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第2話 転生賢者の失伝魔法 ~五百年後の魔法学園で、俺は伝説になっていました~ 2



「大賢者様、よろしかったのでしょうか」

「何が?」


 裏路地を出、私たちは市場へとやって来た。


「大賢者様自らが動かれるなど……」

「あのねぇ、ミーロ君」

「はい!」


 市場の片隅でミーロが体をこわばらせる。


「ちょっとちょっと、そんなにこわばらなくてもいいって」

「恐縮です」


 ふう、と肩から気が抜けるように、ミーロは脱力した。


「俺もミーロも今は転生したんだ。ミーロも俺のことを大賢者様なんて呼ぶのは止めて、気軽にアルトと呼んでくれよ」

「アルト……様?」

「アールート」

「アルト……」


 ミーロは顔を赤くして、うつむき気味に言う。変な奴だ。


「アルト……」


 何回言うんだ、一体。


「でもアルト様……アルト、大賢者様だったころはアルガロ様と呼ばれていたはずですが、お名前を変えられるのですか?」

「ああ、そうだね。転生もしたことだし、新生アルトとして新しい人生を生きていくつもりだよ。アルトと呼んでくれ」


 アルガロ・ヴァルフ。あらため、アルト・ヴァルフ。うむ、良い名前だ。


「承知しました。ということは、大賢者様だったということは世間には秘密にしておくおつもりですか?」

「ふむ」


 私は顎をさすり、考える。


「それがいいだろう。前世でも、権力を持つにつれて動きづらく、責任も増えてたしね。もうあんな面倒な立場には収まりたくないな」

「かしこまりました。そのようにいたします。私は名前を気に入っているので、生前と同じくミーロと呼んでくださいませ」

「ああ、分かったよ。俺もミーロも、今は対等だよ。俺たちもまた若人からの再出発さ」

「かしこまりました。ですが、その子供じみた喋り方はまだまだ似合ってませんね」

「あはは、そうかもね」


 ミーロは俺の後ろをちょこちょことついてきた。


「へい、らっしゃい! 何にいたしましょう!」


 食料を売っている屋台の前で、私たちは止まった。


「今は、一体何年なんだ?」

「ん? お客さん、今生まれたのかい?」


 がはは、と大きく口を開けて主人は笑った。


「今はシナ歴三〇五六年だよ。面白いこと言うなぁ、あんた」

「シナ歴三〇五六年……」


 生前の私たちは二五一九年だったはずだ。

 あれから約五百年ほどが経っている計算になる。間違いない、私の転生は成功している。


「ここは?」

「お客さん、さっきから意味不明な質問ばかりして、買う気はあるのかい?」

「いいからいいから、ここは?」

「はぁ……ここはサクラメリアだよ。ウェイン地区サクラメリア街三番通路、これでいいかい?」


 聞いたことがない。ミーロを見てみるが、ミーロも首を振っている。


「経済、貿易、冒険、全ての中心地、それがこの街、サクラメリアだろう?」

「なるほど……」


 どうやら五百年のうちに、ここは世界にとって重要なものが集まる枢機となったようだ。

 聞くに、相当巨大な街らしい。


「ありがとう、ご主人。じゃあ何か買おうかな」

「へいらっしゃい! やっぱり買うのかい?」

「これは使えるかい?」


 私は生前に使用していた貨幣を手渡した。

 転生において、私は転生前に所持していた物もいくつか同時に運び出している。


「ん……ん~?」


 ご主人は頭をかしげている。


「お客さん、これなんだい? 一見銀貨のようだけど、見たことないねえ」

「そうか……」


 やはり使えないようだ。暫くは苦労しそうだ。


「で、お客さん、お金あるの? 買うの、買わないの、どっちなの?」

「い、今はお金ないんでまた……」

「はぁ……じゃあまたいらっしゃい」


 ため息を吐くと、ご主人は私たちに手を振った。

 私たちはその場を後にした。隣にいるミーロと共に、道なりに沿って歩く。


「どうやら貨幣のデザインが変わっていたようだ」

「はい、そうですね」


 五百年も経てば貨幣が変わるのも当然だろう。

 だが、その程度のことは想定通りだ。


「仕方ないね。ミーロ、魔道具店へ行こう」

「魔道具店? どうしてですか?」


 ミーロは不思議そうに私を見てくる。

 

「こうなることも見越して、持って来たのだよ、これを」


 私は服の内ポケットから数十枚の巻物スクロールを見せた。


「ああ、巻物スクロールですね」

「その通り」


 魔力を籠めるだけで、誰でも即座に魔法を行使することが出来る便利道具、それが巻物スクロール


 生前は魔法を上手く扱えない村人などに重宝された。

魔法使いにとって、巻物スクロールを作ること自体は難しくはない。ただ、なにせこの巻物スクロール、作るのがとても面倒くさい。


 巻物スクロールで行使した魔法は魔法陣なしで行使する略式魔法よりも効果が持続し、強力になるというメリットもあるものの、作るのにいちいち魔法陣を描かなければいけない上に、魔力を籠めて作らなければ機能しなくなってしまう。


