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condenced caos  作者: 朋枝悟
知っていたはずの世界
12/22

絶望と一途の期待の狭間で

 もう日はとっぷりと暮れている。しかしその街灯に照らされた闇の中に一か所だけが赤く染まっている。その方向は言うまでもなくあの家の方向だ。さっきまでいた部屋を出るとサイレンの音が響いているのが聞こえた。

「これは何台来ているんだ」

まさかあの敷地全てを燃やしたのか。そういえば、最後にミオンが何か言っていた気がするが、何と言っていたか。ダメだ。全く思い出せない。

 急いで家に向かうが、全く人影が増えない。普通なら野次馬が増えてきて火事現場には入れない可能性さえ覚悟していたが、この様子だと、あれはそんな騒ぎには興味はないということか。と思い入るのは容易かもしれない。と多少の安堵とミオンは無事なのか自分の目で確認できればそれでいい、そんな気持ちになっていた。

「しかしあの高い壁のどこから入るか。どう考えてもあの門から消防団が邪魔で通してもらうことはできないだろうし。」

と家の門が見えるところまで到着したが、予想通りだ。壁伝いに入ることができる場所がないか探す。すると、どう考えてもただのマンホールとは違う分厚い鉄板に南京錠がかかった床にはまった扉を見つける。無造作に隠そうとしたのだろうが、その後の風や雨で発見できたのだろう。篠崎はピッキング道具を取り出し、数秒のうちに開錠する。

「よし。」

扉の片方を持ち上げる、非常に重い。

「何だこの重さ、何でできているんだ」

と力を入れていたため閉じていた目をあけると厚さは10cmを超える板であることが分かる。

「なんじゃ、この板の厚さ」

厚さを考えるとただの鉄ではない。鉄であれば厚さと大きさを考えると開くことができなかった。

なんとか扉を開くと邸宅の方向に人一人が這っていけるくらいの道がある。

「行くしかないか」

まぁ、ライトがないのが救いか、気持ち悪いものがあっても気づかずに済む。行き止まりになっていたら、戻るしかない。この火事の明るさだ。おそらく出口があるなら光が漏れているだろうと考えていた。

そして篠崎は体を滑り込ませ、ゆっくりと進んでいく。時折、何かが体と通路の隙間を通っていくような感触を感じる。見えないことはいろいろな想像をさせるものである。篠崎も例外ではない。しかし進む以外に篠崎はミオンの安否を確認する方法はないと、可能な限りミオンのことを考えて前に進んでいく。するとずっとまっすぐ伸びていた道が突然折れ曲がり二回の右曲がりを経ると光が漏れていることが分かった。

「あそこか。」

その真下まで行くと力いっぱい押すと、予想を裏切ってその戸は簡単に開き、おそらく通電版室に出たようだ。装置からはアラームが鳴り響いている。

「まさか倉の温度制御を切断したのか。これもミオンがやったのか。」

急いでその部屋を出て辺りを確認する。火事が起こっているのは邸宅の方で倉は火事にはなっていないようだ。火事の方へ向かいながら、倉の扉が施錠されていることも確認していく。

「おかしいな、消防や救急の人間に会わない。」

邸宅にたどり着くと縁側に多くの人がただ消化もせずに燃えるのを見ている状態だった。玄関側にはまだ火が来ていないのか煙だけが出ていたので自分の荷物を置いていた居間の方へ向かう。どこが燃えているんだ。居間の方も燃えている様子はない。しかし外から見た状態では居間はすでに火が回っていると考えていた。居間にたどり着き自分の荷物を見つけ回収すると急いで外に出ようと試みる。

 「篠崎さん。やっと帰ってきたんですね。待っていたかいがありました。荷物のことが気になって本当に燃やすの屋根部分からしています。そのから見える一階の炎は映像です。しかし外から見た限りではもう放水消火が間に合わないように見えるので、おそらく消防は何もしないはずです。」

消防が何もしていなかったのはそういうことなのか。と篠崎は理解した。

「ミオンさん、早く逃げましょう。ここはもう駄目なんでしょう。」

という篠崎に対して、ミオンは

「この家がダメなのではありませんよ。この世界がダメになりつつあるんです。それを誰かに伝え対処法を考えてもらわないと。そのための命、これまでの五年間を考えれば楽なものです。」

