第12話 無能のクズと馬鹿にされ虐げられていましたが、俺だけ使える特殊加護が覚醒した結果、最強の加護に変貌しました。勇者パーティーは壊滅的らしいですが知りません。 ~俺から始まる絶対ルール~ 4
「おいクズ、いつになったら見つかんだよ!」
道中、サニスが俺に文句を言う。牙猪までの道のりが長いため、俺が先頭に立って道案内をしている。
「まだかかる」
「いつまで歩かせんだよ!」
歩くごとに、サニスは不機嫌になる。
「まだ先なんだからそう言われても仕方がない」
「全く魔物がいねぇじゃねぇかよ!」
「だから言っただろ」
「今俺たちはどこを歩いてんだよ!」
「知らないよ……」
なにせ同じ景色がいつまでもいつまでも続くため、今どの程度進んだのかも分からない。分かっているのは、方向だけだ。セレスティアやキャロルたちにも疲労の色が見える。
このサニスの質問も何度目か分からない。
「手前、嘘ついてんじゃねぇだろうな?」
「ついてないよ」
「俺らをハメるために嘘ついてんじゃねぇだろうな!?」
「ついてないって!」
「うるさい、クレイ!」
キャロルが声を上げる。
皆苛立ってる。目的地までどの程度歩いたのかも分からない。同じ景色が続きすぎてストレスが溜まっている。早く目的地まで着けばいいんだが。この森の中であんな幻想的な景色を見れることは滅多にない。
「あ…………」
サニスの文句が何度か続いた後、眼前に花の楽園が広がっていた。
「ついた……」
大輪の花が押し並んだ花園の中心に、一本の大樹。大樹の側にはいまだに二匹の牙猪がいた。二匹とも眠っている。
「なんだ…………ここは」
サニスがザクザクと、前へ出る。
「綺麗……」
「嘘……」
キャロルとメリアも前へ出る。
「サニス、前に出すぎると気取られる」
「うっせぇ、分かってんだよ!」
サニスは木陰に隠れながら、牙猪の様子を観察する。
「なんだぁ、一体ここは」
「分からない」
「なんでこんな魔物の巣に花があんだよ」
「分からない」
俺たちは木陰に隠れながら、小声で話す。
「クレイ、なんだか、変だね」
「うん」
セレスティアは自身の胸を押さえる。
「なんだか、すごいふわふわする」
「うん」
「それだけここが美しい空間ってことだよ」
キャロルが一歩前へ出た。
「おい、キャロル!」
「行くぞお前ら!」
サニスが大声を上げて、牙猪に突貫した。
「なんで大声で……!」
俺もサニスに続き、後方から前へ出る。
『ブモオオオォォォッ!』
サニスに気付いた牙猪が目を覚まし、交戦する。
サニスは一匹目の牙猪と交戦し、俺はもう一匹の囮役に出る。
「踊り踊られ永久に。手取り足取り人知れず。土の精霊よ、我に力を! 泥化!」
セレスティアの呪文により、俺とサニスが交戦している牙猪の足元が沼となる。
「へへへ、こうなったらこっちのもんだ!」
サニスが両手剣を大きく振り上げ、袈裟懸けに振り下ろした。体勢を崩した牙猪はサニスの両手剣を真っ向から受ける。
「相手がこの状態なら俺も――」
違和感が、した。
牙猪にとどめをさそうとした瞬間に、何らかの違和感を覚えた。
「なんだ……?」
左を向く。
花園を抜けたすぐ先に、何かが見えた。
「……っ!」
甲冑や楔帷子、片手剣や盾、杖の類が大量に落ちていた。
これは、冒険者の装備……? これだけの大量の装備をしている冒険者たちが、ここで全滅した……?
装備品に、牙猪の突進をはるかに上回る大きな損耗があった。牙猪以上の攻撃力のある魔物にここでやられたということなのか……?
「もたもたしてんじゃねぇよ!」
俺が相手取っていた牙猪に、サニスが両手剣を振り下ろそうとしていた。
「皆、逃げるぞ!」
俺は大声を上げた。
まずい。間違いなくまずい。何かが。何かが、ここにはいる。
「何、何何!?」
「うるさいよ、あんた!」
メリアとキャロルは俺の言葉に耳を貸さない。
「何言ってんだ、お前」
サニスはそのまま、両手剣を振り下ろした。
『ブモオオォォッ!』
牙猪が断末魔を上げる。
「早く!」
「今斃したところだろ。まだ魔石が――」
『ブルオオオオオオオオオオオオォォォォォッッッッッッッ』
耳をつんざくような鳴き声が、この場にこだました。
「な、なんだ!?」
サニスが辺りを見回す。
『ブルルルル』
先ほど斃した牙猪の五倍以上の体躯を誇る牙猪が、そこにはいた。
「あ……あぁ……」
異常事態。本来俺たちが知っている常識をはるかに上回る緊急事態。
突然変異体。なんらかの原因により、通常の牙猪の性質を受け継ぎながら、特殊な能力を獲得した超特別個体。
「やべぇ……やべぇやべぇやべぇやべぇ!」
サニスが慌てふためく。
通常の牙猪の五倍以上の体躯のある魔物とは戦えない。俺は、顔を見上げ、突然変異体を見た。
『ブルオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ』
突然変異体はこちらに向かって突っ込んでくる。
「う、うわあああああぁぁぁぁ!」
「ひいいいいぃぃぃ!」
俺とサニスは後方へ走り逃げる。
『ブルオオオォォッ』
こちらに走って来ていた突然変異体は、セレスティアが作った泥に足を取られ、その場に転倒する。
「早く、早く二人とも!」
セレスティアが俺たちを待っている。
「ヤバいよヤバいよヤバいよ!」
「な、何なのよあれ!」
メリアとキャロルが遠巻きから突然変異体を見ていた。
「クレイ、サニス! あれが私の泥に足取られてる間に早く!」
セレスティアが俺たちに逃げ道まで誘導してくれる。
「足が取られて……?」
サニスが後方を振り返る。
「……チャンス、チャンスだ!」
サニスは再び突然変異体に振り向いた。
「キャロル! 威力向上を俺にかけろ!」
「は、早く逃げないと……」
「今ならいける! 早く!」
キャロルは呪文を唱えだした。
「何してるサニス! あんなの俺たちで立ち向かえるレベルじゃない!」
「俺の力ならいける! 無能は黙ってろ!」
「冒険者の装備が大量に落ちてた! あんなやつがいるなんて聞いてない! あの人数の冒険者がここで死んだんだ! 俺たちじゃかなわない! 早く帰ってこの異常事態をギルドに知らせるべきだ!」
「黙れクズ! あいつを倒したら今までの狩りの効率をはるかにしのぐでけぇ魔石が取れるはずだ! いいからお前は黙って囮をやってろ!」
キャロルが五重に、サニスに威力向上の魔法をかけた。
「クズ、囮をやれ!」
「畜生!」
サニスが魔法を放ち、突然変異体に並々ならない被害が生じる。
サニスが突貫するため、俺は囮を買って出るしかない。
「土人形!」
セレスティアが五体の土人形を召喚し、突然変異体に突貫する。
「いける! いけるぞ!」
サニスが興奮した様子で両手剣を振り続ける。
「……え?」
脚を取られていた突然変異体が、ついに体勢を取り戻した。
『ブルオオオオオオオォォォッ!』
サニスの両手剣は突然変異体の堅い皮膚にあっさりと負け、ぽきりと、根元から折れた。
「あ」
突然変異体の長い牙がサニスの腹目掛けて突き出された。




