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第19話 外れスキルと馬鹿にされた農園スキルが進化してチートスキルになりましたが、このスキルでのんびりスローライフを送ります ~覚醒した農園スキルが神過ぎて、もうこれ以外何もいらないんだが~ 3



「…………え?」


 僕は再度、修道女シスターに訊く。


「あなたの加護は農園ファーム声援チアです。おめでとうございます、二つの加護に恵まれました。神に祈りを」


 修道女シスターは両手を眼前で絡め、祈る。


「あ、あの、農園ファーム声援チアって……」

「よく発現する加護です。農園ファームは薬草や植物の栽培を得意とする加護です。声援チアは、自身の魔力を声に乗せて、相手の能力を引き上げる加護です。無属性魔法の一つですが、他の方よりも声援チアにおける能力向上は大きいかと思います」

「え、え、え…………」


 よく発現する加護?

 農園ファーム声援チア? 嘘だ。そんなの嘘だ。剣術の加護は? 身体能力強化の加護は? いや、この際盗賊の加護だってなんだっていい。


「戦える加護……ですか?」

「え?」


 修道女シスターは気まずそうに、他の修道女シスターと目を合わせた。


「戦いには向いていないかと……」

「…………ぁ」


 終わった。

 そう、思った。

 頭の中が真っ白になる。僕は元々、冒険者になんて向いていなかったんだと、修道女シスターから面と向かってそう言われたような気が、した。

 まるで戦いになんて向いているわけもない加護。


「フィ、フィーナ、フィーナ……」


 僕は無意識に、フィーナを呼んでいた。


「フィー……ナ」


 フィーナの前で、修道女シスターが固まっていた。

 目を丸くして、驚愕の表情でフィーナを見ていた。


「す、すぐに人を呼んでください!」


 どうやらただごとでないように見える。


「剣姫、剣姫の加護を宿した子が見つかりました!」


 修道女シスターが大慌てで動き出す。


「え、フィーナ、フィー……ナ?」

「ノエル……」


 フィーナは心配そうな顔で、僕を見た。

 フィーナは、世界に数人しかいないと言われている伝説の加護、剣姫を宿していた。



 × × ×



 フィーナの加護が剣姫だと判明して、すぐさま僕たちは王城の保有する庭園へ招かれた。フィーナの加護がそれほどまでに重大で強大な加護だという、何よりの証左だった。

 庭園に集められたのは、僕とフィーナ、そして数名の少年少女。


「はあ……今年もこの時が来たか……」


 庭園に集められた僕たちの前で、一人の屈強な兵士がため息を吐いた。

 年のほどは四十も半ば。顔に刻まれた深い皺と体中に無数に刻まれた深い傷跡が歴戦の戦士であることを何よりも雄弁に語っている。


「俺も、随分と遠いところまで来たものだな……」


 そう言うとおもむろに胸元から羊皮紙を取り出し、少し目を落とした後、再び僕たちに向き直った。


「さて諸君、こんにちは」

「…………」

「…………」

「……こんにちは」


 返事は芳しくない。


「俺の名前はルガー。近衛師団の隊長だ」

「隊長……!?」

「近衛師団……!?」


 ざわざわとざわつく。

 この国の王を守る側近、近衛師団。普通に生活をしていてお目にかかれるものではない。その近衛師団の隊長ともなれば、地位の高さに察しはつく。

 

「おっと、そこまで買いかぶらないでくれよ。近衛師団は俺たちだけじゃあない。あくまで複数ある近衛師団の一つ、その隊長ってだけだ」


 ルガーさんはおどけて肩をそびやかす。


「毎年、この時期になると常人離れした加護を宿した奴が見つかるんだよ。俺はちょっとした助言をするだけのただのおっさんだ。そう身構えるな」


 がははは、とルガーさんは豪胆に笑う。

 

