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今日から始める脳梗塞  作者: おっとり魚
第三部 退院、それから
31/61

やっぱ無理かもね

 ようやくお金が尽きそうなので生活保護二回目の相談に行ってきた。

今回は一人で現場へ。

行く前に通帳記入と当座の資金をおろしてから市役所に向かったが、途中完全に方向を間違えて無駄な寄り道をしてしまった。

やっと見覚えのある庁舎にやってきて、以前入った場所を探して入る。

今回は以前と違う人が応対にやってきてまた質問し直される。

この時微妙に恥ずかしかったのは通帳をつぶさに見られて出納をチェックされたことだ。

別に恥ずかしいものを買った通販の履歴を見られたわけではないが、お金の出入りは全部知られたことになる。


その人はどうも痛く自分の境遇に同情してくれたようだ。しかし歯切れは悪い。

「かなり切り詰めて生活をされているようで、相談に来られる方でここまでしている人はほとんどいません。ただ……」

最初に重い口調でこっちを褒めた時点で先を読むべきだったのだが、自分はやっぱ俺すごいじゃんと勝手に浮かれてしまっていて、当然やってくる次の悪い知らせに構えるのを忘れてしまった。

いつもこうだ。最近はまず褒めてから否定しないとすぐふてくされるからこういうやり方がスタンダードらしいが、自分は調子がいいのでその前半いらないから本題切り込めよというタイプだ。


その時は歯切れが悪かったし結局本題には切り込まなかったので自分もあまり問題視せず見落としたが、この同情はもっと根深いところにあったらしい。

結局後で打ちのめされることになった



固定資産税の証明を取ってきて欲しい、昼休みが終わったらまたここに来てくださいと言われ、別の課に行った自分は、ちょっとばかりお金を払って証明書を購入してから、ロビーに降りて椅子に腰掛けて昼休みが終わるのを待った。

今日は朝早めに昼食をすませておいたが、食べておいて正解だった。

食堂もあるらしいが、どうせ塩分調整は自分より下手だろうし、当然金も切り詰めたかったのでじっと時間が経つのを待つだけだった。

ジュースやお茶を買うのもばからしい。

一時数分前に席を立った自分は、そのまままた受付へ。

すぐ朝の人が応対に出てくれて、今度は面接担当官にバトンタッチした。

今までの人は受付で、これからが本番ということらしい。

そしてお決まりの書類を延々書かされ、細かい部分を質問されたが、それは概ね自分の予想の範囲を超えるものではなかった。

ただ一つを除いては。


それはこの面接担当が、やたらと「家(土地)の売却」の可能性を示唆することだった。

自分はそれは困ると最初からガードを固めたが、この人は折に触れてその可能性がある、それは認識して欲しいと詰め寄ってくる。

実は朝の受付の人の態度もそれだった。

固定資産税をいくら払っているか言った後、この人は微妙に表情が同情するような憂慮するような顔に変わった気がしたのだが、どうやらそれは間違いなかったらしい。


正直今住んでいる家にはほとんど価値がない。

なんたって戦後すぐに建てられた家を増改築しただけである。

ただ住んでいるだけで精一杯だ。

それでもこの家には大量の荷物ゴミがあるし、当然土地にも家にも愛着はある。

できれば手放したくはない。

猫の額ほどの土地だが、最近この辺りの土地の価値が思ったよりも高くなっているのはちらちら聞いてはいた。

だけど自分は祖父母の代からただここに住んでいるだけで、土地の価値なんてのは後から勝手に上がっただけだ。

マネーゲームをして自分が釣り上げたわけでもなし、知ったことじゃない。

しかし当然向こうはそんなことはお構いなしだった。

「生活保護の制度としてはそうならざるを得ないかもしれないのです。自由にされたい場合は貴方が稼げればいいんですが、そうじゃないでしょうから」

言葉を濁してはいたが、正直これだけでも十分怒りに火を付けるには十分な言葉だと思う。

直訳すれば稼げねーお前が悪いんだからそれくらい我慢しろや何様だ? ということなんだから。

今までの自分だったらそこで怒り狂ってこの話はご破算だったかも知れないが、少しは大人になったなと自分でも思う。

今思えばここで席を蹴っていたほうがよかったのかも知れない。

自分は次に面接官が言った言葉で決定的に反発心を膨れ上がらせた。

「生きることが一番大事ですから」


生きるためならなにもかも捨てろと?

確かにそれは生活保護のシステムから考えれば正しいのかもしれない。

彼らがそういう前提で接さざるをえないのもわかるのだ。

わかるけど自分はそれを聞いた瞬間プライドを刺激され、自分の延命を半ば諦めることにした。

「自分にとっては違います」


これまで生きるためにいくつもプライドを捨ててきた。

それは恥ではあるけど悔いはない。

だけどもう自分にとってもここがぎりぎりの妥協点だった。

自分が死んだ後のことはどうでもいいけれど、自分が生きるために長年住んだこの家を売る真似だけはできない。

この土地は自分が生きるためのものであって、売って活用するものではない!

