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condenced caos  作者: 朋枝悟
知っていたはずの世界
7/22

独りの男

「ちょっと、ちょっと大丈夫ですか。」

篠崎の頭にかすかにだが声が聞こえる。どうやら体を揺さぶられているようだ。そんなに体を揺さぶられているわけではないはずなのに脳を直接揺さぶられているような強烈な揺れである。

「大丈夫ですか?こんなところで寝ていると風邪を引きますよ。」

という声に篠崎ははっと気づいた。体をゆすっていたのは歳は篠崎と同じくらいだろうか。体格は細身ではあるがかなりの筋力で締まりのある体をしていることが感じられる好青年いや高紳士というべきか。体格を隠すためにぶかぶかの服を着ているのが、服に着せられている印象を受けさせる成年である。

「大丈夫です。私はどうしてこんなところで?」

と篠崎は発するが彼は

「私が気づいたのはあなたがここで寝ているのに気づいたからです。少しお酒の匂いがしたので酔って寝てしまったのかと思い、救急車は呼ばずにまず声をかけてみましたが、ご気分は?救急車を呼びましょうか」

と彼は続ける。篠崎はこの状況を全く理解できない。しかし何となく見たことのある街並み、ゆっくりとそこがどこかを思い出す。そう、ここは篠崎が会社から帰る途中に寄っていたスーパーの近くの街だ。しかしそうだとするとさっきまでのは夢だったのか。

「はぁ・・・」

と安堵の息をつく篠崎を見て、彼は

「辛そうですね、救急車を呼びますか。それともそこの私の家で少し水でも飲んで休まれますか」

という。救急車は大げさだが、家に帰るだけの体力も気力もない。しかし彼のことを知らないし、彼も私のことを知らない。彼も得体のしれない男を家庭に入れるのは不安もあるだろうと思い、誘いを断り、ベンチで休もうと考えた。しかし彼は

「気は使わなくていいですよ。私は一人暮らしなので散らかっているのを気にされなければ、私も同世代の方と会えたのは『ひさしぶり』なので話も聞いてみたいんですよ」

というと彼は篠崎の腕を担いで彼の家まで運んでくれた。篠崎も独り暮らしなら少しくらいならいいか、その後家に帰ったとしてもそれほど遅くはならないだろうと考えていた。

「すみません。お手数をおかけして申し訳ございません。助かります。」

と道すがら篠崎は彼に告げつつ、これまでの経験は何だったのかを考える。あの人ならざる存在が跋扈する世界、幼女が一人、いや正確には二人か、カノとユナ、そしてそこから飛ばされたであろうメアリの世界、あれらはいったい何だったのか。夢にしてはあまりにも生々しい感覚。

「あれは何だったんだ」

と篠崎のつぶやきにも似た独り言を聞き取ったのか

「あれとは?あ、ここが私の家です。どうぞ」

と言って見せられた家は旧家といっていい広大な敷地で、ここと言って止まったところには3mはあろうかと思う異様に高い門の前であった。よく見るとその周りの塀も2.5mはある。普通はその半分くらいの高さで良いはずなのになぜこんなに高いのか。塀の中がどうなっているのか外からでは全く分からない。彼は門には全く似つかわしくない電子錠を開錠してあまりにも分厚いにも拘らず、想像された重さを裏切るような軽さの扉を開ける。彼は篠崎に閉めるように促す。締まるのを最後まで見届けると彼は奥へと歩みを進めた。くねくねと曲がりくねった道以外を歩くことを拒ませるようなうっそうと茂ってはいるが手入れが行き届いた竹林。その間にいくつも乱立する倉庫のような建物がある。しかしそこへのいく道は竹でふさがれている。

「ここです。少し遠くて不便ですよね。」

というとその敷地には似つかわしくない現代風な一つの平屋建ての家が現れた。

「お邪魔します」といいつつ敷居をまたぐも声は返ってこない。どうやら本当に独り暮らしのようだ。独り暮らしにしては広い玄関には男性用の紳士靴と運動靴が出されている。両側には大きな靴入れが備え付けられており、玄関の床材には一枚の強大な大理石が使われていることに驚いた。

