の記憶がある。
一度目は、今と同じ身体ーーー初恋に焦がれて悪役令嬢として生き、そして愛する人に断罪されたヒール、エルチェカ・ベル・レイムーンの記憶。
二度目は、現代の日本に生まれた、佐藤綾という病弱な女の子の記憶。佐藤綾の人生は、温かい家族に囲まれた幸せな一生だったが、最後は病気に苦しんで齢16歳で人生を終えた。
そして、現在。なぜか私は時間を逆流して、再びエルチェカ・ベル・レイムーンとして、人生をやり直している。
2回分の人生の記憶を取り戻したのは4歳の時。両親から婚約を言い渡された直後だった。
突然、頭の中に膨大な量の記憶と情報が流れ込んできて、激しい頭痛に襲われた。割れそうな痛みの中、私は意識を喪失し、3日間うなされ続けた。
そして3日後に目を覚ました時、私はこの世界の真理を知ることになった。
ここは乙女ゲームの世界だ。
佐藤綾として生きたときに夢中になった乙女ゲーム『ソフィと秘密の花園』の世界である。
記憶を取り戻した4歳から苦節12年。16歳になるまで私は並々ならぬ努力をし、可能な伏線をすべて回収し、満を持してこのオリオン学園に入学した。
今がまさに、私の生死を決める大舞台なのである。
悪役令嬢ものが大好きです。