「今ここに呼ばれた理由は分かるな?」


 僕たちは顔を見合わせる。他でもない、加護に選ばれた、強力な加護の持ち主ということだ。

 僕はフィーナのお付きという体でここまでやって来ただけで、何の珍しさも強さもない。

 ただ農園を運営して声援を送る。戦闘に必要な加護は、一切宿すことが出来なかった。


「お前らの加護は強力だ。人を殺めることだって簡単にできるだろう」


 ルガーさんは真剣なまなざしで、僕たちを一人一人見ていく。


「俺はお前たちの力が間違った方向にいかないように、注意しないといけない。何をやってもいい。だが、人を殺めるような行為はこの俺が許さん」


 ごくり、と生唾を飲み込む。関係のない僕も、重圧で後ずさりしてしまう。


「お前らの中でも特に、フィオナ、オルフェウス、お前ら二人は別格だ」


 フィーナと、オルフェウスと呼ばれた少年にルガーさんが視線を向ける。


「剣姫の加護を持つフィオナ、剣聖の加護を持つオルフェウス。お前らは自分の力の使い方に注意しろ。自分が他人と違うことを自覚して生きろ」


 ルガーさんはゆっくりと二人を見る。


「お前らが何になっても構わん。村人として人生を終えても良し、冒険者になっても良し」


 フィーナが槍玉にあげられるたびに、僕は僕とフィーナとの間に埋められない深い溝があるんだと気付かされる。

 フィーナと二人で冒険者になるなんて、大それた夢だったんだ。


「もしお前らがその気なら、俺の下へ来い。近衛師団として俺が稽古をつけてやる。この国を守る近衛師団になる覚悟があるのなら、いつでも良い。俺の下へ来い」


 それからルガーさんは力の使い方や今後の人生の歩み方を教えてくれた。

 それから、強力な加護を持った者が犯罪を犯した場合、俺はすぐにでもお前らを拿捕すると、半ば警告を言っていた。


 僕は呆然自失として、ほとんど頭に入ってこなかった。



「今日のおっさんの助言はここまでだ。お前ら、良い知らせを待っているぞ。活躍してくれ」


 そう言うとルガーさんは大きく手を叩いた。

 一人、また一人と、僕たちはゆっくりとその場を後にする。


「……」

「……」


 僕とフィーナの間に生まれたのは、沈黙だった。


「フィーナ」

「……何?」


 フィーナもどことなく、僕に気を遣っているような気がする。

 戦える加護をもらえなかった、僕に。


「ぼ、僕ね、農園ファーム声援チアっていう加護を持ってたんだよ」

「そうなんだ……」


 うすうすフィーナも気付いていたんだろう。僕の表情と修道女シスターの対応から、僕が何を言わずとも、僕の加護が冒険者に向いていないものだと、気付いていたんだろう。


「あははは、僕フィーナと二人で冒険者になりたかったんだけどなぁ」

「……」


 僕は精一杯取り繕って、フィーナに気を遣わせないように偽物の笑顔を張り付けて、明るく話す。


「で、でも良いんだ! だってフィーナはすごい加護だったじゃないか! 剣姫だよ、剣姫!」


 両手をぶんぶんと振る。


「すごいよ、フィーナ! 僕、近衛師団の人と会ったのなんて初めてだよ! フィーナももっと喜んでよ!」

「……うん」


 僕よりもフィーナの落ち込みの方が、ひどかった。


「あ、あはははは……すごいなぁ……フィーナは……」

「…………」

「すごいなぁ、すごいなぁ…………」


 気付けば、僕は量の目から涙を流していた。

 十にもなった男が道の端を歩きながら、涙を流していた。


「すごい……なぁ、フィーナは……」

「ノエル……」


 思ってしまった。僕がフィーナだったら。僕がフィーナのような加護に恵まれていたなら。そう、思ってしまった。


「僕も、もっと、良い加護が欲しかったよ。フィーナと渡り合えるような加護が、欲しかったよ。フィーナと二人で冒険者になるんだ、って、あんなに、あんなに信じてたのに……」


 洟をすすりながら、うつむき、歩く。

 フィーナが僕の背中をさする。


「ごめん、ごめんね、フィーナ、僕だけこんなどうしようもない加護で……」

「そんなことない、そんなことない」


 フィーナは心配そうに僕を見る。


「僕も、僕もフィーナと一緒に冒険したかったよ。僕も、フィーナと一緒に歩きたかった……」


 涙を流しながら、僕は歩く。

 帰途の道は暗く、それは僕自身の未来を表しているようだった。


 僕はフィーナと冒険者には、なれない。





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