「これはすごい」

とつい声に出してしまった篠崎に彼は何もなかったかのようにさぁというように奥へ入るように勧める。

勧められるがまま、今に通され、少し待つように促され座布団の上に腰を下ろした。

「しかし、これはまた高い天井だな。さっきの一枚の大理石で作られた玄関にも驚いたが、この今に使われているのはイグサで作られた畳ではないな。ビニルかな。壁材も石壁を隠すように上からシールタイプのインテリアウォールシートがはられているし、よくみると木材もその上からさらに木目シートがはられているのはなんでなんだろうか。」

建築士資格を有する篠崎からすると木造建築の良さを隠す意味が全く分からなかったし、何よりもあんな大きな大理石、いくらするんだ。普通ならつなぎ剤で小さなものをつなぎ合わせるのが普通なのに何にこだわって立てたのか、それに外から見られることを避けるように建てられた塀や道中の竹林。倉も行き来ができるようになっておらず、これだけ大きな敷地と日本庭園のような雅な池や今から望む景観を楽しめるように計画すると思うが、この計画は何を要望されて建てられたのだろうと思わずにはいられない。決定的なのは今から望める景色が自然ではなく映像だったからだ。いよいよ疑問が疑問を呼び今の状況も忘れてこの建築物に考えを巡らしていると彼は冷えた水と、冷たいお茶の入ったペットボトルをもって現れた。着替えたから余計にわかる、無駄のない筋肉質の体。嫌味のない清潔さ。これを世間ではイケメンというのだろう。と思いながら

「何から何まですみません」

と篠崎は改めて礼をいう。

「私は篠崎と言います。もうすこし西の方の街で住んでいます。なぜあの駅で倒れていたのかそれまでの記憶があいまいで、ただお酒を飲んだ記憶はないんです。」

と紹介と状況を説明した。すると彼はやっぱりかという表情を一瞬浮かべたが

「私はミオンと言います。変わった名字と言われますが、おかげで忘れられることもないので最初を乗り切れば後は楽なものです。名前珍しさに人が寄ってきますから。」

というミオンの目には巣に落ちた餌を見る蟻地獄の今か今かと待ち構える嫌な目であった。そんな不思議に思っている顔をしている篠崎に

「気分はどうですか?酔い覚ましの薬でも用意しましょうか。」

という篠崎に

「どうにもこうにも記憶があいまいで気持ちは悪いんですが酔いとは違うみたいなんです。頭痛薬があればもらえますか」

というとミオンは

「アスピリン系がいいですか。イブプロフェン系がいいですか。ロキソプロフェン系がいいですか。他にもありますが。今すぐに聞くものだと漢方薬はダメですから、そんなにきつくもないのならイブプロフェン系がいいかもしれません。片頭痛ではないのですよね?」

聞きなれた単語が並んでいく。しかしこの男は何者なんだ。同業者なのか。

「そうですね、もしあればアセトアミノフェン系があればそれを、少し熱っぽいので」

なるほど、と理解したように彼は立ち上がり、一般的な風邪薬を持ってきた。

「これなら、鎮痛作用もあり、解熱効果もありますからちょうどいいのではないでしょうか」

というとさらに彼は言葉をつないだ。

「しかし篠崎さんは薬の特性についてよくご存知なようですね。薬剤師か何かされているんでしょうか。正直このような単語を出すと何を言っているのかわからないという顔をされる方が一般的ですので」

と言って、お茶をコップに移して一服着いた様子だった。

篠崎はそりゃそうだろう。普通はしらない。風邪薬は風邪に効くと思っている日本人は多い。しかし風邪という病気は存在しないのだ。風邪とは何か原因はわからない体調不良のことである。つまり風邪薬とはその体調不良でよくみられる発熱や吐き気、頭痛を抑える薬なのだ。それを知って風邪薬を出したのであれば、少なくとも市販薬についてはかなり詳しい人物であることは容易に想像がつく。

「はい、私はライフサイエンス系の研究者をしておりまして、大学のころは医薬に関わる研究もしていたので一般的なことは知っているつもりです。しかしミオンさんもお詳しいようですが同業でしょうか。」

