第17話 外れスキルと馬鹿にされた農園スキルが進化してチートスキルになりましたが、このスキルでのんびりスローライフを送ります ~覚醒した農園スキルが神過ぎて、もうこれ以外何もいらないんだが~ 1
巨大都市、サクラメリア。
経済、貿易、農耕、冒険、この国の全ての主要なものを集めた途方もなく巨大な街。
僕はその巨大都市で活躍する一市民……ではなく、その巨大都市を大きく西に抜けた外れにあるララ村に住む、ただの村民。
「ま、待ってよフィーナ~……」
「も~、遅いよノエル」
そして僕、ことノエル・マクアシアは今まさに、幼馴染のフィオナの後を追っている最中だった。僕は親しみを込めて、彼女をフィーナと呼ぶことにしている。
「はぁ、はぁ、早いよフィーナは……」
「ノエルが遅いの」
フィーナは僕の鼻をつん、とつつく。
僕とフィーナはここ、ララ村で暮らす、ごくありふれた村民だ。
僕が五歳のころ、フィーナはこの村に越してきた。その時からずっと、僕たちは一緒だ。母親一人で育てられたフィーナはいつも勤勉で、僕の頼りになる幼馴染だ。
両親の手伝いに拾った薪を家へ持ち帰る途中だけど、フィーナが僕の何倍ものスピードで走るから、僕はぜえぜえと息をきらしていた。
背中に僕の何倍もの薪を積んでるはずなのに、どうしてフィーナはこんなに速いんだろう。
「じゃあ家に薪置いたらもう一回ノエルの家に集合ね」
「うん!」
僕はフィーナとその場で別れ、家へ戻る。
「お母さん! 薪拾ってきたよ!」
「ありがとう、ノエル。そこに置いておいて」
「あ、あとお母さん、お母さん! フィーナとここで遊ぶけどいい!? いい!?」
「こ~ら、ノエル。飛び跳ねないの」
お母さんは傷だらけの両手で、僕の頬を挟んだ。
「ノエル、フィオナちゃんにはちゃんと優しくするのよ」
「うん! フィーナと今日も剣の稽古するんだ!」
「はいはい、いいわよ。全く、ノエルは今日も元気ねぇ」
「うん、僕冒険者になるんだ!」
僕とフィーナは冒険者になる約束をしている。二人で冒険者のパーティーを組んで、いつかあの大都市、サクラメリアに僕らの名前を轟かすつもりだ。
「そういうのは妖精姫のお祭で加護を見てもらってから決めなさい!」
「うん!」
お母さんは今日もまた、やれやれといった表情で微笑んでいた。
「すみません」
「来た!」
ドアがノックされる。
「どうぞ~」
「ノエルくんいますか?」
フィーナはドアを少し開け、控えめに顔を覗かせた。
「あ、お母さん行ってきます」
「行ってらっしゃい」
僕はドアを開け、外に出た。
家から少し離れた庭地で、僕はフィーナと対峙する。
「じゃあ今日も稽古しよっか、ノエル」
「うん!」
僕はフィーナに木剣を渡し、構えた。
「僕たちで良い冒険者になろうね! 頑張ろうね!」
「私もノエルと一緒に冒険したいよ」
フィーナは目を弓なりに細める。
「じゃあ行くよ!」
僕はフィーナに木剣を持って、突っ込んだ。
× × ×
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「大丈夫、ノエル?」
「うん……フィーナもありがとう」
上からフィーナに覗き込まれる。僕は地面に突っ伏していた。
今日の稽古も全敗。なすすべもなく、フィーナに打ちのめされた。
「もうフィーナに何敗したんだろ」
「六百回くらいじゃないかな」
「六百回も負けて一回も勝ってないって、やっぱり僕才能ないのかな……」
