未来編 さらば今日から始める脳梗塞 無職終着駅
退院後の顛末とは別の最新話を一つ。
退院時手持ちの残金が数十万円になっていたあの悲劇を覚えておられるだろうか?
いや別に覚えていたからどうということもないのだが、その後半年以上が経過して、残金はみるみる減っていった。
元々そんなに生活にお金をかけないほうだった自分は、なんとか持ち家のアドバンテージで破産せずに暮らせていたのだが、それももはや限界が訪れようとしていた。
現在所持しているお金は、例の給付金で得た10万円からさらに引かれた額くらいしかない。
もう一つ自分が幼少時に今は亡き母親が用意した口座があり、公共料金はここから引き落としになっているのだが、それがいくら残っているのか、実はもう確認できていない。
来月尽きて請求が回ってくるか、再来月か、あるいはもうちょっと猶予があるか微妙なところなのだが、確認があまりにも面倒なこともあって今は既に放置状態になっている。
その口座からは電気ガス代と通信費(電話とネット、プロバイダ代)、健康保険代が毎月引き落とされているが、恐らく現状は数万円残っていればいいほうだろう。
そんなわけでもう手持ちの給付金のみに全生活がのしかかってきた自分は、「そろそろ真面目に働かにゃ本当にまずい」と焦りだした。
もう悠長に退院後の生活を楽しみながらリポートする余裕もないのだ。
そんなわけでついに始まった就職活動。
しかし体力は極限まで落ちているし、元々まともな職歴もない自分がつける職などありゃしない。
しかも仕事をするということは、食事のことを考えなければいけなくなる。
食事は出来たて、塩分控えめ(ほぼなし)、時間を置いたご飯が苦手な自分にとって、弁当はちょっとハードルが高い。
ただでさえ朝用意する手間が大変だ。
一時は覚悟したが、アルバイト情報を検索した自分は、昼にはあがれる早朝バイトがないかなーとめぼしいものをピックアップして申し込んだ。
一件目、連絡なし。
二件目、同じく連絡一切なし。
三件目、ようやく連絡が来る。
実は一件目の場所は家からかなり近い好立地だったのだが、残念ながら振られてしまったようだ。
二件目の案件はちょいとばかし技術のいる職場だったが、どうやら歯牙にもかけてもらえなかったようだ。
もう二度とあの店行かない。(どうせ高すぎて買えないだけだが)
二件目は家から数キロの場所だった。
三件目は給料はいいのだが、ちょっとばかしハードで、距離も二件目の倍以上はある場所にあった。
しかし対応は丁寧で、老齢の初就職人間に対してもそう物怖じはしていなかった。(まだ年齢だけで履歴書も見せていないし)
そんなわけで予約を取りつけた自分は、云十年ぶりに面接のためその会社を訪れた。
こうして新たな物語が始まろうとしていた。
まあすぐ終わるかもしれないけど。
約束の日、10時の予約に9時に家を出発した自分は、普段持ち歩かず家で目覚まし時計にのみ使用しているSIMの入っていない(母親が機種変で打ち捨てていた)古いスマホの時計で時間を確認しながら、この数キロに及ぶ大航海に乗り出した。
以前は日に20キロ以上は移動して、中古ゲームや古本を買い漁る趣味があったのだが、骨折を二度経験して以降は全く疎遠になっていた自転車旅行。
加えて最近のコロナ騒動のせいもあって、最近はすっかり遠出から遠ざかっていた自分に、この距離はなかなかハードな距離だった。
へろへろになりながらやっとそれっぽい場所に到着したと思った自分は、実は別の門から入っていたらしく、面接とは別の事務所の人に聞いて広い敷地を横断し、やーっとのことで本来の事務所に到着したと思ったらまた違う場所で、さらに別会社の事務所にいた人に聞いて、ようやく本来の場所に到着する有様だった。
元々微妙な方向音痴だった自分は、多分こうなると思っていたので早めに家を出たのだが、余裕を持っておいて正解だった……。
結局迷うことなく場所自体には20分ほどでたどり着きはしたのだが、その後の敷地内の偉い迷走のせいで、確か約束まで時間は残り20分もなかった。
余裕をかましていたら、確実に遅刻だったろうな。
心優しい無関係の人に度々親切にしてもらい、やっと目的の場所にたどり着いた頃には汗だくだった自分は、いよいよ面接官と座って対峙した。
最初は型どおりにコロナの問診など書かされる。
額にピッの体温計は、普段なら36度台前半だが、この時ばかりは36.5度に上がっていた。
それが終わると早速履歴書を見せることに。
当然真っ白の職歴は速攻で見咎められた。
これがいやだから真っ白の履歴書なんて嫌いなんだ……とはいえ説明しなければ始まらない。
もうここまで来てあがいても無駄なのだ。
今年脳こうそく(漢字は書けなかったので病歴欄に書いた原文通り)を起こしたことと合わせて、無職生活ぶりを説明した。
