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今日から始める脳梗塞  作者: おっとり魚
第四部 新たなる旅立ち(手術)―その一 六月の入院記―
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第三話 救急車の間違った使い方

 仕事もなくなり家で寝ていた自分は、どんどん強くなる痛みのせいでトイレに立つのさえ苦しむようになっていた。

毎回布団から起き上がって立ち上がるまでが苦痛。

そのままトイレで用を足して戻ってくるのも辛い。

食事の用意をどうしていたのかもう記憶がないが、それでも一応この頃ちゃんと自炊してはいたようだ、多分。

今思うと信じられないが。

しかしある朝、あまりにも酷い痛みだったためこれは次横になったら二度と起き上がれまい……と考え、救急車を呼んだ。

これが大きな間違いであることは後にはっきりした。

救急車を呼ぶ以上はっきり折れているとか症状が決定していなければ、病院も処置のしようがないのである。

とりあえず動けないからベッド開けとくね、とはならない。

最初に運ばれた病院は入院は受け入れられないと断ってからレントゲンだけ撮ってくれたが、骨には異常が見当たらない。

本当は効きもしない注射もされたが、全く改善の兆しなし。

しかしベッドは空いていないのでそのまま入院もできない。

次の病院でもやっぱりベッドは空いていないと言われる。

というわけでこのコロナ禍もあってただでさえベッドが空いていない中、自分は病院をたらい回しにされてしまった。

その結果居住性の悪いストレッチャーの上に数時間寝かされ、さらに痛みが倍増したりしたのだが、医者は自力で帰れますか? とこの期に及んで帰宅を促してくる。

本気で殺しにかかられていると思った自分は最後は切れて泣き言を言ったのだが、今思えば誰も悪い人はいなかった、いや悪いのはこんなことで救急車を呼んだ自分だとしか言いようがない。

そして矢口真○を大分意識しているんだろうなという看護師になだめられて結局別の受け入れ先病院に搬送された自分は、自ら特大の墓穴をほってしまったのである。

どういうことかはこれから解説する。

本当はこの辺りももっと細かいドラマ(ネタ)はあったのだが、きりがないのでちょっと早送りする。

とりあえず矢口真○似の看護師はこの後再登場するとだけは言っておこう。

別に大した役でもないが。



 たらい回しの末最後に自分を受け入れてくれた病院は、言っちゃ失礼だが地元でもあまり評判がよくない病院だった。

かつて母親の末期医療の受け入れ先として候補に名前が上がったこともある病院なのだが、即答で拒否されたことがある。

自分はそこまでと思って話半分に聞いていたが、確かにここを終の棲家にしたくないなとは実際に入ってみて思った感想である。

多分整形外科と階も違うし、末期患者の病棟は雰囲気も違うとは思うのだが。


まあそれはともかく多分大したことはない(一見骨に異常はない)自分が住むにはちょうどよかろうと思いつつ、何事も経験と半分諦観で自分はその病院に収容された。

主治医であるクロちゃん(仮名)は、妙に声が高く風貌も近いのでもうこの名前でいこうと思う。

クロちゃんはとりあえず自分をベッドに寝かせて検査は後回しにしてくれた。

おかげでやっと自分は一息つくことが出来た。これはありがたかった。

しかしそれは地獄への幕開けに過ぎなかった。


 まず自分に立ちはだかったのは医者ではなく、看護師のほうだった。

寝たきり患者は血栓予防のためきつめのストッキングを履かされ、毎日陰部洗浄が日課になるらしい。

自分としてはちょっと回復するまでほうっておいてほしかったのだが、当然病院でそれは通用せず、これが早速邪魔になる。

なんと自前で三千円も取られたストッキングを無理矢理ぐいぐい入れられて痛い痛いと暴れ、さらには陰部洗浄(ようするにおしも洗い)のため病衣に着替えてくれと促される。

ベッドに敷いた病衣の上を転がり、引っ張られて強引に袖を通され整えられるのだが、これがまたベッドの上で起き上がるのも辛い人間にはきつい作業で、あまりの酷さに途中で音を上げてこんなの無理だと叫ぶ自分に、看護師は「入院した人はみんなやっている!」=拒否しているのはお前だけだ! と無情だった。

それでも拒絶した自分は自前の服に着替え直し、結局数日はそのままになって主治医から「看護師の言うことは聞いてください」と釘を差されたのだが、だったら先に痛みをどうにかしてくださいとしか返しようがなかった。

