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condenced caos  作者: 朋枝悟
歩みのはじまり
16/22

契約と信頼の中で

 「カノ、あの家の造りをこれに変更してくれないか」

篠崎はいつも通り外で茶をたしなんでいた。そこに篠崎が家の空間設計図を記載した図面を差し出したのだ。当然そんなものに興味がなかったカノは見ること自体初めてというように差し出された紙切れを見る。

「何を書いてあるのかわからん。君は私を全知全能とでも思っているのか。」

「あぁ、申し訳ない。説明するよ。」

と篠崎は各部屋の空間と使用用途を説明し、それを一通り説明した後、家具の設置をお願いした。

カノはめんどくさそうにもにょもにょと何かを口にしている。

「はい、これでどうですか。」

とカノは言う。

「そうか、ありがとう。」

と伝えたのち、急いで中身を確認する。天井高が50cmもない。

「カノ、天井高をもう少し高くしてほしいんだが。」

というと

「この紙切れにはそれが書かれてないじゃないか。」

と言いつつもどれくらいの高さにしてほしいのかを聞いてきて2,5m程度と告げると

「了解しましたよ~」

と返事をすると、腕をぶんと振った。

「はい、ご希望に沿いましたでしょうか。」

というので確認しに行くとこちらが希望した通りになっている。窓や扉の形状を除いてだが。まぁ当然である。建築知識がなければ図面表記の意味が理解できないのは当然であり、窓なのか扉なのかも理解できないのは仕方のないことで、よくよく考えれば、平面図しか渡さなかったのだから、知っていても高さなどの寸法はわからない。あぁ、最低だな。と思いつつ、再度カノのところに行き自分の落ち度を謝罪し、一緒に来てもって、変更してもらうことにした。一通り、住みやすい環境が形成されていく。

「おかげで助かったよ、ありがとう。カノ」

と言うとカノはスッと右手を篠崎に突き出した。その右手は何かを要求していることが分かるように催促する。

「あぁ、お礼ね。ありがとう」

と握手をする。するとカノはこの馬鹿者がと言わんばかりに篠崎の脳天に衝撃を与える。そのどうやって殴ったのかもわからなかった篠崎は意識を失い気絶する。

 

光が瞼を通して眼球を刺激され、篠崎は意識を取り戻す。また何かカノにされて今回もまたよくわからない世界に叩き込まれたのかな。と考え、ため息をつきつつ目を開いていく。すると目の前には不安を抱えた少女の顔がすぐそこにあった。篠崎はこの状況が理解できない。するとその少女は

「あの、篠崎さん、大丈夫ですか。会いに行こうと玄関まで行ったらカノが起こって出てきて、篠崎さんを外に放り出したんですよ。その時頭も殴ったといっていましたが頭の方は痛くありませんか」

と話しかけてくる。髪の毛が垂れていたせいで誰かわからなかったがその少女はユナだった。

「そんな怒っても篠崎さんがケガをしないように落とすとこに大きいクッションを置くなんて、なんだかんだ言って本当は優しいんですよ、カノは不器用ですが優しい子ですよ」

という。なるほど、布団のような居心地の良さはそのせいだったのか、しかし頭にあるのは何だろう。枕にしては堅いのだが、体温と同じ程度の温かさで安心感を与えてくれるその枕が何なのか手で確かめようとした。

「きゃっ!!」

という声が聞こえると同時に枕が抜き取られた。当然頭はクッションの上に落ち、その沈み込みもなかなかに気持ちがいい。そしてユナに目を向けると恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。

「ごめん、余りにも気持ちよかったので、何かなと思って。ってこれもセクハラになってしまうのかな。」

と膝を貸してくれていたことを理解したユナに率直な感想を伝えてさらに墓穴を掘ったと思い、

「気を使ってくれてありがとう。頭ももう痛みはないようだし、しかし何で殴られたのかわからなかったんだよ。いきなり脳自体を直接殴られ、記憶飛んだなと思ったくらいの傷みだったのは覚えているんだけど。」

「あぁ、カノの術法の一つだと思います。私も昔、臓器に問題があったのですが、カノは私を横にさせて、体を眺めているだけで何をしているんだろうと思っていたら、カノからこれでもう大丈夫だ」

