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プロローグ

薄暗い空間。燃え上がる炎。あちこちに散らばる死体や肉片。この場の惨状を見た人々は口をそろえて言うだろう。「地獄」と...。






「キャァァァァァ」


「おい!どうした!?」


奇声を上げ倒れこむ目の前の彼女を抱きとめると必死に呼びかけた。彼女の体は硬直し、まるで死体を抱いているかのように思わせるほど冷えていた。だが、息はあった。

突然のことで動揺を隠せずにいる俺の前で『それ』は、微笑した。


「無駄だ。そいつには呪いをかけた。我を殺すでもしない限り、時間が経つにつれ体が衰弱して数時間もしないうちに死ぬだろうよ。」


「っっな!?」


死という現実味のない言葉は、俺に感情の昂りを強要してきた。それも、彼女の死というのが俺の心情を駆り立てた。

彼女とは今日顔を合わせたばかりの関係であり、そして恐らく今日限りの関係であるとも思っていた。それでも彼女はこんな俺を仲間だと言ってくれた。俺を立派な冒険者だと言ってくれた。俺が今まで一度も言われなかった言葉、一番言ってほしかった言葉。

彼女が俺にしてくれたのはたったそれだけの事。彼女のにとっては些細な事だったに違いない。でも、俺はそんな些細な言葉が、諦めかけていた子供からの夢を追う決意をさせてくれた光のような言葉だった。

数時間前のことを思い起こし、追憶に浸る俺は再度『それ』を睨みつけた。そんな俺を待ってたかのように、『それ』は口角を上げると口を開き喉を震わせた。


「その女のようにお前を殺すことは造作もない。だがな、我にも心はある...力無きものを殺すのは気が進まぬのだ。喜ぶがいい!お前だけはこの場から逃がしてやる。」


30人ほどいたはずの冒険者たちは、誰一人としてこの場にはいない。『それ』に立ち向かった者、『それ』を恐れ、尻尾を巻いて逃げ出したもの、それらのすべてが『それ』の初撃によって焼失した。俺だって、彼女に守られていなかったら、今頃彼らと一緒に惨殺されていただろう。

彼女は俺を守ってくれた。ならば、俺も彼女を守り助けるのが道理ってものだ。いや、男としての定めなのかもしれない。

俺の力では、目の前の脅威には太刀打ちできないだろう。だが、それが逃げていい理由にはならない。

今の俺にできることは、異変に気付いた地上の冒険者が、応援を送ってくると信じて、なるべく多く時間を稼ぐことだ。

そうして俺は、地面に刺さる剣に手を掛け、握りしめた。


「ほう?この状況で我に盾突くとは...人間とはつくづく興味深い生き物よのう。お前は生に対する執着心というものがないのか?」


「俺だって生きたいさ!死にたくない...。だがな、それ以上に俺は、大切なものを助けたいと思ってしまう。」


「はっ!とんだお人よしよのう。」


『それ』は嘲笑った。『それ』は呆れた。そして一度大きなため息をつき、どこか寂しそうな表情を見せたかと思うと声を荒げ、吠えた。


「まぁよい。そんなに死にたいのなら、望み通り殺してやる。」


刹那、『それ』は、俺の目の前から姿を消した。


「上!?」


迫りくる死を感じ取り、反射的に上を向くと『それ』は俺の目の前へと距離を詰めていた。目の前の『それ』は、閃光のごとき速さで異様に発達した鉄球のような腕を振るった。


「っく!?」


咄嗟に出た左手の骨は砕け、血飛沫に彩られた身体は背中から地面へと打ち付けられた。


「ガハッッ」


断末魔の叫びとともに口から大量の血が溢れ出た。一秒にもならない攻防。だが、力の差は歴然だった。ぐちゃぐちゃに抉られた左手。衝撃を受け、折れた背骨。たった一撃。それだけで俺の体は悲鳴を上げていた。

俺は羽を毟り取られた蝶のように動くはずのない体を起こそうと奮闘していたが、しばらくしてその場に仰向けに倒れこんだ。







『役立たず』。今まで、冒険を共にした者たちは口を揃えそう言った。自分でもそのことは自覚していた。でも、それでも夢を諦めきれなかった俺は、たくさんの冒険者に「任務に同行させてくれ」と何度も何度も頭を下げた。生まれつきの才、いわゆる運命が俺の夢を妨げる。今のこの状況も自分の運命に逆らったがために、神が与えた罰なのかもしれない。


俺がこんなステータスじゃなかったら...。俺がもっと強ければ...。

何度思っただろう。何度願っただろう。何度嘆いただろう。変えることのできない運命は、俺を怒りの底へと堕とし、蝕んだ。

俺の瞳からは先ほどまでの光が消え、代わりに闇が侵食していった。


あぁ、もうどうでもいい。こんな醜い自分なんて消えてしまえばいい...。こんな人生なんてもういらない...。こんな世界...



全部壊れてしまえばいいのに!



俺は、怒りに身を任せそんなことを嘆いた。



【条件を満たしました】

【一つ目の封印が解放されます】


瞬間、地面に打ち付けられた俺の体は赤色の光に包まれた。


本作品を読んでいただきありがとうございます。

どこかおかしな点、もっとこうした方がいいと思うところがあれば気軽に教えてくださると助かります。

小説初心者ですが、応援してくれると嬉しいです。



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