あれの言った通りの発言であった。つまりあれはこれを予期し、何かしらの対策を講じている。

「ミオンさん、このことはすでにあれは知っている。ここでミオンさんが死んでもあれは注目されない。だから一緒に逃げましょう。」

「なぜ、あなたはそんなことを断言できるんですか」

ミオンの雰囲気が一気に変わる。まさに呪いの目に魅入られたように背筋が凍る。

「さっき通ってきたんだが、通電版が壊れていた。おそらく倉の温度が上がって中身が溶け始めている。そのまま放置すれば開けたとたんに流れ出てしまう。そうなれば、それが問題のあれかを見分けることは消防の人間にはわからない。だから倉の通電がおかしくなった時点でもう、ミオンさんの期待することは実現しません。」

「あぁ、あれは私が切ったんですよ。」

「はぁ?」

何を言っているのかわからなかった。切って何を期待したのかわからない。

「何人かが人の前で犠牲になれば、問題になるでしょう。その何人かには人柱の役割を果たしてもらいましょう。」

「何を言っているんですか」

正気ではない。ミオンはすでに期待を失い絶望の中で誰かがあれを消滅させることで自らの復讐を果たそうというのか。

「あなたが死のうがどうしようが、人が集まった。なら、あなたが死ななくても宿願は達成できるのではないですか」

「そう、かもしれません。しかし私はもう生きるのがつらいのです。治療法があると期待して生きてきた時間が全て無駄になった瞬間、私は解放された気がしました。だからあなたにお礼を言ったのです。」

「お礼?」

そうだ、あの部屋でミオンが発した最後の言葉、それはありがとうだった。そのころから計画していたのか。

「あの時からこれを計画したのか」

「そうです。その中で、さらに生き証人としてあなたを残すかを考えあぐねていましたが、やはりあなたには承認になってもらいましょう。」

というとミオンは篠崎の荷物に入っていたサバイバルナイフを自分の腰から取り出し、ミオンは自分の腹を幾度となく刺した。それを止めようと

「やめろ、何してるんですか。」

と止めようとする篠崎の右手を掴むとそのナイフの柄をしっかりと握らせ、

「これであなたは私を殺した容疑者です。もう逃げられませんよ。きちんと世間にあれのことを警告してください。お願いします。」

「お願いしますじゃねぇ!!」

ミオンの身体をゆする。しかしミオンは目を開くことなく左手をポケットに入れ、スイッチを押す。

 ザァーという音とともにガソリンのにおいがあたりを覆う。

やばいと思い、ミオンを覆うようにしていると

「誰かいるのか」

と消防の声が聞こえる。

「ここだ。ここに二人いる」

と伝えると、手際よく担架を運び込みミオンと篠崎を運び出す。ミオンは生きているんだろうか。本当にあれは何人かを捕食したのだろうか。

 篠崎は拘留所に連れていかれた。ミオンはどうなった。他はどうなった。わからないことが多すぎる。すると扉が開き二人の男が入ってくる。一人は50代前後の一般的なおっさん体系の親父で、あまりにも不自然な笑みを浮かべている。もう一人はおそらく20代だろう。初期のようだ。

「何かのみますか。コーヒーで構いませんか」

とおやじ風の男に言われ、甘めでミルクも多めにしてもらえますかと注文を出した。

「私は市原と言います。いやいや大変な目に合われましたね。」

火事のことを言っているのかと思い

「はい。自分の荷物を取りに戻ったら火事になっていたので」

「ほう、荷物を取りに帰ったら火事になっていたと。おかしいですね。あなたはミオンという男性を刺殺して放火したとなっていますよ」

目の前が真っ暗になった。自分が想像していた最も最悪のシナリオ。おそらくあれは何も襲わず水のように流れて姿を消したのだろう。冷蔵機能が付いていたことなど倉は施錠されており、開いたら水しか出てこなかったとしたら、その部分は全く問題性にならないだろう。