と言われたことがあるんです。それと同じことをしたんじゃないかとユナは考えたようだが、カノのその能力薬にも毒にもなるなと背筋が凍る思いで何か対価となるものがないか考えた。しかしカノが対価としてくれるものが何かも想像がつかない。

「ユナ、相談があるんだけど。聞いてもらえないかな。」

とユナに頼むとどんどん後ずさりしていたユナの足が止まった。

「何ですか」

と蚊の鳴くような声でしか聞こえない、当然である。物理的距離がそもそも遠いのだ。聞こえたのかもわからないので、篠崎はもう一度同じことを聞いてみた

「相談に乗ってほしいんだけど、助けてくれないか」

先ほどより少し大きめの声で確実に聞こえたはずだと篠崎は思った。

ユナは両手を口元で広げて、

「何ですか」

と言っているように感じた。もうそういっていると思うことにして篠崎は

「とりあえず、座って話を聞いてほしいからここにでも座って」

とクッションの空いている部分を叩く。すると好きな男の子に近づく引っ込み思案な女の子のようにこちらに寄ってくる。その姿を見て、初々しいなと何も知らずに生きていければよかったのに、と思わずには入れなかったが、今は不動が吉と考えてユナが座るまで何も言わずに景色を眺めながら待った。

その時、視界の中にパラソルを広げて今日は珍しく氷の入った何かを飲んでいるカノが読書にいそしんでいる姿が見えた。

(やばい、急がないとカノに何をされるかわからない。ユナ早く座って話を聞いてくれ)

とカノには気づいていないふりをしてユナが座ったので、再度謝罪し、そのことの経緯を説明した。

「で対価を払えと手を出されたので握手をして礼を言ったらこうなったんだ、ユナならカノが何を渡せば満足するか知っていると思って、何か俺でも渡せるものがないか相談に乗ってほしいんだよ」

と要件を伝えた。

「あぁ、カノが手を出しているのに握手をしたと。。。失礼ですが篠崎さんは女の子のこと理解されていますか。それってどう考えてもおかし頂戴くらいのものですよ。」

「なるほど、それで握手されたら、確かにボケだと思ってツッコミを入れたわけか。ありがとう。」

何か焼き菓子でも包んでカノに渡してくるよ。というと篠崎は急いで家の方へ向かう。玄関を超えキッチンに入り、いくつもある焼き菓子缶から数枚を取り出し、こぎれいなさらに盛り付けてカノに届ける。

「カノ、部屋の改造を手伝ってくれてありがとう。これはそのお礼だ。」

といい、用意していた焼き菓子を差し出す。

「はぁ、君にはこれが何に見える?」

と先ほどの氷の入った液体を指す。

「冷えた飲み物だろ、さすがに俺でもそれはわかる。」

と言った瞬間にカノが以前に無理やりに篠崎の脳記憶に叩き込んだお茶に関する記憶が思い出されて、

「あっ」

と誤ったと気づきついつい声が出てしまった。

「分かったならいい。今回はこれを対価として受け取っておこう。ユナ、篠崎が私たちの気を引くために焼き菓子をくれるそうだ。ユナも嫌でなければ食べてやったらどうだ。」

と篠崎の苦々しく感じている顔をおかずにジュースを楽しむカノはユナに声をかける。

ユナは恐る恐るカノに近づいていく。その間ずっとユナは篠崎を見ている。正直篠崎は大きなショックを受ける。もう少し気を許してくれてもいいのに、まぁ、ユナからすれば変質者と見られても仕方がないのだが、唯一話をすることのできる存在に距離を置かれるのはあまりにも精神的なよりどころを失う。何とかならないかなぁ。と悩んでいる篠崎の様子に十分楽しんだカノは

「そこまで気にすることはない。ユナはそんなことで嫌悪したりしない。だが、君に対しては少々対応は違うようだ。もしかしたらユナは君のことを人並み以上に意識しているのかもしれないな。」

