第二話 脳梗塞なんかになりたくない(1)
SCUに移ってから、最後の大物心臓エコー検査に呼ばれた。
大物と言っても造影剤を使うでもなく、姿勢どうこうもなくそれほど恐れることはないレベルの検査ではあるのだが、これには多少因縁がある。
以前母親は食欲不振が続いて循環器内科を受診し、このエコー検査を受けた。
その時すい臓に影を見つけた医師が「自分の専門ではないから詳しいことはわからないが」と紹介状を書いて大病院(今入院しているここである)を紹介し、詳しい検査の結果すい臓がんであることが判明した。
すい臓は沈黙の臓器の中でも特級にやばいところで、気づいた時には手術不可能なほど癌が大きくなっているということがよくあるが、母親もその例に漏れず、一年後亡くなったというのは既に少し触れた。
星野仙一氏も母親とほぼ同じパターンで近い時期に亡くなっている。
元沖縄知事や往年の女優なども、手術後に再発で命を落としている、非常に厄介で恐ろしい病である。
そんな病気を見つける契機となったエコーは、我が家にとってあまり縁起のいい検査ではないのだが、全く関わりないと思っていたところで自分も経験する羽目になってしまった。
根拠は全くない妙な不安だけを覚えながら、エコー室に車椅子で運ばれた自分は、この未知の検査の部屋に通された。
技師? 医師? の女性が待ち構える狭い部屋に通された自分は、もうそれだけで血圧が上がっていたかもしれない。
妙に狭くて小さい部屋には、これまた安眠には程遠そうな小ぶりなベッドとエコーのための機械しかない。
掃除が行き届いていないということもないが、あまり空気はよくなさげで雰囲気も暗い。
こんな小さな部屋に二人きりである。
自分は行ったこともないのに、ドラマなどの半可知識だけでもう完全に風○を意識し始めていた。
イメージ的には踊る○○○の最終回手前である。これもいい加減古いが。
ベッドの上に寝かされ、上半身を脱がされてクリームを塗られるなんてそのままという感じ。
いや気取り抜きで本当にそういう場所の経験がない自分には、完全に未知すぎて想像も及ばないのだが。
こんなこと言ったら本気ではたかれそうだなと内心だけで笑いながら、黙々とクリームを塗った場所に機械を当てられ、その度に鳴る電子音や加工された自分のものらしき心音を聞きながら、天井近くにつけられた小窓の妙な陰気さと淫靡さが混じった雰囲気をじっと眺めて、いつしか検査は終わった。
この間指示されて向きを変えたり、抱きつかれるようにして胸の下に手を入れられたりする度にドキドキ感を煽られはした。
これでせめて自分より年下の女性だったらなと思わなくはないが。
いや、下品なネタで本当にすみません。陳謝します。
その節はご丁寧にありがとうございました。
続いて心電図モニタをつけるために訪れた部屋で、自分は元からつけられていたのとは別の機械を胸に取り付けられた。
元からのものは常にデータをリアルタイムで発信するものだが、今回つけられたのは一日分のデータを集積し、取り外した後にまとめてデータを見るらしい。
そのため途中で外れてしまうと台無しということで、結構厳重に取り付けられた。
普段のモニタがすぐ取れまくりなのを思うと不安しかないが、結果からいえばデータは無事取れて、機械の再取りつけや延長はなかった。
とはいえまた余計な機器がついたのは面倒であった。
早くターミナル打ち込み式違和感ゼロな疑似サイボーグ時代が来ないかなと思うが、それはそれで情報の流出とか勝手にデータ盗られて商材にされるとか問題出てくるんだろうな。
措置が終わるとやっとお迎えがきて車椅子で部屋に帰されたが、その前にペグシルとかクリップペンシルとかスコア鉛筆とか言われる安価品の鉛筆と用紙を渡された。
機械を取り付けている間は、トイレや食事やリハビリの時間を書いて申告しないといけないらしい。
それら心臓の動きに影響がある行為は、控えておかないと異常なデータと勘違いされてしまう可能性があるからだろう。
この時渡されたミニ鉛筆は、後に芯が折れて使えなくなったシャープペンシルに代わってナンプレができなくなる危機を救ったのだが、結局くすねてしまった事実を大っぴらに自慢するわけにもいかないので、小さい声で呟くだけにしておきたい。
取っちゃってごめんなさい。
多分回収して再利用することはないと思うけど……。