「いえ、私は薬学部で学んでその後は薬剤師としてドラッグストアで楽な生活をさせてもらっています。」

いやいや、一般に比べてドラッグストアの薬剤師は高給かもしれないがこの家を維持するほど稼ぐことはできないだろう。ここはこのあたり一帯でも高級住宅街、なのに周りにマンションもたっていないことからするとその空地も全てミオンの所有の土地であることをうかがわせる。つまり、金が有り余るほどにあるということは容易に想像がついた。そしてこの男にはその金に対して一切の興味がないということも同時に理解した。

「金持ちというのは本当はあなたのような方を言うのでしょうね。」

と失礼極まりないことを口走ってしまった篠崎に対して

「お金持ちではありませんよ。私は今まで自分をそう思ったことは一度もありません。その感覚がずれていると感じることは幾度となくありましたが、その方々はお金とは何かを理解されていないとわかるとやはり、このような私利私欲にまみれた人間は寄ってくるんだなと思うだけですよ。」

とこれまでの経験を思い出し、不快感を隠し切れずにいた。

「しかしあなたも人にはそういいながらもそれは話題であり、会話の本質ではないのが面白い」

と同種を見つけたと喜びの笑みを浮かべたのを隠すようにコップで口元を隠す。

「申し訳ありません。あまりにも立派な玄関だったので、こだわりのある家なのかと思いまして、しかし、なぜ、居間から望む景色を映像に替えられたのですか?」

「あぁ、なるほど、あなたは建築の知識もお持ちのようだ。隠さずに言うとこのあたりは急速に発展したために急に騒がしくなってしまってね。昔は縁側で月や竹林を見ながら酒を飲み、時には虫の鳴き声に耳を傾けたものでした。しかし今は周りの騒音があまりにひどくてね。だから仕方なく、完全に防音仕様に変更して、大型画面を取り付けたというわけさ。おかげで何の音も聞こえないでしょう。聞こえるとすればこの家の呼吸とでも言いましょうか。木造建築の楽しみ方の一つですよね。」

というミオンの言葉にはある程度納得したが、木造建築を楽しむのに柱に上からシールを張っているのは理解できないし、何より、今の畳のほんのりとかおるイグサのにおいもない和室に楽しみがあるのかと反論したい気持ちでいっぱいだった。しかし楽しみ方も人それぞれ、この方が満足しているなら何もいうまいと決め、出された薬を水とともに流し込む。

「どうですか。帰れそうですか。難しいようなら家に連絡してここで止まっても構いませんよ。部屋は空いていますし、ご家族も私のことを話せば、無理に帰って来いとは言わないでしょう。」

とミオンはいう。篠崎としてはわが子の顔を見たいがために帰りたい、しかし、それに反して下半身の力が入らなくなっていく。ふとカノの影が脳裏をよぎる。これもカノの世界なのか。それとも現実なのか、その判断基準などない。そう言われ見るとどの世界が正しいなど個人の思込みでしかない。自分が生きていた世界は確かに自分の育った世界だが、カノの体験させた世界もまた真実であり、それを彼女が繰り返し誰にでも体験させることができるとしたら、いや彼女ならできないとは言い切れない。ということはここも彼女の世界ということもありうる。それは自分が家に帰って子どもを抱ければ多少違う世界でも構わない。他がどう変貌していようと自分と穂香との関係が変わっていなければ他がどう変わっていようがどうでもいい。そんな考えを持つようになっている自分に驚いた。

「どうされます?帰られますか」

という不安をにじませた顔をしたミオンに下半身に力が入らないことを伝え、お世話になりたいと告げ携帯を取り出し家に電話を入れた。

状況を説明し、子どもの声を聴かせてもらい、すこし安心してミオンに代わってもらった。

ミオンからも丁寧に妻に説明してもらい、今日は一泊させてもらうことにした。ミオンは今から客間に移動させようとするが下半身に力が入らないために篠崎はこの居間で一晩休ませてもらえるようにお願いし、ミオンも了解し、布団をもってき、整えたうえで横にさせてくれた。気持ちを楽にさせる香でも焚いてくれたのか部屋を心地よい香りが包み、篠崎は眠りに落ちる。その際天井を通るむき出しの木材から何かしらが垂れて乾いているものを視界にとらえた。このような家だ。地震などもあるだろうし、補強材でも塗ったのだろうか。気持ち程度にしか効果はないのにな。と思いつつ意識は深く闇の中へ消えていった。