とギャク漫画にでも出てきそうな笑顔でカノは篠崎を見る。もう何でもいい、三人が普通に話せるようになれば今はそれ以外に望む物などない。

「多分おいしいから、三人で食べよう。」

と篠崎はユナに伝える

「はい。」

とかわいく答え歩みを早めていくユナはなんだか楽しそうだ。

三人でテーブルを囲んで、お菓子を食べながら、これまでの話をユナにそれとなく聞いていく篠崎。それはユナの経験を想像した上で篠崎が考えて話を切り出している。それを知るカノはその二人の気持ちを覗き見ながら実際に発現される言葉のギャップに対して笑いを堪えられない。なぜならこの二人の気づかいの根本にある思い込みがそもそも間違っているからだ。だからこそカノは笑いを堪えるのに必死で会話には参加できないでいる。その奇怪な行動をみせるカノを無視して篠崎はユナと仲良くなろうと、そしてこれまでの経験を聞くように、言葉を選んでユナに問いかける。

 「ユナは毎日どんな生活しているんだ。」

と聞いてみた。ここでゆっくり過ごすにはどうすればよいのかを知ることは、自分の時間を作るために重要な要素と考えていたからだ。

「私は、お菓子を作ったり、洗濯したり、掃除したり、編み物、、、したりですかね。今は編み物はあまり気乗りしなくなってしまっちゃいましたけど。」

「そうか、キッチン周りや風呂が使えるのは便利だし、助かるんだが、洗濯機は普通の家庭用なのか?掃除もロボット掃除機をイメージしていて、俺の家には各部屋にロボット掃除機を置いてもらったんだが、驚くほどの小型でどうやってほこり吸ってるんだというのと、こんなにどこに入るんだって程にタンクに詰まってるんだ。カノの基準が分からなくて未だに洗濯機は怖くて使っていないんだ。」

「ロボット掃除機?あの一定期間経過すると自動で掃除してくれる機械ですか。」

「そうだけど、知らない?ユナの世界は俺のいた世界とうり二つだったから当然あると思っていたんだが。」

と首を傾げるユナは

「私の家はそんなに電子機器にあふれた家ではなかったので。」

と答えながら洗濯機のことを話してくる。

「はい、余りきれいにならないんだけど、手で選択するよりはよほど楽でいいです。隣には脱水層もついているので本当に楽になりました。服の傷みは前の方が加減しやすかったんだけど、慣れちゃうとやっぱり楽な方を選んじゃうよね。」

と笑った。はじめ、ユナが何を言っているか、全く分からなかった。あの自分が体験した世界とユナが真実を知ったころの時代は異なるということだろうか。いや明らかに違う。ユナは自分が体験した世界よりさらに昔時代で体験している。これはどういうことなんだろうか。この世界に来た時からいける世界もその時代に変更されるのだろうか、それとも関係なく時間は進んでいるのだろうか。もし今あの世界にユナが行けば、俺が見てきたあの世界に行くのだろうか。そんな疑問が脳裏をよぎる。

「カノは戦争経験者なのか」

と直接的ともとれる質問をユナに問いかける。

「なぜ、そんなことを聞くんですか。あれを戦争と言うならそうなんでしょう。家族が友人が家が遊び場が一瞬で焦土に変わるあの経験は戦争だったのでしょうか。一方的虐殺、いえ、帰化とでも言えばいいんでしょうか。私はそれで死ぬ思いをし、心優しい方々に保護されたんだと思います。」

カノはその時容姿のままということなのか、ここでは時間がたっているように見えてカノもそのようなことを言っていたが外の世界ではここの時間の経過はないに等しいのだろう。そして話からするとユナは日本人だ。戦争という印象一瞬で空間が焦土と化す経験はまさに原爆の生き証人である。当の本人はその記憶に多少の蓋をしていたようだが、今はその意識は強くもないようだ。

「そうなのか、じゃあ洗濯機の最新モデルとか掃除機や家電の最新器具も知らないんじゃないか。今の洗濯機は服が伸びるなんていう心配をすることはほぼないし、初めに設定しておけば乾燥も済ませてくれるんだ。だけどやっぱり太陽で乾かした方が気持ちいよね。」

