栄養指導の中で(2)
こうして最悪の昼食からスタートした食卓。
すぐまた時間が過ぎて夕方がやってくる。
次は水加減を減らしてご飯を炊いたが、それでもご飯がべちゃべちゃになって憂鬱な気分だ。
長年一合炊きに慣れて水分もそれで覚えていたため、合わせるのに予想以上に苦しい思いをする。
夕飯はさすがに味つけする気力もなかったので、冷凍庫に入っていた鶏からあげの惣菜を解凍した。
それに残っていた卵をスクランブルエッグにする。
消費期限は入院期間中にとっくに切れていたが、生でなければ大丈夫というネットの悪友の助言に従い、火を通して食べた。
真似してひどい目にあっても補償はしない。
スクランブルエッグは病院でも朝食によく出たが、今思うとあれは卵だけでなく、牛乳(生クリーム?)なども混ざっていたのかもしれない。
味も食感も単体で作るより随分マイルドで柔らかだったので。
後になって知ったが、実は鶏卵には結構な量のナトリウム(=塩分)が入っている。
Mサイズの鶏卵一個で塩分0.2gに相当する量が入っているそうだ。気をつけないといけない。
ただの塩分0食材ではなかったわけだ。
塩味はかけらもしないのに。
どこかのゆで卵大好きタレントのような真似はもうできない。
塩でゆで卵なんかいくつも食べたりすれば、最終的な塩分摂取量は目も当てられないことになってしまう。
鶏からあげは後に売り場で塩分表記を確かめてきたが、多めに見積もって大体2g程度だった。
もうちょっと少なかった気もしなくはないが、1パックを小分けしたので正確な数字は出せなかった。
他に鍋用に分けて冷凍した水菜があったので、これを同様に残っていた冷凍薄揚げと一緒に軽く炒めることにした。
味つけはなし、油も引かない。せいぜい薄揚げに残った油分だけ。
これで塩分はからあげの2gだけですんだとその時は思ったが、卵の分0.2gを合わせれば2.2gになる。
味なしの野菜炒めを、濃い目に味つけされた鶏からあげで食べたが、これは予想以上にうまくいった。
特に味つけはなくても、卵も水菜もご飯もおいしく食べられる。
まあ当然といえば当然だが、やはりおかずの王様鶏からあげだけはある。
というわけで一つに濃い味をつけて薄味のものをおかずにする作戦は、早くも炸裂した。
塩分摂取量を減らしたい人には、まずからあげをお勧めしたい。それはどうかとも思うが。
コツは普通の味つけの食材をちょっとと、味のほぼない食材を大量に組み合わせる、これだけ。
これは最強の大鉄則だったと思う。
塩分量は、からあげの数を減らすことで徐々に調節すればいい。
本当は食事を考えるならもっといろいろあるのだが、自分は血圧以外は健康体なので、ひとまず塩分を減らすことだけに狙いを絞って献立を考えることにした。
あとはカリウムとマグネシウムとカルシウムの摂取。
カリウムは野菜なので、とにかく野菜炒めが作れる野菜を追い求めることにした。
マグネシウムは海藻や大豆に多く含まれているらしい。
カルシウムは乳製品、小魚や大豆だそうだ。
大豆製品はマグネシウムとカルシウム両方を一度に摂れるということで栄養士さんも一推し食材だった。じゃあと豆腐に目をつけた。
他にヨーグルトも乳製品の中では気楽に食べられるし、甘味もあるのでいいかと選択。
果物も買ってこようということになった。
栄養士の説明には魚推しもあったので、普段ほとんど行かなかった鮮魚コーナーにも足を運んでみる。
肉は以前から基本鶏ばかりだったので、もも肉からむね肉にシフトすることで脂を減らしてヘルシー(かつ安価)路線に進むことにしよう。
こうして買い出しの基本方針は決まった。
計画に沿って買い物を進める。
魚はいわしが安かったので1パック買うことに。
さばき方はネットの動画で確認したが、面倒になったのでとりあえず内臓と頭を落としてから、骨を適当に取り除く手開き形式にした。
最初は例に倣って塩をすりこんだりもしたが、意外と味があってそのままでも食べられると知ってからは、味つけ自体しなくなった。
フライパンで野菜と一緒に炒めるだけでも、野菜に魚の味がついて悪くない。
果物は最初はオレンジやみかんを買ったが、すぐに安いバナナを買うようになって、それ以外にはあまり手を伸ばさなくなった。
