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今日から始める脳梗塞  作者: おっとり魚
第三部 退院、それから
16/61

第一話 栄養指導の中で(1)

第二部までのあらすじ


 脳梗塞になった自分は、十日間の入院を終えて、ついに入院中手首に巻かれる身分証のバーコードがついたネームバンドを看護師さんに切られた。

それはこれから一人で生きていかなければいけない辛い道のりへのスタートを示していたが、看護師さんにはそれがわからなかった。

慨嘆する自分に

「これを切られると釈放された囚人の気分になるそうですね」

と笑って祝福してくれる看護師さんに、そうじゃない逆なんだと心の中だけで告げる自分は、健康ならほんの十分で帰れる道を、休憩を何度も挟みつつ三十分以上かかってやっと自宅に戻るのであった。

 帰宅した自分は、早速PCを起動してあちこちに連絡を始めた。

ネット上の知り合いや旧友に、まともに動かない手でキーを打ってかなりでたらめな変換で「もう駄目っぽい」という内容の連絡を送っていた自分は、入院前本当に余計な心配ばかりを撒き散らしていた。

特にリアルでの旧友には半身麻痺の事実とそろそろお別れらしいという曖昧な一報くらいしか告げていなかったので、余計心配させたようだ。

彼自身お母さんが病気で大変だったというのに、全くタイミングが悪いメールを送ってしまい、恥ずかしいったらありゃしない。

自分の入院前にすでに亡くなられていたことは、退院後知った。

人間としてやたら攻撃的な自分と違って、彼は素朴な好青年で全然違うキャラクターなのに、なにかと自分と変な縁、共通点の多かった人物なのたが、こういうところだけは似ないで欲しかった。

彼のお母さんが病気になってからは、すでに母親を亡くしていた自分が関わって引っ張るのもよくないと思ってやや疎遠になっていたが、やはり運命には逆らえなかったらしい。

疎遠といっても、どうせほぼ寝たきりで連絡もままならなかっただけで、気軽に会えたわけでもないのだが。

それもこれも、発症から入院までずるずる長引かせたおかげで、余計な連絡をつける時間がありすぎた弊害である。

気づいたらすぐ救急車という脳卒中の基本さえ守っていれば、防げた悲劇だったというのに。


そしてこの時リハビリで筋力は多少回復したが、キー打ちにはなんの影響もなく、相変わらずタイプスピードが酷い現実に気づいた。

なにも変わってはいないのだ。

ま、まともに歩いて動けるだけましか。

PCをいじり、途中かばんを開けて荷物の整理と洗濯の用意をしながら、自分はそろそろお昼の準備をしなければと時計を見た。

そうこれからは減塩食を自分で作らなければいけない。

そのための方法論は入院中に栄養士から学んだ。

その時から家にある食材を使ってシミュレーションしていた自分は、早速冷凍庫を開いて肉と野菜を取り出した。





 さてここで時間を少し巻き戻す。

入院して最初に医師と話した時に、栄養指導の話が出た。

高い血圧が引き金となる脳卒中にとって、食事療法は外せない生活習慣の改善ポイントとなる。

これからは無駄な塩分を控え、薄味の調理を目指すことになる。

それが血圧を下げ、再発のリスクを低くして、また脳の機能を殺さないこととなる。

これは薬だけ飲めば済む話ではない。

というかちゃんとやらないと、いつまでも薬に頼った生活をしなければいけなくなる。

それは勘弁して欲しいところだ。


これが別のポジションにいる人間であれば、栄養指導を受けるのは実際に料理する人間、奥さんや母親の役割を持つ人の仕事なのだろうが、あいにくどちらも存在しないぼっちの自分は、これを一人で受けなければならなかった。