 翌朝目を覚ますと日は昇りきっており、眠りが深かったことを意外に思った。いや、おかしいと思った。篠崎は基本的にショートスリーパーであり、このような長時間一度も目が覚めることなく眠り続けるのはおかしいと思った。思い浮かぶのは出された風邪薬だが、あれは市販品のもの、しかも粉末のもの液体ならともかく開けた痕跡も残さず、内容物を入れ替えることは不可能だろう。ん?そういえばあの時水を飲んだがミオンはペットボトルのお茶を飲んでいた。どういうことだ。水に強力な睡眠薬でも入れられていたのか。それとも風邪薬になることを承知で相乗効果を生む睡眠薬を水に溶かしこんでいたのか。それとも意識を失うようにした後、麻酔でも打たれたのか。しかし、体を見る限り傷もなければ、何も失ったものもない。彼が想像通りのことをしたのならなぜが残る。ないかあるのか。ミオンはいったい何者なんだ。考えが煮詰まったのを見計らったようにミオンは居間に朝飯と昼飯ともいえる食事を持って現れた。

「おはようございます。調子はいかがですか。」

と何も知らないとばかりにミオンは平穏を装いながら卓に食事を並べた。

「おはようございます。おかげさまで、よく眠れました。私はショートスリーパーで薬物でも投与されない限りこんなに人の家で眠ることなどないのですが、おかげさまで下半身の麻痺も抜け、いつも通りに動けそうです。」

と敢えてミオンが薬を盛ったのだろうとほのめかした。するとミオンは隠す様子もなく

「その通りです。なんせ奴らは狡猾ですから、人をだますためには何でもします。見た目を装うことは当然のように行い、会話も違和感なくする。あなたのように倒れたふりをして人の不意を突いて襲い掛かるものもいる。だから、あなたが自分の家に誘わなかったことが不思議だった。もしかしたら違うのかと思わせてくれた。だから私の家に招き、失礼ながら、昏睡状態にして体を調べさせてもらいました。」

と話した。

「奴らとは何ですか」

といいつつ、カノの影が色濃く印象付けられる。そういえばユナに飲まされた薬は何だったのか、その後の記憶がないことからするとここは元の世界ではない。カノに限ってそうそう簡単におもちゃを捨てるはずがない。楽しめるうちは楽しむ存在であろう。本当に容姿は可愛いのに底の知れない存在だ。篠崎はカノのおもちゃとして壊れるまで遊ばれるのだろうか。もう子どもを抱くことはできないのだろうか。

「もう、帰れないのか。」

と篠崎は言うとミオンは『帰れない』の意味を勘違いしたのか、

「篠崎さんは帰れる可能性がありますよ。一応電話でいるということは確認できました。しかし、それが全て奴らの罠である可能性がないわけではありません。」

と肩に手を置いてあきらめるのは早いと言わんばかりに気をしっかり持つように励ましてくる。篠崎はその言葉の言わんとすることも、発した言葉の音すらぼやけてしまう。どこにも救いはない。。。意味も分からず理不尽にこんなことに巻き込まれて、どうしてこうなった。篠崎には見上げても空も、ましてやわずかな希望の光さえ届かない絶望という穴にはまったのか。しかしカノのいうことは真実もあるのだろう。この状態も見ているのだろう。この状態を自分ならどうとらえ、どう対処するのかを。ならば、カノの期待以上のことを成し続ければ、期待もできるかもしれない。彼女が無邪気であることが真実なら、おそらくわずかな希望を持てるだろう。だが、カノは最初に私は死んだと言っていたがそれが真実なら、どうしようもないが。。。

「かけてみるかな」

と篠崎は自らの進む道を決めた。

「ご自宅へですか?再確認してみるのもいい考えだと思いますよ」

とミオンは的外れな受け取り方をする。しかし、意志を明確に定めた篠崎にはそれは必要なことだと思った。加えてミオンにこの世界のことを聞く必要もある。この男がどういう人物かはわからないが少なくとも今すぐに手にかけようとは思っていないことが分かった今、電話をかけ、そしてミオンに話を聞くことにした。篠崎は携帯を取り出し電話をした。

「もしもし、昨日はごめん。昨日電話で言ったように調子が悪くて、親切な『上岸さん』の家で一日お世話になった。おかげさまで気分も体の調子もよくなった。彼にお礼を言ってもう少し養生してからかえるから今日の夕刻頃には帰るようにするよ。』

