第10話 無能のクズと馬鹿にされ虐げられていましたが、俺だけ使える特殊加護が覚醒した結果、最強の加護に変貌しました。勇者パーティーは壊滅的らしいですが知りません。 ~俺から始まる絶対ルール~ 2
「おらぁ!」
サニスは俺の指示した場所まで突貫し、四体の牙猪目掛け、突貫した。
それと同時に、サニス特注の長剣を袈裟掛けに振り下ろす。
「風の精霊よ、流れる砲弾打ちさらせ! 風砲!」
「清廉潔白厚情浮揚、仲間の灯に今答えよ! 威力向上!」
空を切った長剣から風の刃が飛び出し、キャロルがその刃に魔力付与を行う。
魔力が付与された風の刃は肥大化し、一匹の牙猪に衝突した。
『ヴォエェエエェェェッ!』
風の刃に体躯を引き裂かれた牙猪は断末魔を上げ、その場で昏倒した。
「お前ら、俺に続け!」
サニスは続いて二匹目の牙猪に突貫する。俺は残る二匹の牙猪の気を引き、囮の役目を買う。
「玉の緒の誇り失えば。故郷の安らぎいつまでも。土の精霊よ、今われらの前に出土せよ! 土人形!」
セレスティアの詠唱を受け、周囲の土がぼこぼこと動き出し、人形の形を取り、動き始める。
何度見ても言葉にならない、高位魔法だ。
出現した三体の土人形は牙猪に襲い掛かる。
「クレイ、邪魔!」
「ぐっ!」
後方から放たれた矢が俺の腕を掠める。安全圏から今も矢をつがえているのは、森族のメリアだ。
動き回る牙猪に当てられなかったせいで、俺にだけダメージが行く。
「何してやがるてめぇ! ちゃんと見てよけやがれ! その盾は飾りか!?」
サニスが牙猪を相手にしながら、俺に罵倒を飛ばす。まともな加護もないまま二体の牙猪を相手に囮をしているんだ。その上、突然放たれる矢に気付けるわけがない。
「きゃっ!」
キャロルから悲鳴が聞こえる。
「誰か!」
昏倒していた牙猪が立ち上がり、最後の命を振り絞り、キャロルに突貫していた。
魔術師は体が弱い。数多の魔法が使える代わりに、接近戦に弱い。
「きゃあああぁぁぁ!」
間一髪、牙猪の牙はキャロルの脚を掠める。キャロルはその場にしりもちをつく。
「土人形、お願い!」
セレスティアが召喚した土人形に指示を出す。二匹の土人形がキャロルを守るように動き、牙猪を抑える。
土人形は息も絶え絶えだった牙猪を退治した。
「クソが!」
サニスは交戦している牙猪を斬り殺し、俺が相手取っている牙猪に、背後から襲い掛かった。
土人形とサニスの攻撃で、牙猪を四体討伐することが出来た。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
俺は肩で息をする。サニスにもセレスティアたちにも危害が及ばないように立ち回り、相手の注意をこちらに向けなければいけないため、消費する精神力と体力が尋常でない。
「おい、てめぇ!」
サニスが俺の胸ぐらを掴んだ。
「てめぇのせいでキャロルがケガをしただろうが!」
「ぐっ…………」
キャロルは足に傷を負った。セレスティアがキャロルを治癒している。
「まともに戦えねぇんだろうが! 囮くらいちょっとはまともにやれや! 戦ってもねぇんだからちゃんと戦況見ろや、クソが!」
「…………」
返す言葉がなかった。俺がまともな動きを出来なかったから、キャロルが傷を負った。俺が無能だったからこんなことになった。
俺も。俺も、こんな意味の分からない加護じゃなければ、もっと出来たはずなんだ。
「加護なしを仲間にしてやってるのは俺らなんだぞ! ちょっとはまともに働けゴミ!」
「ちょっと、そこまでにして……!」
セレスティアが俺をかばうようにして立つ。
「……ちっ!」
サニスは唾を吐き、俺に背を向けた。
「…………死ねよ」
「……」
キャロルが俺の横を通りざまに、言う。
俺は歯噛みし、拳を強く握ることしか出来なかった。
「本当無能ってヤだよね~。なんだと思ってんの、私らのこと? いっそ私の矢、当たった方が良かったんじゃない? あははは」
「…………」
メリアがキャロルについで、笑いながら俺に言う。
「クレイ……」
セレスティアが俺を見た。
「ごめん、セレスティア、俺が無能なばっかりに……」
「クレイは悪くないよ。頑張ってくれてるよ。誰もクレイのことを評価してくれないのがおかしいよ……」
「いや、俺が悪いんだ…………」
サニスは、有能だ。
この町でも指折り、札付きの上級冒険者だ。サニスの宿している加護は剣術熟練度向上と、剛腕、そしてその他複数。
剣術と剛腕、どちらも相性が非常に良い。
俺の戦闘能力とは比べ物にならないほどに遥か上だ。それに加え、魔法の威力も申し分ない。
「くそっ……!」
俺は自身の不甲斐なさに、近くの木に拳をぶつけた。
× × ×
牙猪やその他木っ端の魔物たちを倒し、魔物のコアである魔石を回収した俺たちは、サクラメリアへと帰って来ていた。
「は~今日もたくさん魔石溜まったね~」
「全く……誰かさんのせいで死にかけたけどねぇ、私は」
「……」
キャロルがこちらを見る。
「換金行くぞ」
サニスは先頭に立ち、冒険者ギルドへと向かった。
魔石は燃料だ。ありとあらゆる生活の質を向上させてくれる、燃料。
光を灯す時も、武器を精錬するときも、装備を作るときにも使う。
常に魔石は需要があり、魔物を倒すことで、魔物を構成していた魔石が手に入る。その魔石を売って、俺たちは日々冒険者稼業を続けることが出来ている。
「換金だ」
「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
ギルド職員がサニスに十数枚の銀貨と銅貨を手渡す。
「はぁ? これだけかよ」
「申し訳ございません、魔石の一部が欠けていまして」
「ちっ……」
サニスは俺を睨む。
俺じゃない。俺はやってないはずだ。
「分かった。おら、持てこのクズ!」
サニスは俺に荷物を持たせる。戦闘も出来ない、雑用くらいしか出来ない俺は、甘んじて受け入れなければならない。
「クレイさん……!」
「……」
冒険者ギルドで働いている森族の女性職員、クルルさんが俺に話しかけてくる。
「辛かったらいつでも言ってくださいよ……」
「……」
俺は無言でクルルさんに頭を下げ、サニスの後を追う。
「本当に、言ってくださいね!」
背後からクルルさんの声を聞く。
俺にそんな権利はない。戦闘もまともに出来ない俺が、そんなことを言う権利はないんだ。
俺は重い荷物を背負いながら、必死に仲間の後を追った。