というと目を輝かせてそんなものがあるんですかという風に前のめりに聞いてくる。

「何なら、見に来る?とはいえ、掃除機もカノの用意してくれたものが俺の知っているものよりもかなり性能が高くなったものだったので、洗濯機もさっきの話の予想を超えている可能性があるんだけど。」

というとカノは悩むことはなく

「はい、ぜひ!!」

と答え、立ち上がると篠崎の手を引きその家電を見に行こうとする。その二人のやり取りを見ながらカノはなぜか悲し気な目線を向けていることに気づいた。嫉妬ではないのだろうがあの表情にはどういう意味があるのだろうか。

「なぁ、カノ」

とその理由を聞こうとするがこれまで見たことのない無邪気な子どもが親の手を引っ張るようにユナがその掴んでいた手を離さずに見に行こうとするユナの騒ぎ声にかき消される。そしてそのままカノから二人は離れ、篠崎の家の中に消えていく。

「仲良く遊んで、まるで親子のようだな。おそらくは。。。いやこれは私の期待も含まれているな。」

とティーカップに入った澄み切った茶を眺め、それをティースプーンで掬い上げてはそこから落ちていくしずくをはかなげに見つめる。

もう限界なんだ、というようにカノはテーブルに突っ伏する。 


 篠崎は自らの家族の安否を心配しないままベッドに入ることはなかった。しかし今ではユナとカノを幸せにすることに対して、これまでの世界の異質ではあったが、自分がいた世界にでも環境がそうさせる可能性が否定できない。現にユナの世界は篠崎の世界では言えないと否定できない部分も多い。なぜなら、篠崎が保有していた、ナイフや刀がそのまま自分の知る姿でそこにあったからだ。篠崎の心にはユナの世界の方が篠崎の生きていた世界よりも健全ではないかと思っていた。篠崎にとって篠崎を育てた世界は人間が頂点に立ち、殺し合い、2000年以上の時をかけて得られた束の間の休息期間に生まれたのが自分であるなら、人は同種を殺し、土地を技術を盗み、簒奪してきた歴史であり、その筆頭が今のそれぞれの国という組織の中枢で利益を貪っているということだ。これは他種族に侵攻されそれに対抗し違う種がその生存をかけて争っているユナの世界は望ましい世界ではないかと感じるのだ。現に篠崎の世界ではその休息期間が終わりを迎える期間にだったと感じる。世界の絶対的強者として君臨した国がその形を変え、それに連なる国の技術が更新し、いつその形態が変貌してもおかしくない状態ともいえる。これは中枢で利益を得てきたものがその欲に飲まれ、さらなる支配欲に突き動かされる形で発生するもの。もう一つはそのかごの中で育てられている家畜と変わらず搾取されるだけの存在であることに気づき、行動を起こすもの。篠崎の世界では代理戦争と言われていたが、当の矛を交える存在には生存競争に勝ち、より豊かな生活を求め、自らの存在を承認させるために互いに血を流す。それが広がれば世界は変わるのだろうが、その前には必ず、その中枢の存在の決定によってその全てを無に帰し、世界の構造に疑問を持つものは排除されるシステムが機能している。武器を持たずとも書にしたためその考えを暗に伝えようとする作品も増加し、その中枢に近しい籠の鳥が他の中枢の存在に情報漏洩し、自らの存在を守ろうとするものもいるが、所詮はその頂点にいる利益を得る中枢の存在が変わるだけで自らの訴えなど誰も気づかず、拾うこともないように巧妙にシステムが構築され、その中枢は互いに互いを飲み込むことを考えながらも、自らの地位を守るためにそれらも互いにその地位が守られるようにシステムを構築しているのだ。

