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condenced caos  作者: 朋枝悟
歩みのはじまり
17/22

あふれ出る恐怖

 扉を閉じると同時に明かりがつく。そこには見慣れた自分の部屋がある。しかしこれは一度入って逃げた後の部屋だ。扱いやすい武器と呼べるものはほとんど残っていない。カノできることなら私が入る前の時間に送ってほしかったんだが、それにも対価が必要であるとすると、その節約のための考えるべきか。と考えを改め、残っていた未研磨のナイフ両手首、腰、脹脛の外側に装着した。そして、目線を日本刀の方に移す。そこには30振りはくだらないほどの刀が飾られている。

「さて、どれを持っていくか。今回の世界も人の世界なら日本刀は長すぎる。かといって予想を超えた人ならざるモノに対しては多少有効かもしれない。二振りほどにしておくか」

と刀を眺めているとそのうちの半数以上から何かしらの力を感じる。

「これがカノの言っていた価値あるものの反応か。」とその中でも一段と異様な感覚を放つ刀を袋から取り出し、刀身を見る。見た目には当時と何の変化もない。しかし、何かに飲まれそうになる感覚を受ける。

「この刀は確か。。。やはりそうか。」

と納得がいった。実際に何人もの人を切った刀だったからだ。これから放たれている異様に強い力はその時の切った側、切られた側の負の感情が蓄積したせいか。と理解した。しかしこれは武器としてではなく借金返済に充てる対価に当てた方がよさそうだ。と同様に強い力を感じる刀はハードケースにしまい、自分が砥ぎに砥いだ三本杉紋様の際立った太刀を一つ、そして平造りの直刃の脇差を腰に備え付けた。そして、自らが調合した自家製の爆弾、閃光弾、としてナパーム弾を5つずつ準備し、バックパックに入れる。加えて懐中電灯と火おこしのためのライター、多少のレーションを詰めた後、防弾服を着用した上から刀を隠す用のロングコートを身にまとう。

「まぁ、こんなものか、持ち変えれるなら調合するための薬品は持ち帰りたいが、量的に難しい、あきらめるか」

と薬剤をそのまま置いていくことを決意し、見覚えのない扉を開いて乗り込んでいく。しかし開いた先は真っ暗で、先が見えない。

「おっとこれは予想外だな」

と篠崎は部屋に戻ってケミカルライトを数本ポケットに突っ込み、一本を割って光らせたものを中に投げ込む。しかしそれは扉の中に入った瞬間その光が確認できなくなった。

「飛び込むしかないのか。前置きが長かったせいか、なぜか入ることに今まで以上にためらってしまう。しかし、目的を達成するためにはいくしかないのだと言い聞かせ、足を踏み入れる。しかしその先に床の感覚はない。あれ?と思っているとドアが急に動き扉が閉まろうとする。当然その間に挟まれた篠崎は踏ん張る先がないために意思とは関係なく、そのまま全てをその扉の先の世界に任せるしかなくなった。しかし落下すると思っていたが、落下時に感じるあの気持ち悪い感覚がない。

「落ちてないのか。」

なら、さっきの扉もそこにあると考え立とうとする。その瞬間、篠崎は冷や汗が止まらなくなる。

「床というより、下がどちらかが分からない。」

立とうにも下が分からず、産まれたばかりのシカのように立とうと試みるが足に力を入れた瞬間にどこかに転がっていくような頭が回転する感覚だけがする。しかし体のどこにも何かものに当たった感覚などない。視界を奪われ、足元がどこかもわからない状況がこんなに不安をあおるのかと全く止まる気配のない汗、焦りがさらに追い打ちをかけるように服が汗で濡れていくのが分かる。しかしその服を伝う水分も発生したところから広がるが触ってもその広がり方が一方向に広がっていないように感じる。確認する必要があると思い、両足でバックパックをしっかりと固定して、まずロングコートを脱ぎ捨てる。すると予想通りその脱ぎ捨てるとはいえ、手の届くところに置いたおいたコートは手放した瞬間からあるはずのところにその存在を確認できない。篠崎はその不安を抑えるためにも懐中電灯をバックパックから取り出そうと探す。しかし、暗闇で光一つない世界ではバックパックをあけることすら一苦労であり、中に入れたものから懐中電灯を探し当てるのは本当に手探りで懐中電灯の形状のものを探すしかできない。今の自分は完全に無防備、今何かに襲われたら気づくことなく死ぬだろう。と思うとその探す手も探す動きから荒らすような動きに変わって、さらに不安が募っていく。