バナナは腹持ちもいいし、カリウムの量も多い。
日持ちしないのが難点ではあるが、ラップやビニールでくるんであまり空気に触れないようにして冷蔵庫に入れると、黒くなるまでの時間を長引かせられるという技を知ってからはそうしている。
豆腐は一番安いパックを買い込んで、昼と夜で半分ずつ、日に一丁食べるようになった。
ヨーグルトは最初だけ小分けされたミニサイズで安いものを買った。
後に大きいサイズのものを買って、自分で皿に盛るようになった。
そのほうが安いので。貧乏には勝てない。水道代を考えると、あんまり違いもないような気はしないではないが。
まあコロナ禍で商品の安定供給が揺らいでいた時期に、いつものは手に入らなくて仕方なく買い始めたのが最初だが。
さらにしばらくしてから脂肪分をカットしたヨーグルトを買ってみたが、これが目が覚めるくらい別物で感動した。
以後は脂肪分カットのヨーグルトばかり食べるようになった。
また朝食用に例のチョコチップの入ったパンを買ってきた。
これなら食パンよりはずっと塩分を抑えられる。
食べた本数でそのまま塩分計算できるので、数字を確認するのが楽というのもある。
たまにおやつにも供している。
本当は無塩のパンが手に入ればそれが一番いいのだろうが、とても貧乏人に手の届く値段ではないので諦めた。
ヤマ○キが大々的に売りに出してくれればなあ。
そんなわけで日々の生活パターンが徐々に形成された。
朝食はチョコチップのパンを三本食べる。
これに卵一つでスクランブルエッグをつける。無論味つけはしない。これは後になくなったが。
飲み物は紅茶かコーヒーかココアをつける。
食後にバナナを一本。
これで朝の塩分は0.5gに収まる。
朝をへこませておけば、昼夜の自由度が増す。これは病院食でも実践されていたテクニック。
実はこの温かい飲み物もくせもの。
まずカフェインが血圧に悪影響を及ぼすという問題がある。
人によってはコーヒーに徹底的に駄目出しをしていて、まるでタバコのように害悪を言い立てる人もいる。
ただこれはタバコと違って反対意見も根強い。
当然コーヒーを売るメーカーはそんなことないよと言う。
ちなみに栄養士さんに聞いたところ、当たり前の量を摂ること自体はなにも否定はしていなかった。
自分も最初はちょっと敬遠したが、気にしすぎても疲れるだけだなと思ったので、今は普通に飲むことにしている。
ただし飲む量には気をつけているし、砂糖やミルクの入れすぎも控えるようにはしている、
ミルクの類には微量とはいえ塩分も入っている。
紅茶やコーヒーと違って、ココアは比較的好意的に見られているようだが、しかし脂質や糖分は当然こちらのほうが高いので、また別の注意が必要。
なんにしろ一日に何杯も飲まないこと。
と言いつつ空腹や口寂しさを抑えるのにちょうどいいので、最初はわりとよく飲んでいた。
以前はそれにお菓子がついたので、それに比べたらマシではあるのだが。
以前買ったお菓子は、手に取る気にもなれなくて最初の二ヶ月くらいは全然触れていなかった。
ちょっとくらい食べても害はないと思うが、蟻の穴から堤も崩れるとも言うので、そこは控えておくことにした。
食べるなら一袋ではなく、小分けにして少しずつだななどと考えてみるが、結局めんどくさくて考えるだけで終わっている。
賞味期限がいよいよ危うくなってきたら食べよう。
もう食べ物じゃなくて見て空想を楽しむオブジェのようだ。
袋麺と鍋つゆだけは、見る度引き取り手がいればなあと憂鬱にさせるものになってしまったが。
鍋つゆは二年くらい期限があるので置いているが、袋麺は期限が切れて結局全て破棄した。
豆腐は最初は湯に入れて温めていた。
これを湯豆腐と呼ぶべきか冷奴というべきか、調べる気は起きなかった。
温まったらよく水を切ってから皿に上げて、かつおぶしを少々。ねぎなどあればそれもかける。
余っていた薄揚げと水菜の炒めものを投入したりする。
ここまで塩分はかつおぶしに含まれた微量の塩分のみ(計算に入れるほどもない量)だが、これでも意外と味は強かったりする。
そこに減塩醤油をかける。
普通の醤油は小さじ一杯で1g少々の塩分になってしまうので、ここはやはり減塩醤油を用意したい。
減塩醤油なら同じ量(小さじ一杯)でも塩分は0.5gで済む。
