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第26話 元剣聖の中年おっさん、呪いを受け迫害されるも、竜族の娘と出会い、再び最強に ~剣聖時代の力を取り戻しましたが、今さら戻ってこいて言われてももう遅い。俺はこの娘とスローライフを楽しみます~ 2



 ザクザクと、雪を踏みしめる音がする。


「……」

「……」

「……」


 俺たちはファフニール討伐に向けて、街から街、村から村を渡り歩いていた。

 幸い、俺たちの中に三名の剣聖がいるからか、顔がきき、村人や街の人たちにもよくしてもらえた。


「サー、今日はこのあたりでいいんじゃないか?」

「……まだ日は暮れていない。急がなければなるまい」

「焦る気持ちはわかる。だが、日が暮れらば視界も悪くなる。夜に魔物にでも襲われたら大変なことになる。今日はここの村の人たちに頼んで、泊めてもらおう」

「……分かった」


 俺たちは村の人たちへと挨拶に伺った。


「夜分遅くにすみません、皆さん」

「はて……」


 俺たちはこの村の村長へ挨拶に向かった。

 村長は俺の声を聞き、家から出てくる。


「な……スノウ・ライズ様!?」


 村長は俺の顔を見るや、五体投地する。


「止めてくれよ、村長、こんなところで」

「ではあとで場所を変えていくらでも……」

「そういうことじゃないんだよ。今、俺たちは国から命を授かってファフニールの討伐に向かってるんだが、聞いたことはあるか?」

「はい、聞き及んでおりますともおりますとも。ささ、皆さんとは言いませんが、私の家へどうぞどうぞ」


 村長のご厚意もあり、俺たち三人は村長の家へ入り、ことのあらましを伝えた。


「それはそれは、本当にありがとうございます。私共もあの竜にはひどく困っているのです。村の者も十名は死にました。あの竜を退治してくれるなら、私たちは喜んでご協力いたしますとも。おい、エマ。お客様にお水を」


 村長は娘に水を持ってくるよう指示した。


「ありがとう、村長。今回のファフニールが討伐されれば、周辺の国からも報奨金が出る。それくらい、各国が困り果てている状況と言うことなんだ。勿論、報奨金が出たらこの村には存分に礼に来る。だから、今日だけでいいから、寝る場所を貸してはもらえないか?」

「もちろんですとも、もちろんですとも。存分に私どもの村をお使いください。剣の腕だけでなく、性格までもが人格者だと、私はよく聞き及んでおりますとも」

「よしてくれよ村長、俺はそんな良いもんじゃない」

 

 ははは、と俺は笑う。


「こっちは俺と俺の愛弟子、オルステッド。そしてサーの三名の剣聖がいる。後ろには五百を超える熟練の剣士、魔術師が控えている。今回のファフニール討伐は期待してくれていい」

「ありがとうございます、ありがとうございます」


 村長は手をすり合わせて俺たちに頭を下げる。


「ファフニールの巣まではもう少しだ。恐らく、数日としないうちに交戦すると思う。あの竜ともほど近いこの村で、よく立派に生き残ってくれた」

「はっはっは、もう村人もほとんど外へ出てしまいましたがね……。残っているのは、昔からこの村に愛着のあるじじいばばあと、少しの子供だけですよ」

「ふ……そうか」


 俺たちは村長と他愛もない会話を交わし、家を出た。


「お前たち、今夜はこの村に世話になることが決まった。静養せよ!」


 サーが兵士たちに指示を出す。


「じゃあ俺たちも明日に備え休むか、オルス」

「はい、お師匠様」


 休息の前に、俺はオルスと、村の人たちに挨拶周りにいくことにした。


「ライズ」

「ん?」


 歩き始めた直後、サーが話しかけてくる。


「もうファフニールの巣も近いな」

「ああ、そうだな」

「この村も、もしかしたら危ないんじゃないか?」

「この村も……」


 ファフニールの巣からはまだ十分に離れているとは思うが、恐らく現時点で、あの竜との距離が最も短い村は、ここだろう。確かに、竜の怒りに触れ、その近辺のみならず、ここまでもし竜がやって来ることがあれば、村の人たちもただでは済まないだろう。


「俺たちの竜討伐に村の人たちを巻き込むわけにはいかない」

「それもそうだ」

「もしよかったら、お前とファウルの二人で、前の村からこの村までで、身を隠せそうな洞窟を探してきてくれないか?」

「分かった。兵は休ませておいてくれ」

「助かる」


 俺は大剣を担ぎ、オルスと目配せした。


「明日は邪竜討伐だ。お前も、しっかり休んでくれよ」

「当然だ」


 俺はサーと拳を合わせた。


「行くぞ、オルス」

「はい、お師匠様」


 オルスを連れ、俺は安全な洞窟や村を探し始めた。


「今までいろんな人に世話になったな、オルス」

「はい、お師匠様」

「明日はついに邪竜討伐だ。頼むぞ、俺の愛弟子よ」

「もちろんです」


 オルステッド、こいつは強い。もしかすると、俺をも超える剣聖になるかもしれない。天性の剣への才能がありながら、努力を怠らない。

 常に考え、何が自分にとって一番適切な方法であるかを見抜き、自分を甘やかさず、延々と剣を振っている。並大抵の人間に真似出来る芸当ではない。もし俺が誰かに超えられるのだとすれば、恐らくはこいつになるだろう。

 世界一の剣の腕前などともてはやされてはいるものの、俺はこいつの才能がある種、憎くすら感じることもある。


「お師匠様?」

「おう、村の人たちが安全に隠れられるような場所があるといいな」

「はい!」


 おまけにオルスは、根が真面目で心優しい青年だ。俺の流派を継いだこいつには、俺の後を継いで欲しいものだ。



 × × ×



「前の村までたどりついたな」

「はい、お師匠様」


 どこか隠れられるところがないか探していたら、通り過ぎた村まで戻ってきてしまっていた。

 五百名以上の兵を連れていないからか、かなりハイペースで動くことが出来た。俺とオルスは引き返し、サーの下に戻る。


「取り敢えずいくつか隠れ蓑になれるような洞窟があったから、目星をつけて報告に行くぞ」

「……」

「どうした?」


 オルスは暗い顔をする。


「お師匠様、俺にはどうしても、あのサーという男が信用なりません」

「サー……」


 オルステッドは、人の心を暴く。透き通った目で、他者の中身を見通すように、射抜く。


「そうか? 俺は特に何も感じなかったけどな……」

「どうも、胸に違和感が残るのです、あの男を見ていると」

「というと?」

「特に、お師匠様を見ている時の目に、何か昏いものを感じるのです。嫉妬と憎悪が入り混じったような、そんな何かを、感じるのです」

「嫉妬と憎悪……」


 俺たちが村に戻っている最中、空に立ち上る煙が見えた。


「あれは……?」

「嫌な予感がします……」


 オルステッドが、睨みつけるように見る。


「走るぞ!」

「はい!」


 俺たちは村へ向かって、走りだした。






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