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今日から始める脳梗塞  作者: おっとり魚
第四部 新たなる旅立ち(手術)―その二 八月の入院記―
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第九話 歩けるようになったよ&若い友人ができた

 TKGさんに「ジョージ・クルーニーに似ている」と言われた時、最初はなんのことかわからなかった。

後で検索してみたが、ようするに白髪頭と黒い眉毛で引っかかったらしい。

両親揃って若白髪の遺伝子を持っていて、自分も二十代くらいから白髪が結構あった。

三十代以降いや四十超えてから気苦労、いやいや苦痛が増えたせいか、もうすっかり自分のおぐしは真っ白になっている。

単にマーブル模様なだけじゃん。

実際のジョージ・クルーニーは顔も濃いしって、自分も堀りが深いから顔濃いって言われてたっけなあ。

やっぱり大して似ていないけど。


他にTKGさんに「気に入っている看護師さんは?」と振られたことがある。

自分はさほど意識していなかったが、一時期よく顔を合わせていたので「O松さん」と答えると、TKGさんはこれに大笑い。

予想外の答えが帰ってきたと彼の普段を振り返っていた。

そんなに頼りない印象だったのかとその時は驚いたが、実際当たりの良さ以外はそうかもしれないとこの後少し気づくことになった。


 そんなこんなでリハビリは続いたが、痛みも続いたし中々事態は進展しないままだった。

一度はリハビリ室に移動して器具を使ったリハビリをしましょうと言われたのだが、痛みのせいでままならず、また部屋の周囲を歩いて筋トレというコースに戻されたりもした。

医者に痛み止めの薬を出してもらってねと言われて出してもらった薬は、まさかの痛み止めじゃない薬。

この薬五年前にも出されて、効いているんだか効いていないんだか全くわからないので困惑したことがある。

痛み止めなら痛いことで効いていないとはっきりわかるのだが、この薬は痛み止めではないので、その辺りが酷く曖昧で詐術にかかっているような気分になる。

それを退院時に半年分だかまとめて出された時は絶句した。

今でも残りがまだ戸棚に入っていたりする。

効いているのかこれ? と思って途中で自発的にやめてしまったのだ当時。

影響は一切なかったのでそのまま放置したが、押しつけたほうはただ単にノルマがあったとしか思えない。

そんなわけでこの薬に対する評価は地底よりも低い。はっきり言って。

今回も初めてもらった時「なんだこれか」と呆れ顔で呟いて、看護師にご存知ですかと尋ね返された。

まさかこれいらないとも言えずに飲み続けたが、常に飲みたくない気持ちがあって、当然効果も出ないのでやめたくて仕方がなかった。

困った時はとりあえずこれ感覚で出すのはやめてほしいが……この病院も結局は同じか。

いや既にジェネリックも出ているので、以前とは状況が全然違うといえば違うが。


鼠径部そけいぶというらしいが、足の付根の部分からお尻方向にかけて一周の範囲が、とにかく痛い。

この痛み、最初は背筋不足が原因の痛みと言われていたのだが、実際鍛えても鍛えても治る気配はなく、やっと痛みが落ち着いたのは十月を過ぎてからだったので、今思うと骨切りの痛みだったのかもなと思う。

この時はともかく鍛えるんだ! 鍛えさえすればの一念でがんばったが、退院後もしばらくは苦しんだので今思うとなんとも言えない気分になる。

しかしここでがんばっておかなければ動けないことに違いはなかったのだから、結局後か先かの話だけで努力はするしかなかったのだが。

しかし鍛えても鍛えても痛みで力が抜けていくのはどうにかして欲しいもの。

それは今もちょっと続いていたりする。


まあそんな泣き言はともかく、中々遅々として進まなかった事態も、術後二週間もそろそろ過ぎて三週目に突入しようかというところでやっと目星がついてきた。

TKGさんは試しに歩行器無しで杖で歩いてみようと提案。

しかしその日はほとんど腰を釣り上げてもらっている状態、少し歩いたとも言えないレベルの歩行で終了した。

とりあえず看護師の見守りをつけて少し歩いてみてくださいということでその日のリハビリは終わったのだが、これが悔しくて早速看護師に頼んで見守ってもらいながら歩くことにした。

その時看護師が言った一言が「結構がに股なんですね」

「いやそんなことは……」と否定しつつ、そういえばやけに足が開いて曲がっていることを改めて自覚した自分は、その日はそのまま終わったものの、次の日のリハビリではまっすぐ立つことを意識して体を動かしてみた。

そうすると何故かすいすい動くようになっていた。

「覚醒しましたね」というTKGさんに昨日の一件を話すと「それ自分も以前指摘しましたよね?」と追求されてしまったが、その時は歩くことに意識を集中してそれほど深く考えていなかったとは言えなかった。

言われたのが若い女の子だったからちょっとショックだったのもあったというのは、もっと言えなかったが。

それはともかくここで覚醒した自分は、調子に乗ってがんがん歩き回るようになったため体力も急速に回復。

それまでは正直これ退院できるのか、また一ヶ月超すかあるいは転院じゃないかと少し怖かったが、どうやら心配はなさそうだ。

やっぱり動くのに支障はないとはいえ痛いのは痛いのだが。


その頃だったと思うが、同室の若い知り合いができた。

最初の機会は部屋の住人が次々タイミングよくごっそりと抜けて、六人部屋が二人だけになった時。

部屋の人とはすれ違う時挨拶している程度だった自分は、えらく人が減ったな程度に思っていたが、どうやらその影響は残りのもう一人には重大だったらしい。


彼のことは白玉くんと称す。特に意味はないがなんとなく浮かんだので。

彼はまだ二十歳くらいだったはず。とにかく若い。

しかしやけに気さくで誰にでも話しかけるタイプだったようで、以前から部屋の老人とも打ち解けていたようだ。

なんとなく話しかけられて自分もたまに顔を合わせると話すようになったが、人懐っこいのと病院生活の長さでとにかく退屈な面の両方があったようだ。

どうやら相当長く入院しているらしいことは後に聞いた。


彼は車椅子に乗っていて、怪我をした片足を台の上に乗せていたのだが、その足先がほぼない。

バイクに乗っていて事故に巻き込まれたそうだ。

医者にかぎづめみたいに骨を削られたと語っていた。

当然もうそのままでは歩けず、この後義足をつけるらしい。

この病院ではほぼ車椅子、最後のほうだけ松葉杖をついていた。

それを初めて見た時それでも屈託なく笑い語る彼を見て、自分なんか全然不幸でもないなと思った。

いやそうでもないか……今後もちょっとしたことでまた折れる可能性があるんだし。

いや比較の問題でもないかなどと柄にもなく難しく考えてしまった。


彼も退院は既に決まっているらしく、週末には出ていくとか。

自分はまだ予定は立っていないが来週には決まるかななどと言っていたのだが、この後自分は一人無駄に流浪の旅をすることを、まだ知らなかった。

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