「同種殺しで成り立ち、存在数を制限する世界と、他者との生存競争によって成り立つ世界のどちらが健全なのか。なんて考えても詮無いことか。」

と考える日も増えていくのだった。そして篠崎は所詮は自然科学者であり、後者の考えを真とする思いは日に日に強くなっていくのだった。

 「おはようございます。篠崎さん」

と家を出るなり、出町でもしていたかの様走ってくるユナの姿をとらえ、手を振りながら

「ユナ、おはよう。」

と挨拶を交わす。以前にユナに家電を見せて以来、ユナもカノに同様のものをお願いしたこと、カノが俺につけとしてそのような器具交換をしたことを聞いた。それ以来、ユナはよく篠崎と同じ時間を過ごすことが多くなった。今となってはそれは必然とも感じる。おそらく同じ国の出身で生まれた時代が違うのだ。ユナがディナーに誘ってくれた時に出た和食の味は忘れそうになっていた、味噌の味、そして白米のご飯のおいしさを実感させてくれた。しかし、洋風料理についてはあまり知らないようで、そこから考えても彼女は幼く見えても自分よりも古い時代を生きてきた人物である。聞いてはいないがそれはおそらく間違いないことだが、見かけが少女であるユナ、ここ数日ユナと過ごす時間が長かったせいかユナが少女ではなく、大学生あたりの年齢だろうと確信できた。これは会話からわかったことで彼女は刺繍や今風に言うデザインを夢見た女子大生の一人であったということ。話し方や以前の膝を触ろうとしたときの反応も考えると少女と言うのはやはりおかしいのもわかる。親しくなってきたころに

「ユナは大学生なのに幼く見られることも多かったんじゃないか。」

「そんなこともあったかもしれません。ですが、同じように大学に進学するような女性は上流階級の娘様ばかりでしたので、身長は低いほど、かわいくて男性受けもいいじゃないと言われていました。とはいえ、友人もそんなに慎重に変わりは殆どなく、大学が育てるよう求められている箱の中の小鳥のように無垢で勤勉で家庭的な人物として、学生生活を過ごすの。そして家の決めた相手の家に嫁ぎ良妻賢母になることを親に求められるようなことは理解していましたが。それで友人関係や全てを失うことなんてないとみんなで笑って再会を約束したものです。それに私は財閥の令嬢でしたが侍女と一緒に掃除やお料理を一緒にしていたので、ここにきても生活ができないということはありませんでした。またカノが与えてくれた環境に疑問も感じることなく感謝し、日々を送っていました。そうなるとカノも小さいですし、身長のことで話す相手もいないので、というより男性とお話しすることもなかなかなできなかった私には篠崎さんは話せる相手で嬉しかったのはそうですが、男性と何を話せばいいのかわかりませんでした。篠崎さんの世界では女性は身長を気にされるのですか」

「そりゃあ、もう男の私には全く分からない話ですが、身長の高い低い、体重が重い、軽いでただそれだけで女性グループは形成されて行っているのではないか思うほどに最初は容姿でグループができていき、その後に話が合わない存在を残りのグループで排除するよう、いや、見ていた限り、その人物が出ていきたくなるように口裏を合わせてその人物を追い出しては、グループの結束力を強くして、互いのグループは不干渉を選ぶようになっていった気がします。」

「あらぁ、何か息が詰まりそうな毎日を過ごすのね。篠崎さんの女子大生は、それはもう高校時代から始まっているんでしょうか。私の時代、お金に余裕があるかないかでそもそも通わせられるかで羽化で決まることが多かったので、やりたいことがある方でも費用を捻出できず、戦争で生き残ってその時に得られる金銭で念願の学生になろうと考える方が多かったように思います。」

「昔の方はご自身で将来生き残れたら、これをやるという気持ちをもって戦場に出ます。その形は色々です。国のための思い込んでいる人もいれば、その先を考える方もいた。特に長崎に原爆が落ちたときこの国のために身を捧げようと天皇信仰する考えは多少の揺らぎをもって将来の夢のみに縋って日々を何とか生き残る人の方が多かったわ。それでも敗戦宣言で軍人ではなく天皇自らが国民に自らのこれまでの心痛を吐露し、皆で敗戦という事実を受け止め、前を向いて進んでいきましょう。とおっしゃられた。その時天皇ご自身も自分にどのような処罰が下るかわかっておられない状態で、当然指導者として死刑になり、社会の巻き込まれた人々に自分の首一つで納得してもらえるなら国民は守られるという気持ちもきっとあったのでしょう。」