というと

「そうですか上岸さんにお礼を言わないといけないわね。代わってもらえるかしら。お礼も兼ねて私が迎えにいきましょう」

と言ってきた。こいつは妻ではない。少なくとも昨日はミオンの実名を挙げたのに上岸という名前に何の反応も示さない。明らかにおかしい。人の家に泊まることに対して目くじらを立てて怒り何もかもがお前が悪いと言わんばかりにまくしたてるいつもの妻とは別人のようだ。そう言われれば昨日も気が回らなかったがどう考えてもおかしい。しかも泊り先の人物の名前を間違えるなどありえない事態である。

篠崎は、ミオンに残念そうに首を横に振り電話を渡すと、ミオンは肩に手を置き、君は生きているのだという気持ちを込めて手には決意にも似た力が込められていた。その力があまりにも強く篠崎は声を抑えながら床で悶えている。

「電話を替わりました上岸です。旦那様は昨日と比べてかなり元気になられたようです。ですがまだ意識が混濁しているようでもう少しこちらでお預かりしても構いませんが」

「いえ、上岸様にこれ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきませんので、お迎えに上がります。住所を教えていただけますか。すぐに伺いますので。」

というとミオンは確信したと言わんばかりに篠崎を見ないように話を続ける。

「住所は藤沢市の1号線に出る道の途中にオートバックスがありますよね。そこから少しややこしい道順になるので、そこで私がお待ちします。」

「それではすぐに出ますので20分ほどかかります。ですので20分程度たちましたらその辺りで待っていてもらえませんか?私は白のアイシスで向かいます。お手数おかけして申し訳ありません。」

というとミオンの都合も聞かずに電話を一方的に切った。ミオンは篠崎の両肩に手を優しく乗せ、

「残念でなりません。あなたはついてこない方が良いでしょう。」

というと手慣れたようにバックパックとショルダーバックを持ち、小旅行にでも行くような荷物を持ち出発しようとする。その手を篠崎はつかみ同行を懇願した。篠崎を連れていくということで荷物を家に忘れたから一度ミオンの家に赴いてから帰すという段取りで進めるとミオンは指示した。

ミオンは無線イヤホンを耳につけ、さらに腰の後ろにはサバイバルナイフを二本備え、足首にはそれより少し短いものを仕込んでいく。何でできているのかわからない布を着たうえでいつも通りの服を着る。

篠崎はあっけにとられながらミオンの身支度を見ながら、自分は何もないな。

「なぁ、ミオン。自分にも何か武器を貸してくれないか」

というとミオンは

「君には武器より防具を身に着けた方がいいだろう」

と先ほどの布を渡してきた。触ってみて初めて分かったが伸縮性に優れ、にもかかわらず裂けない。見た感じはパンストに使用されているようないかにも伝線してすぐにダメになりそうな見た目とは裏腹に何をやっても手では糸一本着ることができなかった。それをみてミオンは笑いながら

「篠崎さんは不思議な人ですね。今から命を懸けるというのに。でもその布を巻いていれば奴らの攻撃には対応できようが、顔だけは守れないから、本当に気をつけてくださいね。」と言われ

「冗談きついですよ。殺すなんて言いすぎ何じゃ・・・」

「いいえ、そういって何人もが消えています。とはいえ別の、やつらが消えた人間を演じているために大きな混乱は起こっていないですが、ニュースなどを見ている限り、政治、メディアの多くの情報網は向こうに取られていると思われます。」

眼が真剣さを物語っていた。これまで見てきた世界をまた増やしたくない。そいう言った感情が満ち溢れていた。

「そうなんだ、じゃあこの布も顔周りにベールのように巻いておくか」

と商談めかして言ってみると

「賢明なご判断です。何かあった時あなたを守り切るより私は自分を優先します。それも理解してください。」

と言われ、ことが鬼気迫る状況であることを無理やり納得させる。

「そろそろ行きましょうか。」

と少し早く出発した。その理由はミオンの家から離れた場所を待ち合わせ場所に指定したからだ。おそらく住居を知られるわけにはいかないのだろう。それぐらいに危険なものを相手にするということか現実味を増していく。

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