「なんで見つからないんだ。」

と叫んでしまう自分を全く抑えられない。すでにパニック状態に陥っている自分に正常な判断ができるはずがない。頭を抱えようとするがその手の先に頭がない。

「え?」

寒気と同時にパニック状態を脱する。今考えている頭はどこにあるんだ?と右手と左手を掴みその感覚を確かめ腕、二の腕へと手を動かし、首も頭もつながっていることを確認してほっと息をついた。自分が想像していた頭の位置とは別の場所に頭があったということなのか。方向感覚を完全に失うことがこんなにも不安を増大させるのかと篠崎は驚き、しかし対策は思いつかない。まずは懐中電灯を探し周りを確認しよう。とさっきとはうって変わって落ち着いて懐中電灯を探すとその形状に合致するものを探り当てることができた。急いでスイッチを探し点灯させる。その光は自分を照らすことはできる。しかし、投げ入れたケミカルライトもすぐそこにあるはずのコートも照らし出すことができない。

「なぜだ」

この距離をなら自分を照らすことはできる。しかし自分が今座っている部分は黒いままで黒ものなのかどうかも照らしてもわからない。照らして手で触れるとその手はその黒い何かに飲み込まれる。その境界は曖昧ではあるが、もし真っ黒な霧に手を突っ込んだらこう見えるだろうなと思い、篠崎は仮説を立てていく。

「まず、これまでのこの世界で体験したことだが

何も見えない。上下が分からない。おそらく何かしらの地形がある。そして非常に濃い黒い霧のようなものが数cm先の視界を奪い、光すら届かない。」

ふと気づく。

地形があるという憶測は立てなくて転倒しただけとすると地形があるというのは期待に近いかもしれない。もしそうなら俺はドアからそんなに離れたところにはいないはず、とはいえ転がったせいで方向が分からないやみくもに進むことは逆に迷宮に入り込むことになる。となると探すべきはコートか。もしコートが見つかれば、この世界の仕組みもわかるかもしれないと考え、投げた方向に体を動かしながら懐中電灯でその方向を照らす。一通り探したが見つからない。

「なぜだ」

完全にこの世界を理解する術を失ったと途方にくれる篠崎はバックパックは足でつかんだまま、どうしようかと上半身を後ろに倒しそうとした。すると上半身はそのまま後ろに倒れると同時に下半身も腰を中心に回転した感覚を得る。強制的に腰を軸にした後転を繰り返した感覚は抑えようもない吐き気を誘い。篠崎は嘔吐した。確かに何かを戻した感覚はあり、その時に胃液が口内を満たしていることもわかる。それは非常に不快であった。しかし、嘔吐物が見当たらない。どういうことだ。照明でそれを探す。普通の人間からすると全く理解できない行動だろう。しかし、篠崎にはそれを発見できるかどうかは大きな判断材料になると確信したのだ。

「やはりない、か」

しかしこの世界の仕組みが分かってもどこに扉があるのかはわからない。いや、姿を映すようなものでもカノの協力があれば帰れるのかもしれない。それは以前水桶に移った自分の姿を掴みあの世界に引き込んだカノとの経験があるからその可能性は十分にある。それにあの時とは違い今はカノとの契約もある。カノもこちらの要請に見合った糧さえあれば、迷わず力を貸してくれるだろう。

 ある程度の構造が見えてきた篠崎はカノの言葉を思い出す。対価となりうるものを探せ、そしてそれをさがす力をわざわざ託した。ということはそもそもこの世界には自力で脱出する方法はない。対価となるものを探し出して、それを利用してカノにあの世界に戻してもらうというのが筋書きだったのか。

「とはいえ、ここからでは何の反応も感じない。持ってきた刀の対価としての価値が高すぎて他を感じないのかと考えた。しかし、これらを手放し、この世界の対価になりうるものを利用するのはあまりにも失うのは惜しい。どうしたらいいか。

「そうだ、閃光弾を投げてみるか予想が正しければ、投射方向から爆発音だけが聞こえるはずだ。」

と荷物をまとめ閃光弾を片手に他の道具は全てきつく自分の身体に結び付けて、閃光弾のピンを抜き思い切り投げた。閃光弾はすぐに見えなくなり、篠崎の身体はその反動で今度は腹回りを中心としてゆっくりとした回転を始める。そして、爆発音のみが投射方向の直線状から聞こえるがその光は全く届かない。

「種が分かれば不安はもうないな。まぁ、他に外敵がいないことが前提ではあるが、この環境下で自由に動ける生物などいないだろう」

次はどうやって帰るために必要なあの世界において価値のあるものを見つけるかだな。と篠崎は理解した。そのはずだったが、なぜか、心拍が全く収まらない。当然ながら不安も心なしか軽減されているのかわからない。