剣の稽古でフィーナに打ちのめされてばかり。まるでフィーナの姿をとらえることすら出来ず、気付けば、一瞬にして地に伏している。
「きっとノエルには剣術以外の別の才能が眠ってるんだと思う」
「そうかなぁ……」
でも妖精姫の祭りで修道女に鑑定してもらうまでは、それが何かは分からない。それまでは基礎鍛錬と、汎用性の高い剣術を磨いていくしかない。
「あと三年もしたら分かると思う」
「うん」
僕とフィーナは七歳。もう三年もしないうちに妖精姫の祭りがあるから、そこで僕に宿ってる加護も見てもらうんだ。
「ノエルはすごいよ……ずっとすごい」
フィーナは僕の手を両手で包む。
「ノエルは毎日毎日朝早いうちから稽古して、お仕事も手伝って、私とも稽古して、本当にすごいよ。普通だったらそんなこと出来ないよ」
「フィーナも毎日練習してるじゃん。フィーナの方が頑張ってるよ」
「私は毎朝鍛錬なんて出来てないよ」
「でも毎朝鍛錬してもフィーナの速さについていくことも出来てないし……」
薪拾いでも、常にフィーナが僕の何倍ものスピードで仕事をこなす。薪拾いだけじゃない。薪割りだって薬草集めだって果物採りだって。荷物を運ばせても僕はフィーナにかなわない。
「ノエルには良い所があるの。力とか速さとか、そういうのじゃない良さがノエルにはあるの」
「そうかなぁ」
「近い分かるよ、きっと」
「……うん」
とにもかくにも、自分の加護を調べてもらうまでは、何も分からない。
「じゃあ明日も稽古しよっか?」
「うん!」
「一緒に冒険者になろうね」
「約束だね、フィーナ」
フィーナは僕に手を差し出した。
「けっ、またノエルの坊ちゃんはフィオナにお世話してもらってんのかよ」
「うわ~ん、僕ちんフィオナちゃんがいないと何も出来ない木偶の坊ですぅ~」
僕がフィーナの手を借りて立ち上がっていると、遠くから二人の声が聞こえてきた。
「おいおいノエル、そんな状態で冒険者なんてなれるのかぁ?」
「フィオナがいないと何も出来ない弱虫め!」
いつも僕たちに因縁をつけてくる二人の少年、ザックとトビーが、僕たちのことをにやにやと見ていた。
「ノエル、下がって」
フィーナが前に出る。
「ううん、フィーナ、僕が」
僕はザックたちに対峙した。
「僕は一人でも出来る! ザックだって何も出来ないんじゃないの!?」
「俺は何でも出来る! どうせお前なんてまともな加護ついてねぇよ!」
「ぎゃはははははは!」
ザックとトビーは腹を抱えて、僕に指をさす。
「なんですかぁ? 虫と喋れる加護ですかぁ?」
「いつも下向いて歩いてるもんなぁ、お前! 違いねぇ!」
二人はひぃひぃと肩を震わせて笑う。
「力も何もねぇのに冒険者なんて目指すんじゃねぇよ!」
「俺らみたいな人間が冒険者になるんだよ! お前は一生フィオナちゃんにおしめでも代えてもらえよ!」
「「ぎゃはははははははは!」」
「妖精姫の!」
声を上げる。
「妖精姫の祭りで僕はすごい加護をもらうんだぞ!」
「お~お~、楽しみだなぁ、その時が! なんだ! 人に寄生する加護かぁ? フィオナちゃんにお世話してもらえる加護かぁ? 人に媚びれる加護だと良いなぁ!」
「「ぎゃはははははははは!」」
二人はさんざ僕のことを嗤い、帰って行った。
「覚えとけよ!」
僕はそう言うことしか出来なかった。
「ノエル……」
「妖精姫の祭りで、僕がちゃんとフィーナと一緒に冒険者が出来ることを証明するんだ!」
僕はそんな決意と共に、拳を握った。
僕はフィーナの隣にいれるくらいの、すごい加護をもらうんだ。




