第15話 無能のクズと馬鹿にされ虐げられていましたが、俺だけ使える特殊加護が覚醒した結果、最強の加護に変貌しました。勇者パーティーは壊滅的らしいですが知りません。 ~俺から始まる絶対ルール~ 7
サニスなんて、信じなければよかった。
あいつらのことなんて、信じなければよかった。自分の仲間だ、と。どうあったとしても、パーティーを導くために俺が少し損な役回りをしているだけだと、そう思っていた。
人のために生きるんじゃなかった。
自分のために、生きるべきだった。
道具のように利用されて生きるような人生だった。恥ずべき、人生だった。
≪お前は、何故恥じる?≫
頭の奥底から、何者かの声が聞こえる。
「俺が他人を信じてしまったからだ」
何もない、白い空間に俺はいた。何もないどこかで、立ちすくんでいた。
花は? サニスは? そんな疑問とは裏腹に、俺は無意識に、何者かに返答していた。
≪何故他人を信じた?≫
「俺が馬鹿だったからだ」
何者かの問いに、答えていく。
≪お前はこれからどうしたい?≫
これからどうしたい。まずは、この地獄から解放されたい。そして。
「俺はこれから、誰のためにも生きたくない。ただ自分のために、自分が思うままに生きて、誰にも利用されたくない。自分が思う道を進みたい。やってみたかったことをやってみたい。誰の目を気にすることもなく、自分がやりたかったことを全力でやってみたい」
もし叶うなら、次は誰の言葉にも耳を貸さない。俺は俺の言葉だけを信じる。
叶うなら。もうサニスのような冒険者に騙されないように。
「そして、サニスを超える冒険者になって、あいつらを見下すんだ」
笑っていた。嗤って、いた。口角が歪む。きっと俺は、とても醜い顔をしているんだろう。サニスへの執着か。俺は今、あいつを殺してやりたいほど、憎んでいる。
≪お前は何が駄目だった?≫
何者かは、俺の答えに反応することなく、質問を繰り出す。
「俺が無力だったことだ。人を信じ、自分の力を信じなかった。俺が信じるべきなのは、自分だった。他人に自分を任せて、自分と向き合うことから避けてきた。俺が自分を信じていなかった。他人の思うがままに良いように利用されて、それをよしとしていた。それが俺の汚点だった。俺は馬鹿だった」
俺は俺の力を信じたい。一人で生きられるほどの力が。
≪何が欲しい?≫
何者かの声が、頭に響く。
そんなもの、決まっている。
「力」
他を気にすることのない、圧倒的な力。相手を屈服させることが出来る完全な暴力。
そして、誰にも俺を否定させない、屈強な精神力。
「そして、全てだ」
≪………………≫
何者かの声が、止む。
≪合格だ≫
何者かは、笑っていた。
ははは、と笑っていた。俺も何故だか、笑っていた。
≪条件を満たしました。利己主義者が活性化されます。利己主義者非活性状態による能力低下から解放されます≫
力が、入ってくる。
≪利己的行動が確認されたため、利己主義者による能力向上が発生します≫
何かは、そう言った。
「はは……」
俺は、力なく笑った。
「なんだよそれ……」
ふざけんなよ。
利己的行動が確認されたから発動した俺の加護。
それはすなわち、他人のために生きていた俺を否定する加護。他人のために、良いように利用されていた自分が、結局のところ全て悪かったというわけだ。
「なんなんだよ、それ……」
最初から俺が自分のために生きていれば、こうはならなかった。
俺の加護は、俺のしたことへの罰だったということだ。他人を信じた俺が、他人のために行動した俺の全てが、否定されていく。俺の罪が。俺の罰が。全て、俺の責任だったというわけだ。
≪加護との対話が可能となります≫
≪腕力向上、上限値に到達――≫
≪脚力向上、上限値に到達――≫
≪体力向上、上限値に到達――≫
≪治癒能力向上、上限値に到達――≫
≪魔法能力向上、詠唱時間を無効化――≫
≪毒耐性獲得、毒を無効化――≫
≪炎耐性――――≫
ありとあらゆる言葉が、俺の頭を駆け回っていく。
言葉が紡がれるたびに、体に力が伝わっていくのを感じる。
「ぁ――」
気付けば俺は、花に囲まれたまま死を持っていた現実に、戻って来ていた。
「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
悲鳴に近いような雄たけびを上げる。
『エエエエエエェェェェェェ』
『エエエエエエェェェ』
『エエエエエエェェェ』
近くの数匹の花が腐り、ぼろぼろと体が崩壊していった。俺の雄叫びが、周囲に何らかの影響を及ぼしたらしい。
「死ねええええええぇぇぇぇぇ!」
俺は持っていた盾で花を殴る。
「盾弾」
花は不気味な声を上げながら、ぼろぼろと崩れていく。
抉られていた肉が、即座に快復していく。そしてそのたびに、花が俺に二の蔦、三の蔦を繰り出してくる。
「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
花に肉を抉られては回復し、抉られては回復をする。
斃しても斃しても、無限に花が湧いて出てくる。いつになっても終わらない。
「盾弾!」
花を弾き殺す。
「盾弾!」
向かってきた何匹もの花を。
「盾弾!」
脳天が抉られ、脳漿をぶちまける。そのたびに、即座に快復していく。やられた個所から回復していくが、痛覚だけは変わらない。抉られるたびに俺は大きな悲鳴を上げる。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。ありとあらゆる箇所が抉られては再生していく。
「盾弾!」
もう何度目になっただろうか。何度斃しても何度斃しても、花の数が減らない。斃した分、地中から再び湧き出てくる。
きっと前の冒険者も、無限に湧き出てくるこの花を前に全滅したんだろう。そこから考えると、ここ一体に魔物がいなかったのは、この花の魔物が管理している領域だからなんだろう。
もう俺は、考えるのを止めていた。
出てきた花を殺す。出てきた花を殺す。これの繰り返し。
「あああああああああぁぁぁぁぁ!」
こんなところで。こんなところで死んでたまるか。
俺は冒険者の遺品のある場所まで駆けた。
その場にあった盾を手に取る。右手に取ったものは、俺の盾と同じ盾。
剣を使っているだけの余裕がない。防御と攻撃を兼ね備えた盾でなけらば、即座に俺の体は細切れになるだろう。
「あああああああああぁぁぁぁ!」
右の盾で、左の盾で、周囲の花を壊していく。
「盾弾! 盾弾! 盾弾! 盾弾!」
何度も何度も同じ技を繰り返す。俺の体力が保つまで。俺の精神力が保つまで。
「盾弾! 盾弾!! 盾弾! 盾弾! 盾弾! 盾弾! 盾弾!」
頭がおかしくなりそうだった。
何百、何千、いや、何万回盾を振っただろうか。
≪双方推進の向上が限界値に達しました≫
再び俺の脳内に、何者かの声がした。




