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プロローグ



「遂に……遂に完成したぞ……」


 薄暗い地下室の中、私はそう呟いた。


「これが、これが私の求めた稀代の魔法、転生魔法じゃ!」


 私は長年構築し続けた転生魔法の完成に瞠目し、身震いした。

 長年追い求め続け、ようやく完成した究極の魔法、転生魔法。よわいも百を超え、老い先短いと思えた矢先、遂に私の苦労が結実した。

 

「ゴホ、ゴホゴホゴホ!」


 咳き込む。間違いなく、私の寿命もそう長くはない。私は紐で吊るされたベルを引っ張り、からんからんと音を鳴らす。


「だ、大賢者様! いかがなされましたか!」


 ベルの音を聞きつけた従者が大急ぎで駆け付ける。滑らかで美しい直髪を揺らし、従者はその瞳に不安の色を宿らせる。

 私は従者の肩を借り、よろよろと立ち上がった。


「すまないね、ミーロ。いつも迷惑をかけて」

「とんでもありません、大賢者様。大賢者様がこの世界に与えた素晴らしいご加護と比べれば、私のしていることなんて大したことではありません」


 ミーロの肩を借りながら、木椅子に座る。


 大賢者――

 それは私に与えられた称号であり、地位だ。

 

 私は両手でも数えることの出来るほどの年から魔術の深奥を極め、この国に……いや、この世界に対して魔法の敷衍に勤しんできた。

 魔法を善のために使い、行使し、国の発展と世界の共栄を願ってきた。三十を超えたころだっただろうか。いつしか私は大賢者と、そう言われるようになっていた。


 だが、私の寿命も魔法の全てを極めるまでには至らなかった。

 魔法というものは奥が深い。学べば学ぶほど、様々な使い方を知ることが出来る。

 一年も前には役に立たないと思っていた魔法が、今では欠かせないものになることも、多々ある。私はもっと魔法を学びたい。


 だが、人間には限界がある。寿命がある。

 私は五十を過ぎたあたりから、一度の人生で魔法の全てを知ることが不可能だと悟った。

 

 それからは、次の未来に託すことにした。

 転生魔法により私自身が転生し、二度目の人生で、全ての魔法を極めることを目指した。

 約五百年後の未来に自分自身が転生する、究極の魔法を完成させることを目指した。


 五十年の研究により、転生魔法は今まさに完成した。

 私の寿命が尽きるより、転生魔法の神髄を会得する方が少しばかり早かったようだ。


「ゴホ、ゴホゴホゴホ」


 再び、咳き込む。

 走馬灯と言われる奴だろうか。懐かしい。私は人生を振り返っていたようだ。


「大賢者様!」

「大丈夫じゃ」


 私はよろよろと、完成した魔法陣の中に入る。


「大賢者様……何を?」

「これは、転生魔法の魔法陣じゃ」

「遂に……遂に完成したのですね、大賢者様」


 ミーロは滂沱と涙を流し、その場に崩れ落ちた。


「ああ……ようやく、ようやく私は転生魔法を完成させた……」


 石床に描いた石灰の魔法陣が淡く光る。


「ミーロ、君も来なさい」

「でも、大賢者様の……」

「君も私と一緒に、未来を見よう」

「……はい!」


 ミーロは私の隣に飛び込んできた。

 

「さあ、五百年後の未来はどうなっているだろうね」


 私は転生魔法を起動させた。


 そして次に目が覚めた時には、五百年後になっていることだろう。






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