小さじ一杯もかければ十分味は立つはず。
それではちょっと多すぎるので、自分はそこからさらに減らす。
某百均(ser○a)で買った軽量スプーンには、大さじ(15ml)、小さじ(5ml)ともう一本「少々」(1ml)というスプーンが付属していた。
買った当初はなんに使うんだこれ? と思っていたが、まさかここに来てこれがエース級の活躍を見せるとは思わなかった。
1mlということは塩分量0.1g(以下)になるので、二杯かけてもたったの0.2g。
これならばんばんかけても問題はない。
というわけで自分は半丁の豆腐にじゃばじゃばと二杯、塩分0.2gをかけ回すが、これでも十分味がする。
後にこれが豆腐ステーキにクラスチェンジした。
朝豆腐をキッチンペーパーでくるんで、その上に水を張った鍋など重しを乗せる。
昼までには水が出て豆腐が縮むので、それを半分に薄く切り、二枚におろしたら、片栗粉をまぶして焼く。
それに醤油2ml(塩分0.2g)とみりん、酒(小さじ一杯でそれぞれ塩分0.1g)砂糖微量を加えたタレを作ってまぶす。
これで塩分0.4gの豆腐ステーキが完成。
みりんと酒で醤油の量は嵩増しされるので、薄いとか足りないということはまずないはず。
さらに後期にはこれがマヨネーズ炒めに変化した。
マヨネーズはかなりの重量大さじ一杯でたったの塩分0.3g。
それをフライパンに入れて油の代わり+調味料にする。
そこに水出し後の豆腐を刻んで投入し、マヨネーズを絡めながら焼く。
仕上げに減塩醤油(1ml、塩分0.1g)を回しかけて完成。
これも塩分は0.4g。
ただこれだと油がかなりきついので、後にマヨネーズの量は小さじ1(塩分0.1g)に減った。
こうなると塩分は0.2gだけになるが、意外と風味はしっかりしている。
やっぱり結構な油でくどいくらいだったりもするが。
マヨネーズがいかに油の塊かよくわかった。
豆腐はこれでいいとして、次は野菜炒め。
玉ねぎ、もやし、キャベツ、薄切りしたじゃがいも、なすなど季節ごとに安く手に入る食材を炒める。
ただ炒めるだけでは味なしだととても食べられたものではないが、ここに味つけの代わりに鶏肉を50gだけ投入。
鶏肉の味と薄い肉だけで野菜炒めを味つけする。
当然最初は味が薄いが、塩、醤油は思い切って入れない。
胡椒は使ってもいいが、やはり塩が入らないとどうしても間の抜けた味になってしまいがち。
たまに鶏肉が魚に代わる。
これだけで一応の体裁は整い、カリウムとカルシウム、マグネシウムは最低限摂れるようになったが、当然味は薄いので最初はちょっと食が進まないのではないかと思う。
ここにからあげ(一、二個)を投入してもいいのだが、自分は価格を考えてここに惣菜のコロッケを投入した。
近所のスーパーで買えるコロッケは、成分表によると塩分が0.4gほど。
このコロッケを豆腐と野菜につける。
豆腐と野菜の味の薄い部分は、塩分は低くても味のしっかりした揚げ物であるコロッケで補う。
それでも物足りない時はソースをかけてもいい。
ソースもいろいろ種類があるが、なるべく今までのスタイルを守った上で塩分の少ないものをということで、自分はイ○リのとんかつソースを選択した。
このソースはウスターや中濃といったソースと比べて、わずかに塩分が少なかった(売り場調べ)。
小さじ1杯で0.3g。
コロッケ一個0.4gにソースを一杯かけると、塩分0.7gでメインディッシュの完成。
これに先の野菜炒め(塩分0)と豆腐ステーキ(同0.4g)を合わせると、1.1gで一食が完成する。
この塩分量なら余裕で一日6g以内の制限を突破できる計算だ。
しかも最初に作ったまずい野菜炒めもどきなんかより、よほど味のする食事になる。
この黄金トリオは数ヶ月食卓の主役になってくれた。
実は自分は帰宅後、塩分制限をありきたりに一日6g以内に抑えて満足するのではなく、4g未満に削ると決意していた。
栄養士の発言の中にあった「(塩分は)削れば削るほどいい」という言葉を重く受け止めたのだ。
というわけで自分はさらなる高みを目指す。
目標は4gからさらに2g、1g、そしてついに限界の壁突破へと……。
自分の話には珍しく、まだまだ快進撃は続くことになる。