当時の話を篠崎は知らない。所詮篠崎の知識など歴史の教科書に記載された内容のみだ。上昇無敗の大日本帝国は着々と領土を広げ住民を虐げてきた。それを律する士官もいると聞くがそのような士官が大多数を占めるはずもなく、部下の士気を維持するために目をつむったもの、先頭に立って地域住民を弄んだものがいたことは今となって公開されるようになった記録である。当時にも部族は違っても同じ人間として経緯ある出来る限りの対応をすることが必要であると考えるもの。それを理解していても上からの命令を遂行するには部下の士気を下げるわけにはいかないと目をつぶったもの。そんなことも考えず、占領軍が敗者に対しては何を行うことも許されると勘違いしたもの。当然である。どんな失い方をしたとしてもそれを返す先があるなら、同じ喪失感を味合わせようという気持ちで支配されて当然だ。いくら反省されようが口では何といえようが腹の中ではその対象を何千何万と言う回数同じ目に合わせることに何の疑問も感じない。それが私たち人間の持つ感情というものの負に働く部分なのだろう。

「当時を知っているユナから見ればそう感じるんですね。やはり天皇にはただならぬ信頼を皆が寄せていたのでしょうか。私が生きる世界は、そのような戦争からはかけ離れた平和な世界で、天皇はおろか天皇家の存在の重要性をわからない国民は多いです。恥ずかしながら私もその一人です。」

「そうなんですね。当時は天皇家に畏敬の念を持っていましたとお考えいただければしっくりくるかと思います。日本人って付喪神とか神社の御神体に石や天然物を置いて例えば古事記やそこから派生した物語を基にした何かとして祀られていることを容易に許容するじゃないですか。その信仰の対象としての生き神様のような存在が天皇家という考え方は当り前のように考えられていましたよ。とはいえ、自国にというよりは私の場合は住んでいた町が空襲に遭って神社も何もかもが関係なく吹き飛び、友人の多くを失いました。私もそのままでは死ぬような状態で周りの人に可能な限りの手当てを受けることができました。その時ですね。天皇は戦争続行を願っている、我が民が屈するはずがないと軍事放送が流れたんです。その時に私はその放送と目の前に広がる地獄に大きなギャップを感じました。とはいえ、死にかけの私には神はこんな地獄になってもお守りくださらなかったのかとご自身は動かず、民が死にその土地が焼かれたのに神は動いてくださらないのかと今までの信仰も含めて神はそうなんだ。祈っても願っても何もしてくれないんだ。と」

「それは本当に大変でしたね。しかし空襲を受けたというと東京か大阪にお住まいだったのですか。」

「いえ、私は広島です。戦艦の製造地でしたし、私もそこではたらくことを求められておりました。」

「おりました、というとそんな空襲なんて想像していない中で突然火の手が上がったんですか。」

と日常が一気に変貌する恐怖がどれほどのものだったのか想像もできない。そんな世界を経験してその上あれを目にしたのか、何が起こっているのか理解などできなかったんだろうなと思いながらも、ユナの闇に手を伸ばしてしまったと後悔する。

「そうですね。軍港もあるし狙われるかもしれないとは言われていました。しかし沖縄の状態も好戦と言う話を耳にしておりましたし、大丈夫だろうと言われていたところでした。」

終戦に向かう1~2年は国民には情報操作は当然のように行われ、国旗を掲げていないと非国民だとか憲兵に懲罰を受けるとか聞いたような。そんなときに生きていたのか。情報が入ってこない、情報源が一つしかなく考えに疑問を持てば罰を受ける環境ではそれを信じて働いて疑わないのが楽な生き方だったのだろうか。

「しかし、お話を聞いていると十分な医療も受けれなかったのでは?」

と聞くと

「そうなんです。ですがそのおかげで原爆の影響範囲からはかなり離れた医療センターに移れていたんです。でも。。。」

「そこであれを目にすることになったと」

「そうですね、何とか自分で歩けるようになったころ、原爆が落ちたという話を聞いて運が良かったと話していたんですが、そのセンターにいた何人かが溶けてしまってあの赤いのが人を飲み込むように下入口の方から奥に進んできたんです。私はそんなに急いで逃げることができる状態ではなかったので周りの皆さんは私を無視して窓や非常口から逃げていって取り残されました。」