元々趣味レベルである程度料理をしていた自分が本格的に料理を始めたのは、母のすい臓がんがわかってからだった。

体調が徐々に悪くなっていく彼女に代わって、日々の食事を自分が作るようになったわけだ。

ちょくちょく出てくる母親の話だが、どうしても世界が狭い上に結婚もしなかった自分の暮らしに、彼女はついて回る。

もう助けてもらえることはないのだが。


大人しく主治医に従った自分は、入院から一週間ほどした日の午後に栄養指導を受けることになった。

専用のブースに通された自分は、早速栄養士の話を聞くことに。


まず否定されたのは加工食品の存在だった。

ハムやちくわは塩分が非常に高いらしい。

チーズ、梅干し、漬物などもかなり塩分が高い。

確かにどれも塩を使って保存性を高めている。

そして食パンも駄目出しを食らった。

パンの中でも食パンはかなり塩分が高いらしい。

魚自体は推奨されたのだが、塩鮭やしらす干し、辛子明太子などはかなり塩分が高い。これも一種の加工品か。

さらにうどん、ラーメン、焼きそば、果てはざるそばなど麺類は大半がアウト。

これは当然ながらカップ麺や袋麺にもつながっている。

唯一打つ時に塩を入れない麺はスパゲティだったりする。

それで茹でる時に塩を入れるのかと、後に納得した。

さらに寿司、牛丼、カレーまで。当然弁当の類は速攻否定。

これらはどう作っても塩分が高くならざるを得ない。



減塩のポイントは配分を考えることらしい。

一つに十分味をつけておくと、味が弱い料理と並べてもメリハリが出る。

梅干しという強烈な味一つで味のほぼない白米を食べる、日の丸弁当のスタンスの変形だ。

梅干しは塩辛すぎるし、日の丸弁当では他の栄養が足りなくなってしまうが、他にさらに薄い味の料理を重ねることで階層社会のピラミッドを形成し、全体のバランスを整えて、かつ総塩分量を減らす。