「私はミオンを殺していないし、放火したのはミオンです。」

「それはおかしいですね。あそこはミオンさんの血縁者の家ですが、あなたはなぜいたのですか。」

出されたコーヒーを見ながら、これが冤罪なのかと痛感した。一緒に過ごしていた理由など話せるわけもない。

「ミオンは死んだのですか。他に亡くなった方はいましたか」

と詰みの質問をした。

「ミオンさんは刺殺、あなたにね。他に亡くなった人はいません。いるんですか」

「いえ、分かりません。」

「あなたはミオンさんを殺しました。凶器にあなたの利き手の指紋がしっかり残っていますが何か言いたいことはありますかね」

お前が犯人だろう。さっさと自白してくれよと言わんばかりの決めつけ見た物言いだ。無駄とわかりつつ説明する。

「あれはミオンが自分の腹を差し出したのでそれを止めるために凶器に触れたからついたものです。」

「そう。ならなぜ掌の指紋が凶器に残っているのでしょうか。あなたの話だとあなたの掌の指紋はつかないと思いますよ」

ぐうの音も出ない。ミオンは容疑者にするために凶器をわざわざ握らせたのだから避けようもない推理である。

「それにね」

と市原は続ける。

「あなたの持ちだそうとしていた荷物の中身を確認した結果、凶器自体もあなたの持ち物ではないかと思われます。その辺りもどうです。私も驚きましたよ。刀にサバイバルナイフ、おそらく自作の手りゅう弾が入った荷物を見せられれば誰でもその持ち主の犯行と思いますよ。」

「確かにそう思われるかもしれません。しかしミオンを殺そうとはしていません。自殺を止めようとしていたんです」

「そうですか。もしそうだとして、ミオンさんはなぜ自殺を?」

真実など語れるわけがない。語ったところで良ければ精神病院、悪ければ虚偽発言と取られ印象を悪くし殺人罪で裁かれる。

「私はミオンさんと知り合ったのは最近のことです。その中でお子さんをなくされたことを聞かされました。そしてわたしが趣味で刃物の研ぎに凝っていることを話したら、砥いだ最高傑作を見せてほしいと言われ、持ってきていた。それがその荷物の中身です。」

もっともらしい嘘をついたが誰も嘘ともいえない嘘である。半ば事実が混じっているために真偽のほどはわからない。

「そういわれて持ってきた刃物だということですね。しかしその荷物を置いてあなたはどこに行っていたのですか。それを使ってミオンさんが何かするとは思わなかったのですか?」

「私は妻に会っていました。前日ミオンさんとあの家でお世話になったので。それで荷物をもって帰ろうかとあの家に向かうと火事になっていて、中に入るとあのサバイバルナイフをもったミオンが自分の腹に何度も突き立てていたのです。その騒ぎを聞いて消防の方が気づいて中に来てくれたと思っていたのですが、違うのですか?」

「確かに消防員は人の声が中から聞こえたから踏み入った。声が聞こえなければ入るのもためらうほどの全焼火災だったと記録されています。ミオンさんは自殺したかったのでしょうか。その気配はありましたか。例えばあなたに刃物を見せるようにお願いしたときとかに違和感を感じませんでしたか。」

「いえ、切れる刃物を作るのと切れる刃物を使うのとでは意識が全く違うので、とく私は趣味で研ぎをやっているので使うことはあまり考えていないです。だから、ミオンさんがもともとその気持ちで見せろと依頼してい来たのかと言われると、そうかもしれないとしか言えません。」

「そうですか。わかりました。今日のところはとりあえずこれで終わりにしましょう。篠崎さんも昨日あんなことがあって急に色々聞かれても困惑しますよね。もう少しご不便をおかけしますが、我慢してください。」

というと市川と書記は出ていった。

「ミオン。やはり君の死は無駄だったようだ。あれは、生きるためにあの場で人を襲うような愚かなことはしなかったようだ。またあれは闇の中だろう。」

格子の付いて窓の外に目をやるとそこにはあれがいた。

「いろいろと知り、いろいろと話したのは正直君が初めてだった。生きた人間とじっくり話したのは本当に久しぶりだ。その中でも私のことをよく調べ、話をしようと持ち掛けてきたのは君が初めでとても嬉しかったよ。個が個でなくなったような気がしたんだ。これはその餞別だ。おそらくどこにいても何かしらの通信には使えるだろう。」

というとその窓から50mlのバイアル瓶を投げ入れた。

「それは私だ。友との友情のあかしとして君に私を少しあげることにした」

というとすぐに窓から見えなくなり、代わりに警官が案内に入ってきた。

「おまたせしました。それでは、部屋の方へ案内しますね。」

といいドアを開ける。先に通った警官の姿が掻き消え、代わりにあのカノの草原が見えている。

「もっと早く出してくれよ」

と小言を言いながら、扉をくぐる。そこは警察署ではなく、あの不思議な世界であった。あたりを見渡すとカノがユナのテーブルに向かい合って何かをしている様子がめに映る。篠崎は二人の方へ歩みを進める。




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