第二話 仕事が決まったー 即クビでした
自分のような人間を必要とする職場にも問題がある、ということを思い知ったのは仕事が始まって二日目のことだった。
自分の上司であり唯一のパートナーであるM川(仮名)は仕事二日目でこうのたまった。
「もう教えへんよ」
繰り返すがたった二日目の話。
それどころかまだ一つも教わってねえよ! というのは魂の叫びである。
この爺さん、もうクビになったので自分も敬意は抜きにして敵意満タンで指摘させてもらうが、自分の代わりが見つからない、みんな勝手ばかりだと最初から愚痴だらけだったのだが、そりゃこんなんじゃ誰もついてこないわと思った。
その他の人がそれとなく語ったところによると、どうやら人が続かなくてみんなすぐ辞めていくらしい。
そらこんな上司がいたらそうなるわというのをたった二日目で味わった自分も、テンションは急激に下がっていた。
仕事は教えない見て覚えろといいながら、実際この爺さんの仕事は非常に細かいのである。
何度も見て覚えて自分で繰り返しやってやっとわかるようなことを、自分がちゃちゃっとすませてしまうくせに一日で覚えろとは何事かという話だ。
そしてどうすればと聞くとこの爺さん「自分で考えてください」などと言い始める。
やってもいないことまで新人が考えられるか! 怒鳴りつけて終わりにしてやろうと何度考えたことやら。
必死で抑えてなんとか食らいついたのだが、これをまた他のベテランが追いつめてくる。
「のろのろしてないで早くして」
「そのやり方じゃなくてもっと効率よく」
会ったばかり入ったばかりの新人にはどう考えてもキャパオーバーな正反対の要求が次々命ぜられて、自分はずっと謝ってばかりだった。
ようするにこの職場、ベテランが幅を利かせすぎなのである。
だから新人が育つどころかすぐ心折れてみんなやめていく。
ベテランに追いつめられて次々やめていくから、とにかく誰でもいいとにかく人をとなって、自分のようなゴミ案件でも入れるしかなかったのである。
これに気づいた時自分で深く納得してしまった。
なら奇貨(ごみの中の拾い物)になってやろうじゃないか、ベテランだけが知っているノウハウをマニュアル化して今いるベテラン全部クビにしてやろうかとイライラしながら考えるのは、意外と凝り性な自分くらいだろうな。
実際この職場に必要なのはマニュアルなのだが、ベテランがそれを自分たちで囲ってよそに渡さない。
それどころか自分でメモしてマニュアルを作れと言われた時は、駄目だこいつらと本気で思った。
それじゃ誰も代わりは出てこないのも当たり前なのだ。
しかし逆転してやろうとした野望も、三日目ですでに心折れそうになってきた。というか実際折れたのだが。
爺さんはあちこち痛い苦しいと言いながらなんにも教えないし、本来なら週二勤務の約束のはずが連日勤務。
それどころか時間延長なども平然と言い出す現場の人間を見ていると、会社と連携が全く取れてないなと気づく。
というか会社のほうが舐められすぎだ。
今はいいがこれ続くだろうかと思いつつ、とりあえず午後出勤時間延長は約束にないしちょっと困ると言うと、爺さんは途端にむすっとだんまり。
いや元からしゃべる人間ではなかったが。必要なことすらしゃべらないんだから余計だ。
多分爺さんとしてはここで自分に見切りをつけていたのだろうが、こっちとしても冗談ではないので引くことはできなかった。
そして自分は妙に腰が沈み込む職場の長椅子に一時間あまり座っていたが、これがいけなかった。
起き上がる時にかなり激しい痛みが走って驚く。
爺さんそれを見ていて言ったことがまたえぐい。
「その椅子腰が痛くなるから嫌いだ」
だから向かいの硬い椅子ばかり座っていたのか……なら最初から言えよ。
そして自分は次の日欠勤、病院に行っても日を過ごしても状況は改善せず。
欠勤の翌日本社の人間が電話してきたが、「現場からも、もう無理なんじゃないか」と言われているということで、これ以上休養の余地もなし。
結局三日でクビと相成った。
悔しいがこれが現実である。
多分今も来ないか来てもすぐやめる新人を求めてあの会社は求人を続けているんだろうな、と負け惜しみを言うのが自分にできるせいぜいである。
その後のことは当然知らない。
うまくいって爺さんもやっと休めるようになろうが、結局倒れるまで働いていようが、自分には関係ないことだ。
関係ないんだけどムカムカすると同時に気にもなる。
しかしそんな職場は世の中いくらでもあるんだろうな。
場末の人間関係を早速経験してしまった。