ある程度の味のものが一つあれば、他が薄味でもなんとか食べられるというのは、病院食でも経験していた。

コロッケにかかっているほんのちょっとのケチャップが妙に愛おしくなるのだが、これだけで他の薄味を我慢できたりする。

逆に全体的に薄いとそのまま全体的に美味しくなかったりするのは、この後何度も経験することになった。

なんでもかんでも薄味にすればいいわけではない。

一の普段の味に、九の薄味を置けばいい。

最初は五対五くらいでもいい。


他に酢やレモン、唐辛子や胡椒など、塩分は(少)ないが独特の味があるものを使う手もある。

アクセントとしては効果が高いらしい。

また味はしっかり素材につけたほうがいいらしい。

「かけるよりつける」だそうだ。

これが意外と深かったりする。

このルールに則ると、大体水で薄まってしまう煮物や麺類は否定されがち。

自分がよく食べていた丼も駄目。

ちょうどその頃病院で出されたかけうどんの話になった。

かなり薄いだしのうどんだったが、それでも大さじ一杯の醤油を使っているらしい。

自分は小さじ二杯超の醤油で親子丼やカツ丼をよく作っていたが、大さじ1=小さじ3なので、実はほぼ同レベル。

うどんは丼より水の量が多いので、さらに薄い味になってしまう。

実際病院で出されたうどんも、正直な話そんなに美味しくはなかった。

それでも変化をつけるため献立に入れているのだろうが、きっと普段の米食に比べて評判はそんなに良くはないはずだ。

なら家ではなおさら米とおかずという基本を崩せないなと思った。


他にも料理はできたてが基本と言われた。

冷めた料理は味つけを濃くしておかないと味を感じにくい。

弁当はこのため自然味つけが濃くなり、塩分がどうしても高くなる。

以前採血のために時間をずらされ、冷めてから出てきた食事はまずかった。

温めてあったからこそ、あの薄味の食事はまだ食べられたわけだ。



調味料の塩分濃度もリストとして並べられていた。

醤油は当然塩分が高い。

味噌もそれに並ぶ。

減塩醤油は醤油の半分くらいの塩分だが、ソースやケチャップ、ポン酢がそれに並ぶ。

この中でマヨネーズは意外と塩分少なめなのだが、それ単体では味つけとしてどうしても弱い。

ドレッシングは微妙な量でとんでもない塩分なので、それに比べたらサラダにはマヨネーズのほうがいいかも知れない。


個人的に痛かったのは、だし粉末やブイヨンが意外に塩分が高いことだった。

いよいよカツ丼なんかできやしない。

味噌汁も「だし+味噌」でかなりの塩分になる。

味噌汁は具だくさんを推奨されるが、ようするにまともに汁を飲むと塩分を抑えられないということらしい。

というわけで汁物は味噌汁もスープも一切飲まなくなった。

そのままでは塩分がかなり高いし、薄く作っても今度はまるでおいしくないので、思い切って切り捨てたほうがここは賢明だと思う。特に最初は。

ひとまず薄味に慣れてから組み込み直すことをおすすめしたい。

きちんと全体の減塩さえ成功すれば、少し飲むくらいの余裕は生まれる。



他に指摘されたのは、日に三食食べるようにと言うことだった。

実は減塩と一緒に減量もするように言われている。

減量すれば血圧も下がる。

そのために日に三食は基本らしい。

自分は面倒がって日に二食、いわゆるドカ食いをしていたが、それではいくら全体で食事を減らしても体は栄養を溜め込もうとして痩せないそうだ。

なので三回に分けて少しずつ食べることを心がけないといけない。


病院での米は成人で一食0.7合分出るらしい。

これは人にもよるが、意外と少なくはない量だ。

自分は計算が面倒なので一合を米びつから出してそれを丸々炊いて食べていたが、これではちょっと多すぎる。

「1.5合炊くといいです」と言われたが、時間を置いた米の匂いとあのカピカピ感がとてつもなく苦手なので、自分はそれだけは採用しなかった。

結局秤できちんと0.7合分の105g(炊飯前)を計ってから炊くという技で、この問題を解決した。

後にさらに体重を減らすため、この数字を0.5合に減らした。

75gが0.5合分の米の量になる。

やはり0.7合というのは多い。

当然必要なおかずの量も、ついでに塩分量も増えてしまう。

少食で日に三回は想像以上にひもじいが……今もご飯間際の時間が結構辛かったりする。

この空腹感が体には必要なんだと思うしかないが。



他にもカリウム(野菜に含まれる)とカルシウム(乳製品など)とマグネシウム(大豆など)を摂るように言われた。

野菜は確かに摂る量がかなり少なかった。

大豆製品に至ってはここ一年以上皆無。

肉よりは魚らしい。これもほとんど摂っていない。たまに白身フライを食べるくらいだった。

ビタミンや食物繊維も意識しろだそうだ。

当たり前のようだが全然守れていなかったことばかり。

これが加速したのはやはり、母親が亡くなって以降のことになる。

生きていた頃は二人分の食事を作っていたが、抗癌剤で味覚がおかしくなった母親のためにデパートでちょっといい魚を買い込んでいたし、野菜も数日おきにあれこれ用意していた。

肉も食べたが、すい臓を病んだ彼女はそこから出るすい液というものの分泌が止まり、油分が分解できないため、油ものを食べると体の中で分解できなくて気分が悪くなる。

横で揚げ物をしただけで、もう気分悪そうにしていた。

なのでちょっとした焼き物でも、油は一切引かないようにして使うのを避けていた。


そんなわけで一緒にいる自分も意図せず意外といい食生活を送っていたのだが、それも母の死とともに完全に崩壊してしまった。

母親が死んで自分も入院し、退院した後は激痛のせいで寝起きするだけで苦痛だったため、食事は一日に冷凍チャーハンを小さな皿にやっと一盛り一食だけだったり、カップ麺をすするだけで終わりだった時期が結構ある。

チョコの大袋を買ってきて、それをひたすら貪り食っては麦茶で流し込んでいたこともある。

そんな生活が続いたおかげで、体重はみるみる減って一時期20kg以上減量した。これが2年ほど前の話。

だがそれも痛みが引くと、自然と食事量が回復。

めったに食べなくなっていた揚げ物もまた食べるようになったし、なにか焼く時は油を使うようになった。

野菜は一人では使い切れないため、だんだん買わなくなってたまねぎくらいしか食べなくなったし、豆腐は元からさして好きでもないし保存も効かないので、これも買わなくなった。

冷凍庫に残っていたちょっとお値段のするあじの干物なども、冷凍庫を片づけるために食べて以降は一切補充されなくなった。


そして家にはカップ麺と冷凍食品が並び、少しは野菜も食べるかと始めた鍋物のために野菜を買って冷凍することが若干増えはしたのだが、それも微々たるものだった上に、鍋つゆは一人分で一日の摂取量を余裕で超える塩分が含まれていた。

これではいくらカリウムが塩分を排出するとはいえ、焼け石に水にもならない。

塩分超過で高血圧も当たり前だ。

当時はそれに加えて日に二食である。

朝起きてご飯を一合炊き、丼を作る。


・醤油小さじ二杯超(塩分2.5g程度)

・みりん大さじ二杯(塩分0.6g)

・卵二個(Mサイズ一つで0.2gなので0.4g)

・だしの素(1gで塩分0.4g程度、これを5gくらい使うので総量塩分2g程度)


加えて玉ねぎとねぎが申し訳程度、一食塩分5.5gの親子丼を食べる。

これが鶏肉でなくカツだとさらに塩分が上乗せされるが、正直この時点でドン引きの塩分量。

味だけを追い求めてこの配分量になったのだが、せめて減塩醤油を使っていれば……と後悔しかない。

それでも数gも減らないのだが。


加えて夜はなけなしの野菜に餃子(一個で塩分0.2gx3個ほど)、ラーメン(一玉の三分の一程度で塩分0.1gくらい)という王道加工食品に肉類野菜を加え、キムチ鍋つゆは規定量で塩分6gを超える超弩級の代物だった。

それを食べた後最後に汁で雑炊をするため、ねぎと卵(0.2g上乗せ)も投入するのだから、この時点で一日の塩分摂取量は軽く十数gを超えている。

これにスナック菓子などのおやつがつくので、多分一番ひどかった時期は日の塩分摂取量15gを軽く越えていたと思われる。


飲み物はスポーツドリンクが主。

たった100mlで0.1g(ア○○○○スの場合。ポ○○だとこれがさらに増える)も塩分があるのに、これをゴクゴク飲んでいたのだから恐ろしい。

100mlなど大した量ではないので、当然それが増えるごとに塩分量が増すことになる。


これだけ書いてなんだが、一応断っておくと、これは水のような気分でスポーツドリンクを飲んでいた自分が悪い。

元々運動後の栄養補給が目的なわけで、ジュースのように飲めるものではないのだ。

ジュースだって気安くがばがば飲んでしまえば糖分摂りすぎでよくはないのに、さらに上のスポーツドリンクをそのように飲んでいたことは不幸と言うよりは不注意に過ぎたと今ならわかる。

