第16話 無能のクズと馬鹿にされ虐げられていましたが、俺だけ使える特殊加護が覚醒した結果、最強の加護に変貌しました。勇者パーティーは壊滅的らしいですが知りません。 ~俺から始まる絶対ルール~ 8
≪同質の武器の同時利用により、熟練地の向上が上限値に達しました≫
≪同質の武器の同時利用により、熟練地の向上が上限値に達しました≫
何度も同じ言葉が脳内で響く。
≪双方推進による能力向上が最大値となりました≫
なんだよそれ。
俺の加護の二つ目、双方推進。
どうやら、同質の武器を同時利用することで徐々にその武器の能力が上がっていく加護だったらしい。
剛腕や剣術熟練度向上と異なり、一度や二度の使用で能力が格段に上がるものではない、ということか。
「分かるかよそんなこと……」
俺は右手の盾を膂力の全てを込めて、振るってみた。
『エエエエエエエエエエエオオオオオオオオェェェェェェェ』
『エエオェェェェェェェ』
『エエエエエエエエエエェェェ』
『エエエエエエエエエエェェ』
『エエエエェ』
『オオェェェェェェェ』
『エエエエエオェェェェェェェ』
『エエエエエエオオェェェェェェェ』
『オオオオオオオオオオオオオェェェェェェェ』
『オオオオオオオオオオオオォォォォォォ』
俺の前方にいた花が無数に、塵となる。盾弾による何らかの付与効果なんだろう。
「はは…………」
分かるかよ、そんなこと。
視力や嗅覚、聴覚が良かったのもこれのおかげなのか。常に使っているものだから熟練度が向上するのも当たり前だ。
≪双方推進熟練度最大値達成による付与効果が発生します≫
脳内の言葉は鳴りやまない。
≪腕力向上。上限値に達成しました≫
≪脚力向上。上限値に達成しました≫
≪魔力向上。上限値に達成しました≫
≪視野向上――≫
利己主義者と同じく、何らかの能力が向上される。
「ははは……」
俺は力なく笑った。
≪制限開放達成。上限値を確認したため、制限を突破します≫
制限開放。もう何も驚かなかった。
≪上限値を確認した全ての能力の制限を突破します≫
力が体にみなぎって来るのが分かる。
もう以前の俺は、どこにもいない。
俺は俺の罪を、罰を、全てを理解した。
『キシシシシシシシシシシシシシシシシシ』
数十、数百、数千の花が地上から再び現れる。これだけ壊しても、こいつらは出てくるらしい。
「……」
俺は軽く右腕を薙いだ。
途端、前方にいた花たちが一瞬で塵と化す。
「はは…………」
完全に、化け物じゃねぇか。
剣聖オルステッド様もこの域まで達したということなのか。
「うっ」
花の蔓が、後方から俺の腹を貫く。貫いた直後から体が自己再生を行い、再生された肉が花の蔓を捕まえる。
「つーかーまーえー」
俺は花の蔓を引き寄せ、
「た!」
花に頭突きを加えた。
その衝撃はとともに、後方の花も消し飛ぶ。
「ははは……」
笑うことしか、出来なかった。
右目が飛ばされる。途端、再生する。
周りを囲まれ、腕が、脚が、切り落とされる。そして即座に再生する。
常に痛みが伴う。もう何時間これを繰り返したんだろうか。
日は沈んで、夜になっていた。
目がおかしい。腕がおかしい。脚がおかしい。ありとあらゆる箇所に痛みを感じるため、もう何が痛んでいるのかも分からない。
「盾弾」
軽く薙いだ左腕で、左側の花が視界から消え失せる。
思えば、段々と花の再生速度が遅くなっている。
よく見て見れば、もう数匹の花しかいなかった。
「なんだぁ? 終わりか、お前ら」
ふと、丘の上を見てみると、あれだけの巨木が、みるみる痩せ、しぼんでいた。
「そういうことか……」
どうやらこの花は、この巨大な樹木から養分を得て発生していたらしい。道理でいくら斃しても延々と発生していたわけだ。なら最初からこの樹を切り倒せばよかっただけだった。
腕を切り落とされ、脚を切り落とされ、目を失い、脳漿をぶちまけ、痛みと共に、永遠に続く拷問に、俺は完全に自失していた。
「盾弾」
盾弾とともに発生した衝撃波が樹を切り倒す。
「死ね」
残っていた花も、塵となる。
「…………」
一秒間隔で発生していた花の発生が、ついに止んだ。
樹は切り倒され、周囲一帯が完全に更地になった。
「ははは…………」
勝った。
俺は勝った。
痛みに自失し、永遠とも思える地獄をさまよった挙句、俺は勝った。勝ったんだ。
もう体は、完全に自動快復されている。
「…………っ」
俺は右手を天高く上げた。
花の魔石が。牙猪の魔石が。とんでもない量の魔石が、俺の周囲に落ちている。
魔石が月の光を反射し、俺を照らす。
「ははははははははははははははは!」
俺の髪は、真っ赤になっていた。
血の赤だ。俺の肉片が染め上げた、真っ赤な髪。
「はははははははははははははははははははははは!」
俺の人生は、ここから始まる。
ここからだ。ここから俺は始まるんだ。
俺は突き上げた右手を、強く握った。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
誰もいない、何も邪魔をしないこの空間で、ただ俺の哄笑だけが、夜気に溶けて行った。
俺を縛るものは誰もいない。
これから先の俺の人生は、俺がルールだ。俺のルールは、絶対だ。
俺の人生が、ここでようやく、始まった。