「家を処分しなければ保護を受けられないというなら、今すぐ却下していただいたほうが自分も楽です」

「その後のアテはあるんですか?」

「あるわけありませんよ」

そして会話は平行線になった。

「こちらとしてもじゃあ駄目ですねで終わらせるわけにも行きませんから」

と言いつつ、なんとか話を呑ませようとする意思は感じたが、自分はそれを交わし続けたので、お互いの接点はいつまで経っても見いだせるわけもなかった。

結局すぐそうなるわけではないと辛うじて予防線を張ることで今日はここまでにしておこうと言うことになったので、自分は書類をまとめて帰ってきたが、既に心の中では却下されることを想定して今後の終活スケジュールを考えることにした。


とりあえず今月の電話電気ガス代は十日頃には落ちるので、来月は未払いでも一ヶ月、つまり五月くらいまではライフラインが止められることはないだろう。

銀行の金は今月で尽きるので、四月の支払い分はもう残るまい。

なら後は食費に全部回す。

正直それでも五月までもたせるのは多分無理だろう。

米が先に尽きるかも知れない。あと十キロが一袋。一ヶ月半といったところか。

おかずを買う金が尽きるほうが先かもなとも思う。

病院はもう今ある薬で終わるしかない。

降圧剤は一応あと二十三日分ある。

ま、どう考えてもいずれEMPTYな話をこれ以上続けてもしょうがない。それはもういいや。


その期間を使って自分がしたいのは、ここまでの自分の生きた証を残してやろうということだった。

既に一度目の骨折の話は数話分書き上げてあるので、これを完成させるための時間があるかどうかが問題になる。

そしてなぜ自分が命よりこの家にこだわるつもりになったか、そうなるに至った経緯を全部語っていきたいと思う。

ま、命そのものにもう大して価値がないのだから、比較にもならないのだが。

それは自己肯定ではなく自己否定になるかも知れないが、この家を手放してしまえば、その時点で抜け殻になってしまうだけなので、それでは生活が立て直せようと立て直せまいとどのみち意味のないことになってしまうから。

なので支給されるか否かの判定は一応まだ出てはいないけど、もうほとんど諦めている。

多分駄目だろうと思うので、無駄に抗いはせずにこのまま大人しく自分に殉ずることにしよう。

それが一番自分らしいあり方と死に方になるだろう以上、もう妥協はしない。


実はまだ語っていない要素、爆弾に十分なるものがいくつもあって、自分はそれをわざと伏せていたのだが、この際その辺もつまびらかにしたいと思う。

もしかしなくてもそれでさらにまずいことになるかも知れないが、そこで妥協するつもりももうないので、やっぱり結果は同じだった。

もうこれ以上余計な恥をかく心配もなくなったしちょうどいい。

どうせ自分の物語は恥しかなかったのだから、最後まで良い格好をしてもしょうがない。

ようやくわかったよ。おそすぎたけど。



なお扶養照会に関しては結局叔母にはまず話が行かないことがわかったので、とりあえずは安心しておく。

それと気になったのがいわゆるポイントの類の扱い。

実はアンケートサイトでちまちま小銭を稼いでいてそれの振り込みが通帳に載っていて見咎められた。

当然これも実際は引っかかるらしい。

額が少なければおめこぼしされる場合がほとんどらしいが、今後はこういうものもちゃんと申告しないといけないらしい。

そして額次第ではその分保護費が減額される。

現金ならともかく、そうでないものは使える場所も品も値段も制限されるし、それで現金支給を減らされたらたまったものではないのだが。

p○ntaポイントが100Pほど残っているが、コンビニで使えるんだから同額減らすなんて言われたら発狂するしかない。


そら持っているもの全てを取り上げて小銭稼ぎの手間すら潰すんじゃ、真面目に稼ごうなんて気力もなくなって当たり前だよとしか思わなかった。

やっぱりやめておいたほうがよかったかな。

それ以外道はなかったんだからどうしようもなかったわけだが。

ちなみに申請した時点で医療保険は終了してしまうので、もう自分は今無保険。

今なにかあって病院にかかった末支給が拒否されたら、それは全額負担だとか。

これも酷い話だなと思う。逃げ道まで塞がれたよ。

以後そうなる可能性も十分あったりするから怖いよ。

どうしたもんか。やっぱ席を蹴って申請やめとけばよかったかな。

最悪なのはこんだけ言っといて無事通った時だけど……それもなくはないから困る。

多分ないが。いやないはずだ。

まあその時は素直にごめんなさいします。

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