 篠崎はこの世界を例えば3D モデルを行うコンピュータソフトの表現図面であると考えていたのだ。大抵のソフトではX,Y,Z軸が設定されているだけの世界、使用者は大抵Z軸を高さ方向として認識するが、実のところ、ソフトにはX方向とY方向に広がる平面にZ軸という高さであるのが当然のようにソフトを立ち上げるとZ軸は必ずと言っていいほど上下方向の設定になっている。これは児童期にXY平面の学習法による部分も多いためかもしれないが、この場合は後から追加される高さ要素は必然的に上下方向に与えるしかない。そして、我々の世界の常識である重力に対して立っているという意識が無自覚の中でそれがさも当たり前だと認識している。しかし、これらのソフトが示す軸方向はそのソフトがその座標を決定するために必要な要素であって、人とソフトでの認識は大きく異なる。となれば、そこには何もない、上もなければ下もない。当然重力などない。だから投げたケミカルライトやコートはその方向に永遠に動き続けたと考えるのが妥当という考えが篠崎の仮説だ。その仮説でいうならば、さっき回転したのも重心を支点としてその場で回転していただけ、ということだ。転がった感覚も含め視野を奪われたのだから実際に移動したかどうかもわからない。唯一の心配事は一歩踏み出したときに転がった際にいくらかの前方へ進む力が働いていた場合、回転しながら前方に進んでいた場合、今も体勢は維持している気でいるが、その間もずっと扉から離れていっている可能性である。この場合の戻り方はどうすればいいか想像もつかない。アイデアもわかないので、水分をとり、レーションを口にして眠ることにした。

 しかし、睡眠欲と比較して不安感が増していることに気づかされることになる。体を預ける場所がそもそも存在しないのだ。どう休めばいいのか、こうも方向が認識できないことは負担なのかとこの世界の本当の恐ろしさの一端を知る。睡眠ができず、日数が経てば思考能力は散逸になり、建設的な解決策を考えることは難しくなっていくということである。まずはどうなっても眠らねばと体中に荷物をくくりつけ、その上で、薬剤入れポーチから自殺可能な濃度まで精製した睡眠薬の一つを取り出し、それを歯で割り、ほんの一欠けら、取り出した一錠からすると1/100程度を飲み込んだ。すると篠崎は残りの錠剤を回収しチャック袋に入れると同時に意識を失った。正直自分にこのような使い方をすることは篠崎自身思っていなかった。

 

 酔ったような気分で目が覚める。薬の副作用とも考えられるがそれだけではない。自分が目を覚ました時、上も下もわからないため、すでになかった自分の位置が分からない。上を向いているのか、横を向いているのか、何もわからない。その方向感覚の喪失がその気分の悪さの理由を理解した。加えて少なくとも多少なり体の休息を得られたことは大きい。しかし薬剤服用による睡眠の場合精神的な疲労は殆ど回復しない。だが睡眠がなければ心身の疲労を背負うこととなる。いずれにせよ、早急に出る方法を考えなければならないと、篠崎はこれまで以上になかったほどの不安に支配され、自分の行動の判断さえ良策なのかさえ検討する余裕がなくなってきていた。そして、いついかなる時も視界を完全に奪われ、方向性も定まらないことがここまで爆発的に不安を増大させるとは想像もつかなかった。

 そう、本当のカノが送り込んだ世界は、篠崎が思っていたような生やさしい世界ではなかった。そこは自己の存在さえも疑うような、何もない世界。上もなければ下もなく、光もなければ、話す相手もいない。孤立、孤独による不安は産まれる前から重力と言う力によって上と下を無意識的に認識してきた人類にとって、根底が覆るほどの不安感。その上で視界を奪われ、何の感覚器にも刺激が入ってこないことに対する不安は最終的には自分の存在さえ否定するに至る世界だったのだ。そんなことを今の正常な考えをすることすら難しくなってきた篠崎にとって、そのような可能性を考えることは無理と言ってもいい。

 カノはその篠崎の行動を頭の片隅で見ながら、目の前で不安そうにしているユナに

「彼なら、きっと大丈夫だ。私の言ったことを理解していれば、彼はすでにその対価も持っているのだから、そんなに心配そうな顔をするな。」

と慰めつつも、すでにここまでユナは篠崎の存在に依存していることに多少の嫉妬を感じている自分を笑わずにはいられなかった。

「ユナは篠崎が好きか」

とユナはいつもと変わらぬ単調な言葉で聞いてみる。

「はい、私はカノも篠崎さんも大好きです。これからも三人でいたいです。」

と答えた。その何を当たり前のことを言わせるのかと疑問をもつかのように、なぜそんな質問をしたのかを聞いてくる。

「いや、ユナは篠崎のようなおじさんが好きなのかと思ってな。」

と心にもないことを言いいたずらっぽく笑って見せ、煙に巻くことにした。

「もう、カノのそうところは嫌いです。」

可愛くプンプンという効果音でもつけてもいいのではないかと思うほどに裏表のないユナの行動にカノは複雑な気持ちで

「ユナのその顔は私は一番好きなんだがな。」

とユナをさらにいじりながらも、篠崎に対してもう少し、分かりやすいアドバイスをすべきだったかと後悔せずにはいられなかった。少なくとも今の篠崎の様子からは戻るための方法にはたどり着けないだろうと思わずにはいられなかった。


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