ん?カノから聞いていた話と少し違うな。これはカノがユナをその世界に送ってからの記憶なのか。本当はユナは原爆で吹き飛ぶ範囲で医療行為を受けていたところをカノが助けたのかもしれないな。

「医者や看護婦も手を貸してくれなかったんですか。もうどの方も余裕がない心理状態だったんでしょうね。」

「そうだったと思います。私自身逃げることしか考えてなくて、みんなが先に逃げていくことに対してうらやましくは思いましたけど、何で置いていくの?助けてよとは微塵も思わなかったです。今となって考えれば篠崎さんの言う通り医療スタッフがいていい。誰かが手を貸してくれてもいいと思うんですが、本当に余裕がなくなると自分の生存本能に支配されてしまうみたいです。」

とその人間の本性を見たことに対して人間が好きではなくなったと口にしそうになり、いそいそと口を噤み言葉を飲み込む。そしてまた話を始める。

「ここから離れて、もっと奥へ、人がいなさそうな部屋に逃げ込めばもしかしたらと助かるかもしれないと、奥の備品室を目指したんです。やっとたどり着いてドアを開けるとそこにカノがいたんです。」

「そこにカノがいた?備品室にいたの?」

「いえいえ、そうではなくてドアを開けたら手を伸ばして『早くつかめ』というカノがいたんです。私は言われるがままその手を必死につかんだところまで覚えてますが、その次の記憶はケガもその後もきれいに無くなっていて、呆けている私に『ここに住みたければ住んでいい。帰りたければそれを願うのもいい。』と言ってくれたんで、もうあの世界には戻るのが怖くてこれまで元の世界に戻ることを夢見て扉を開いて出ていった方たちの戻れなかった人たち、その間違った世界で命を失った方をカノと一緒に見てきました。それで決めたんです。もう私は死んでいたんです。だから日がな一日を楽しくのんびりカノと暮らせればそれが一番だと。」

とユナは笑顔でここにいる理由に満足しているんです。という雰囲気をにじませる。

「それであんなにカノと仲がいいんですね。」

と少し羨ましそうにユナを見る。さっきの笑顔で気づいたのだが、ユナは相当な美人である。ピンクとは言えない赤毛のストレートで後ろ髪は首に届く程度でそろえられているが側面に流す髪だけが胸元にまで届くような長さで前髪は自然に任せたように見える流し方は目にかからないようにしている。肌は本当にきれいだ。キメが細かくファンデーション塗ったりしているんだろうか。とても柔らかそうで触れば崩れるんじゃないかと思えるほどの張りのある頬、高すぎずかといって低すぎることもないちょっと高いかと思う程度の小鼻の上にはカノと違いおっとりとした優しさに満ちた少し大きな目で瞳の色が吸い込まれそうな青色で、瞳自体も目のサイズに合わせるように少々大きい。その優しそうな眼は奥二重によく合っていると思う。眉も整えているのだが、なぜ優しい目に合わせず、カノのようなまっすぐ篠崎の知る20代が良くしている眉である。来ている服もどこにでもあるようなワンピース。一目でこれはカノが用意したから仕方ないんだろうなと思う。足元も芝がこれのせいでおしゃれなサンダルのようなものははけないのでやはり運動靴だ。でもおそらくユナのスタイルが良いからだろう、大きすぎない胸に引き締まったような腹部ワンピースから除く細いが筋肉質な足は脚線美を余計に際立たせる。

「あの、じろじろ見てどうしました?」

「改めてみるとやはりきれいだなと思いまして。時代が時代なら皆から目を惹いたでしょうね」

「そうなんでしょうか。比較対象がカノしかいないので、カノは私にいろんな姿を見せてくれます。それがどれも本当に美人で女の私すら抱きしめられたくなるような美形なものになるので、自分の容姿にはそんな感情は持てないんですよね。まぁ見せる相手もいませんし。今もすっぴんですしね。篠崎さんには失礼かもしれませんが、カノが『あいつには何の気も使わなくていい。こき使ってやって喜ばせてやってくれ』といわれてます。」