 誰でも作れるがゆえに巻物スクロールは安定した供給があり、値段の大幅な上下もない、一定の相場で買い叩ける便利な道具だった。

 おそらく、五百年後の今もそうだろう。巻物スクロールはそこそこの値段で売れてくれるはずだ。


「考えましたね、アルト」

「何か大きな魔法革新でもない限り、巻物スクロールはいつだって良い価格で買い取ってもらえると信じてだよ」


 転生の際にそこまで重量や体積のあるものを持ち込めなかったがために、薄く価値の上下が少ない巻物スクロールを持ってきたという一面もある。

 

「いらっしゃい」


 看板に魔法薬ポーションが描かれた魔道具店へと入った。


「これを買い取って欲しいんだが」

「はい」


 私は服の裾から一枚巻物スクロールを取り出した。

 転移の巻物スクロール

 非常に複雑な魔法陣をしている上に、籠めなければならない魔力も中々多い。これはいい巻物スクロールを持ってきたものだ。


「これは……」


 私が巻物スクロールを置くと、主人は丸眼鏡を片手で一度上げた。


「嘘だろ、おい……」


 主人はぷるぷると震え、転移の巻物スクロールを持ち上げた。


「おい、あんた!」


 主人が私につかみかかってくる。


「なんだ」

「これ、こ、これ、こ、こ、この、この巻物スクロールどこで手に入れたんだ!? おい!?」

「は?」


 血相を変え、血眼で私に問うてくる。カウンターから半身を乗り出し、私に顔を近づけてくる。

 一体この男は何を言っているんだ。転移の巻物スクロールごときで大げさな。作るのが面倒なだけでどこででも見かけるだろう。


「本物か……本物なのか……!?」


 主人が魔法陣に魔力を注ぎこみ、魔法陣が青白く光る。


「本物……かっ!?」


 主人は天井を仰ぎ見る。


「拾ったのか!? 拾ったのか!?」

「はあ」


 主人のおかしな調子に圧倒され、適当に頷いてしまう。


「あぁ~~~~~~! ちっくしょう!」


 大声を上げ、主人はカウンターを叩いた。

 怖すぎる、この男。


「もっとちゃんとよく見てれば巻物スクロールが見つかるものなのか? いや、古代遺跡から発見されることから考えて、案外人気ひとけの少ない場所なら巻物スクロールが落ちている可能性もあるのかもしれない。こんな坊主が発見できるくらいだ、俺も巻物スクロール探検者シーカーになったほうがいいのか……?」


 主人はぶつぶつと一人で喋りだす。


「おい、ご主人」

「わ、悪かった!」


 はっ、と気づいた主人は私に振り向いた。


「この巻物スクロール、買い取らせてくれ! 是非買い取らせてくれ! 頼む!」

「いくら出す」

「金貨五枚! これでどうだ!」

「金貨五枚ぃ?」


 そんな馬鹿な。高すぎる。あまりにも、高すぎる。生前と貨幣の価値が変わっているのか?


「ミーロ、金貨の価値が下がることはあるのか?」

「どうなのでしょう。貨幣そのものの価値が大きく変動することなどあるのでしょうか。もう少し外を見てくれば良かったかもしれません」


 先ほどの食料店では銅貨を主に使っていたはずだが、今は金貨が銅貨よりも価値が低いのか? 貨幣自体の価値が変わったのか?


「わ、悪かった! じょ、冗談だよ、冗談! 別にふっかけようとかそんなんじゃねぇからさ! 金貨六枚に……銀貨五枚、銅貨五枚まで出す! これでどうだ! こっちもこれ以上は譲歩できねぇ!」

「金貨六枚ぃ!?」


 一体どこまで上がって行くんだ、この巻物スクロールの価値は。


「まぁいいだろう」


 どうせ作ろうと思えばいつでも作れるのだ。それに余りもまだたくさんある。


「まいど!」


 威勢よく言ったご主人は店の奥に消え、ずだ袋に入れた金貨を持ち、帰って来た。


「お客さん、また巻物スクロール見つけたら売ってくださいよー!」


 主人はニコニコ顔で、店から出る私たちを見送った。

 とりあえずこの世界の貨幣の価値を測りに行こう。


「ミーロ」

「はい」

「取り敢えず食料を買いに戻ろうか」

「そうですね」


 不気味な主人のことは一旦置いておいて、私たちは先ほどの食料店へと戻った。







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