そんな都合のいい薬などあるわけはないのだが。

しかし一切の余裕がない自分は、とにかく意識を落としてでも今この痛みをどうにかしてくれという思いに囚われていた。


そして数日耐えた挙げ句、このままじゃ埒が明かないから一度自力でトイレに行かせてほしいと頼んだ自分は、自分でもかなり強引にトイレに行き、病衣と陰部洗浄の呪縛からは逃れた。

痛みが多少落ち着いたのもあるが、これがなければ自分は入院さえ継続できなかったかもしれない。

それくらい痛みのほうに支配されていたのだが、とりあえず出された薬はなんの効果も示さなかった。



先にストレッチャーの上で散々苦しめられて泣きすら入った自分は、どうも病院のベッドに夢を見すぎていたようだということが、この数日でわかりもした。

家の安物マットレスだと寝ているだけで痛くなってくるが、病院の頭の高さ調節もできるあの重厚なクッションなら……と思っていたのだが、しかし思った以上に寝心地はよくない。

寝ているだけで痛む安物マットレスに関してはまた後で述べるが、病院だって別に落ち着ける場所ではないらしい。

自分はだんだんただ横になって眠っているのも辛くなり、とうとうあぐらをかいてベッド脇の机に突っ伏して眠るようになった。

この病院で恐らく致命的な変化はこの一点かと思われる。

これが後々の地獄を呼んだのか、あるいはこの時点でもう地獄は始まっていたのかは定かではないが。

話はとりあえず後に送って、そこで改めて説明することとする。先送り多いな。



 医者はとにかく原因がわからんと検査を希望するが、MRIを持たないこの病院の検査はCT止まり。

それも横になって撮れるよと言いながら、やたら端っこに横になろうとさせ「いやこれ以上行ったら落ちるって」という限界を超えて移動させられ、実際撮影してみたら思い切り足があたって失敗するというていたらくだった。

だから落ちると言ったのに。


薬はノルスパンテープを処方された。

鎖骨の下辺りにぺたっと貼る麻薬、自分は二度目の経験になる。

これはかなり強い薬で、使用には慎重を期する品なのだが、これが今回えらい邪魔をしてくれることになるのはまた後の話。また先送りだが耐えてほしい。

クロちゃんは処方に不慣れなのか最初トラマールという薬と一緒にこのノルスパンテープを出し、後になって効果がかぶるからトラマールやめるねと言い出す。

併用は駄目だと知って慌てて止めたんだろうなという感じ。


一週間ごとにノルスパンテープのシールを張り替えるのだが、二週目には二枚の10mg、三週目には三枚の15mgになった。

これは結構急な増やし方らしく、後に薬剤師も驚いていた。

三週目にやってきた医者は「三枚も貼ったら効くでしょう?」とさも嬉しそうに語ったが、実は自分はずっと一枚しか貼られていなかった。

5mgだったのが10mg一枚のシールになったのかと思ったが、さて15mg一枚なんてあるのかなという気がした自分は「いや一枚しか貼られてないですが」と上着を脱いで見せた。

怪訝な顔をした医者は「確認します」と慌て出す。

その後看護師がやってきて「間違っていたので今から追加します」と二枚シールを追加したのだが、これ実はえらいことだったらしい。

次の日婦長と主治医が並んでお詫びに来たのでわかったのだが、ノルスパンテープの増量は慎重に慎重を期して、一気に増量してはいけないというルールがあるらしい。

ところがどうやら医者の説明によれば薬剤師が指示を間違え、テープは5mg(一枚)、二週目も5mgのままだったらしい。

慌てて三枚にした三週目は一気に本来増やす二倍の量10mgを増やされたわけで、一週間毎に5mg一枚ずつ増やす用法を逸脱してしまった。

そこでなにかが起こっていてもおかしくはなかったとか。

結局なんともない自分は笑って婦長と医者を帰したが、笑い事ではなかった可能性もあったわけだ。

ここでも医者は「効いてるでしょう?」と断定口調だったが、自分は別になんの効果も感じてはいなかった。


結局ノルスパンテープは使用最大限界量である4枚20mgまで増えて、退院するまでどこの痛みを抑えているのかわからないまま本来なら強烈な効果を自分にもたらしていた。

実は本当に痛み止めになってはいたのだが……この時はまだ誰も知らなかったのだ。

今回の事件はミステリアスである。

しかしやっぱり当分この話は先送りにしたい。実際その事実を知ったのは自分でもずっと後の話になるのだ。

本当にミステリー小説みたいになってきたな。

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