「カノがそんなことを・・・はぁ、わたしはMではないんですよ」

「えっ、Mじゃないって男性ではないんですか。」

ユナの言っている意味が初めはわからなかった。よくよく考えるとトランスジェンダーやそれに類する言葉を知らなくても仕方がない。

「いやそうじゃなくて、私は男ですが、こき使われて喜ぶ類の人間ではないんです。」

「はぁ、よくわかりませんがこき使われるのを喜ぶ方をMというのですか。」

多少の違いはあるが篠崎にとってはどうでもいいことだった。

「はい、そうともいうんですよ。」

と話を流そうとした。そんなところに聞いていたかのように

ニヤニヤしながらやってきた幼女

「そうだねえ、君はこき使われるというよりは、甚振られる方が個のみだから、ん?やはりMじゃないか。」

と話しかけてくる。

「どうせ話の一部始終を聞いていたんだろう。」

と篠崎が言うと

「そうだが、君は本当に遠慮がないな。デリカシーがどうとかいう前にもう少し気を使えるようになってもいいんじゃないか。」

わかってるよ。それは先に言葉が出てしまったんだ。後悔はしているんだ。それもわかっているだろ。とカノの目を見る。

「おやおや、ユナを愛でた後は私かい?」

とカノの悪い癖が顔を出す。

「どうかしたか」

と篠崎はカノがわざわざこちらに来た理由を聞く。わかっていても聞かずには気持ちに踏ん切りがつかないからこそ、篠崎はあえて聞いた。

「次の世界に行って君はこの世界を維持する分の負の感情を感じてきてもらう必要が出てきた。今なら私がある程度の低い損耗で住む世界に送り込むことで何とかなる。しかしこのままあと数か月落ち着いていると君は私の管理しない世界に飛ばされ、最悪戻れないことになる。どうする。」

やはり、カノは俺の身も案じている。でなければ事前にこんな話をする必要などないのだから。

「行かないといつか超えられなくなるんだろ。行くよ。」

というとカノはなぜか言い直しを求めようとそうではないというように首を左右に振る。

「その考え方では君は確実に死ぬ。これは絶対だ。言い切れる。決して私が与える世界であっても、この世界が与える世界であっても、君の一つの過ちが超えられない壁にすることはある。そしてそれはきみが何もしなくても超えられない世界であっても不思議はない。ここにきた誰かが言っていたが超えられない壁はないと教えをする宗教があるそうだが、世の中はそんなに優しくない。この世界は超えられない壁を平気で差し出す。私の場合はなるべく君の常識の追いつくところに扉を開くがそれも私のつなげたときにユナや君の意識が干渉した場合につながった世界は私が君になら戻れると考えた世界とは違うものになる。何が起こるかわからない。だから絶望し、死を待つだけの世界になっても何の不思議もない。それを理解しておいてくれ。」

と念を押す。

「だが、私は君と交わした契約は守るさ。対価は後払いで良い。だから、行った世界で情を吸い込んだモノを集めるんだ。それがあればそれを対価に君に手を貸すことが許される。最初はわからないだろうから、君にその感覚を感じられるように君の感覚器に刻ませてもらうが構わないな。」

「あぁ、頼む」

というとカノは遠慮なく後頭部から何かを無理やりねじ込んでいく。しかし、頭が割れるような感覚もなければ傷みもなく、意識が途切れることもない。

「では、何か言い残すことはないか」

とカノは言う。

「行って、やることをやって帰ってくる。だから無事を祈っておいてくれ。」

とカノとユナの顔を交互に見る。ユナはあまりにも不安そうにしている。仕方のないこと。そしてカノとの会話の意味も分からないからなおさら、なぜ行くのかもわからないのだろう。その理由を二人はいわない。

「そうだ。もし可能ならその世界の前室にユナの世界にあった俺の部屋に繋ぐことはできないか」

もし行くことができれば多少の武器を調達できる。

「優良案件だ。後払いにしておいてやるがそれ以外はいいか」

「あぁ、大丈夫だ。それじゃあユナ行ってくる。また戻ったらいろいろ話をしよう」

というと篠崎は立ち上がりユナの指す先に出現する扉に手をかけた。


 


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