第36話 黒翼の悪魔 4
「それにしても、なんでここの土地はそんなに魔力が豊富なんだ?」
アルトはテーブルから離脱し、近くの土をいじっていた。
「それが僕にもよく分からなくて……なんだか、白い部屋で変なことを言われたんだけど、それが関係してるのかも……」
「白い部屋?」
アルトは小首をかしげる。
「シルヴァ、お前は何か知ってるか?」
『分からん』
「ふむ」
アルトは顎をさすりながら、草地を歩く。
『キュイキュイキュイキュイーーーー!』
「うわっ!」
土の中から、金の土竜が出てくる。
「あ、ナビ! 今日も元気だね」
ナビはノエルの肩に乗る。
「な……な…………」
アルトはナビを一点に見つめ、目を見開いた。
「幻獣だと!?」
「え?」
『キュ?』
ノエルとナビは、小首をかしげた。
「信じられん。まさか本当に幻獣が存在しているとは……。俺の長い人生でも、幻獣を見ることが出来たのは初めてだ。幻獣幻獣とやかましい集団もいたが、まさか本当に実在したとは……」
アルトは、わなわなと震え、ナビをじっと観察する。
「シルヴァ、お前は幻獣を見たことがあるのか?」
アルトはシルヴァを見上げる。
「私のいた森に幻獣が住んでいることは知っていたが、私もこうして目にするのは初めてだ……。二百年の間でも、幻獣を見ることが出来たのは、これで三回目だ」
「結構見てんじゃねぇか」
ナビはノエルの肩を嬉し気に回る。
「白い部屋でも聞いたんだけど、幻獣って?」
「幻獣。世界に数匹と存在しない、奇跡の魔物だ。通常の魔物の変異種と考えれば理解が容易だろう。その体は金に光り、所有者に数多の地位、名誉、財産、能力、その他諸々の栄華を与えると言われている」
「え、魔物!?」
ノエルはナビを見つめる。
「そうだ」
「そうなんだ……」
ナビは右に左に、首をめぐらせる。
『キュイキュイ!』
ノエルはナビの鼻の頭をくすぐる。
「そいつがいたからこの土地は魔力にあふれていたのか……」
アルトはナビに近づく。
「ノエル、お前は絶対にそいつを逃がすんじゃねぇぞ。シルヴァのじいさんも」
『誰が爺さんだ』
「ナビが僕を嫌いになるまでは一緒にいる予定だよ」
アルトは指を鳴らした。
空中から光の粒子が飛び、ナビに集まってくる。
「え、え、え!?」
ナビが光に包まれる。
「簡易な光の障壁だ。これでそいつは魔王の攻撃でも三回は防げるだろう」
「え、ええええええええぇぇぇぇ!?」
ナビは嬉しそうに、光の粒子の中で小躍りする。
「ほ、本当にアルトって何者なの?」
「魔法学園で勉強中の、最底辺の魔術師さ」
「え……えええぇぇぇぇ……」
アルトはノエルの反応もそこそこに、畑に行った。
「これは……?」
「あ、それは薬草なんだけど」
アルトは畑の中をざくざくと進んでいく。
「薬草なんか育ててるのか?」
「ま、まあ生きるために仕方なく……えへへ」
ノエルは頭をかく。
「僕本当は冒険者になりたかったんだけど、神様からもらった加護が農園だったんだ。だから農園を作ってて」
「ふ~ん」
アルトは指を鳴らした。
「うわぁっ!」
「良い薬草だ。今後精を出せ」
小さな面積でしかなかった畑が、辺り一面に展開される。
「ア、アルト! これって!」
「俺はお前を買ったぞ。これから俺はお前のために出来ることはしてやろう」
「い、いいの!?」
ノエルはミーロを見る。
「はぁ……。その人は一度言ったら、自分の気が済むまでやり続けますよ。好きにやらせてあげてください」
「ありがとう、アルト!」
ノエルはアルトの手を取った。
「僕、こんなに人に褒められたのは初めてだよ!」
「もっと自分を信じな。お前はすごいやつだぞ」
アルトは薬草を取った。
「そしてこの薬草。これほどの魔力を有した薬草を見たのは、俺の人生でも初めてだ。恐らく調合して魔法薬にすれば、最高位の魔法薬になることは間違いないだろうな」
「あ、ちょっと待ってね」
ノエルは胸に手を当てた。
「ラーーーーーーーーーーーーー」
「ん?」
薬草に、アルトに、紫紺の光が降り注ぐ。
「なんだこれ!?」
「ラーーーーーーーーーーーーー」
薬草が燦然と輝きだす。
「ふう」
「な、な…………」
アルトはわなわなと震えた。
「なんだ、お前それ! おい!」
「う、うわあうわあうわあ」
アルトに体を揺らされ、ノエルは目を回す。
「あ、なんだかよく分からないんだけど、祝福っていう加護があるらしいんだ。僕が何かを応援したら、その何かがすごい効力を持つんだって」
「信じられん……。この薬草、本物だぞ!」
アルトは薬草に目を落とす。
「これは、伝説の調薬、万能薬すら作れるかもしれん」
「も~、言いすぎだよアルトは~」
えへへへ、とノエルは頬を染め、笑う。
「というかお前、自分で自分を応援したら戦えるんじゃないのか?」
「え?」
ノエルは自身の手を見る。胸に手を当て、
「ラーーーーーーーーー」
ノエルの体が光り輝いた。
「う、嘘!? 本当、本当だ!」
軽く地面を蹴ると、数メートルも飛び上がる。
「う、嘘!? 本当!? もしかして僕、冒険者になれるかも!?」
「なれるかもな。まあ最初から一人で行くのは危ないから、誰かと行けよ。あと、お前は畑の才能もあるから畑も拡大させてくれ」
「うん! うん!」
ノエルはアルトの手を取り、ぶんぶんと手を振る。
「ありがとう、アルト! 僕がこんなことできるなんて、思いもしなかった! 僕アルトに出会えて幸せだよ! こんな日が来るなんて夢にも思ってなかった!」
「そうかそうか」
ノエルは泣きながら笑う。
「アルトは僕の最高の友達だよ!」
「ふ……そうだな」
アルトも照れ、頬をかいた。
「なんだこれ」
『なんじゃろうな……』
ミーロとシルヴァは、二人の様子を遠くから見守っていた。