話を聞いた担当の人は不可解だったり不快そうだったりため息をつくこともなく、適当に納得してそれらを記述していたのが救いだ。
その後仕事の説明と工場の見学に移動する。
正直この時点でもう大分へとへとだった自分は、ついていくのがちょっと大変だった。
階段の登り降りの安定感もいまいち。
それでもてきぱきと工場内と現場のやり方を説明されるこの方に、なんとかついていく。
自分が最初に迷い込んだ場所は、どうやら社員が最初に出勤して着替える場所だったらしい。
迷走の挙げ句別会社(かどうかもよくわからないが)の人に聞いて、ようやく本来の事務所に向かった自分は、もう一度そのルートを辿って出勤後のルートを説明してもらった。
そして二日後にはご連絡を差し上げますと言われ、本日はこれにて解散となった。
採用かどうかはその時決まるらしい。
文句なしで採用とは言われなかったわけだが、さあどうなるかは後の結果発表を待つしかない。
自転車まで帰り着いた自分は、来た道を戻り始めたわけだが、この時点で時計は10時38分を示していた。
ほんの30分かそこらしか経っていないのに、もう体はへとへとだった。
そして塩が切れたのか水分が切れたのか、自分は自転車を降りて地面に座り込んでしまった。
まだ事務所を出てから500メートルも離れていない場所で。
なんとか気分を落ち着けて再度自転車を漕ぎ出す。
行きは大分無駄が多そうなルートだったため、帰りは敢えて違うルートを辿ってみる。
さらに進んだところで、再び地面にへたりこんで休憩。
こんなことなら社員料金で販売されている自販機でお茶でも買えばよかったかと思ってみたところで後の祭り。
雪花菜さんが喜びそうな値段だったのははっきり確認した。
途中親切なおばさまが大丈夫ですか? と声をかけてくれたが、大丈夫ですと応えた。
以前骨折とその痛みで動きが止まった時は、頻繁に心配した人に声をかけられたが、まさかまた経験することになろうとは。
声が出ているうちは大したことはないと起き上がって、帰宅再開。
この判断は果たして正しいのか否かよくわからないが、とりあえずこうしていても体力は大して回復しないし、助けが来てヘリが釣り上げて連れ帰ってくれるわけでもないから。
なんかそんなゲームあった気がするがなんだったかなと思ったが、当然現実にそんな便利な話はない。
途中方向を間違ったらしく、思わぬ方向にずれていたので修正。
新しい場所に行くと必ず毎回のようにやるなこれ。
コンパスでも買おうかな……ほんと。
スマホにSIMさえ入っていれば問題はなにもないのだろうが。
とにかくひたすら自転車を漕ぎ続ける。
体重が減って軽くなったと思っていたが、予想以上にスピードは低速だった。
やっと見慣れた道路を見つけて安堵。
しかし家まではまだある。
高架下の自転車直通を阻む柵が、これほど腹立たしいのも初めてだ。
よーやく家に帰ってきた時は11時18分、行きは20分だったのに、帰りは倍かかってしまった。
そして帰ってきた自分は、ご飯を炊く気になれず、テーブルの上のチョコパンを食べて昼食を済ませると、さっさと布団にひっくり返って寝てしまった。
その後15時頃に目覚めた時には大分体力も回復していたが、とにかく空腹が酷い。
ヨーグルトと麦茶でごまかそうとするも、ちょっぴり麦茶をリバースしてしまった自分は、食べるべきか寝るべきか真剣に悩み、意を決してご飯を炊いて、さらに少し横になった。
ご飯が炊きあがる直前になんとか起き出してご飯を作って食べると、大分落ち着いていつものペースに戻りはした。
どうやら体が栄養補給してくれと暴れていただけらしい。
常に栄養を求めて本来のパワーが出ない体もどうかと思った。
しかしこんな状態で本当に毎日の勤務に耐えられるのか? 自分は。
仕事が決まっても決まらなくても地獄でしかない。
暗雲立ち込める合否の結果は数日後……。
つづく(…のか)
で続けてその後仕事に就いてからの苦闘を書けるかと思っていたが、否の連絡が来たのでこの話ここで無事完結。
結局履歴書取られ損だ。
また真っ白な枠だらけの書類コピーしてこにゃならん。
ちょっとほっとしたような、やっぱりがっかりしたような。
この病歴と職歴と年齢じゃ今後もこの調子で駄目なんだろうなあ……どれが主原因か考えたくもないが。
(脳梗塞になったのは)今年の話ですか? とやけにこだわっていたのは、やはり問題視されていたのかなとも思う。
思えばまだあれから半年たらずしか経っていないし。
こうなるともう生活保護の道に行くしかないのかも知れない。
あ、駄目だ際限なく堕ちていけそ。
激情家の自分はこういう時に限っていい小説や詞が書けるけど、生活の足しにもならないんじゃ意味がない。
いやそんな邪な考え抱いている時点で駄目だろうけど、この激情は。
帰ってきた無職生活、ずうっと一緒に暮らさないにタイトル変えておかなきゃ……いや帰ってきてる場合じゃないんだが。
今度こそ終わり