ちょっとばかり悪役を引き受けていただくことになったが、別にスポーツドリンク否定をしたいわけではないので、その辺は間違えないでいただきたい。

ただジュースと同じ感覚で飲んでいる人は、塩分がどうか改めて考えてみてほしい。



脳梗塞後初の食事でスポーツドリンクを飲みながらクラッカーを食べたのだが、あのクラッカーは一袋で塩分2gもある。

それをコップ一杯300mlで塩分0.3gはあるスポーツドリンクで流し込んだわけだから、下手をすると3gくらいおやつで塩分を摂っていたことになる。

血圧190の時にそんなものを飲み食いしていたんだから、今考えるとシャレにならない。

塩気のあるものを流し込む飲み物でさらに塩分を増やす。

当時の生活を改めて今計算するとぞっとするレベル。途中で嫌になってしまったくらいだ。


あとは御存知の通り、脳梗塞を起こすまでまっしぐらだったわけで。

今思い起こしても、発症直前の塩分摂取量は中々えぐい数字だった。

これでは血管が詰まって当然。





 やはり一番の問題は塩分摂取量になる。

普通の人は一日の塩分摂取量大体9g程度を推奨されている。

本当は提唱している団体や国によって数字は細かく違うが、ここはひとまず自分が入院した病院の基準に揃えておく。

これに対して高血圧の人間の目標値は6g以内。

ラーメンは下手をすると一杯で6gなど簡単に超えるため、一回食べるだけで簡単に一日の塩分摂取量をオーバーしてしまう。

これはスープを飲み干した場合で、スープを丸々残しても大体半分である。

この計算もかなり大雑把で、実際は麺の塩分とスープの塩分は別で、麺自体にかなりの塩分が入っているため単純に半分だとは思わないほうがいいかと。

スープをいくら残しても麺の塩分はもろに体に入っている。

家に帰った自分は早速普段から食べていた袋麺の成分表を眺めたが、やはり6g前後。高いもので6.6gもあった。

その後もスーパーなどで成分表を眺めてみたが、大体最低でも4gは超えるので、食べてみたいとも思わず棚に戻して、最近では手も触れなくなった。


さらに酷かったのがキムチ鍋のつゆ。

キムチやカレーは唐辛子や香辛料を使うのではと思いがちだが、味を整えるためにかなりの量の塩を投入するのが普通らしい。

結果普通の鍋つゆよりも塩分が激増している。

仮に水で薄めたとしても3g超えは恐ろしいレベルだ。

多分半分に薄めたら、とても食べられたもんじゃないだろうが。


前出したがクラッカーは一袋2g。これも軽く一食分にはなる塩分だ。

たまに食べていたコイン型のビスケット(1955年生まれの古い商品)でも一袋で0.7gほどはある。

どちらも時代を感じさせる食べ物だが、安い割には内容量が多いのでよく買っていた。

これまたよく食べていたレトルトカレーが食器棚に残っていたが、その塩分は甘口で2.3g、中辛だと2.7gもある。

各社平均すると辛口レトルトカレーは大体3g前後、甘口でも2g台前半と後半の間ぎりぎりくらいにはなるようだ。

これらを考えなしに食べていれば、そりゃ日に6gなんてあっという間だ。

ふとこれも直前に食べていたチョコチップの練り込まれた菓子パン(チョ○チップスナックという商品)の空袋があったので、成分表を見てみた。

熱量は一本で100kcalに届かない程度。塩分は0.1g。一袋六本入り。

塩分は食パン(大体六枚切り一枚で1g程度)などよりは低い。

本数を抑えれば十分朝食としていけるのではないだろうか。値段も安い。

これは光明かもしれない。


こんな感じで食品を仕分けていきながら、どうやって三食を(できる限り安く上げて)食べるか、自分はいろいろ考えていた。

無論味つけも考え直さないといけない。



とりあえずは今目の前の昼食である。

秤を出して米の量を計った自分は、それを洗い水加減を調整してから炊飯のスイッチを押した。

米はこれでよし。

残るは野菜だが、冷凍庫にカレーを作るつもりでじゃがいもとにんじんを切って冷凍していたので、それを解凍して使うことにした。

鶏肉をただ炒めただけでも、味つけをせず意外と食べられる。

ならそこに野菜を入れれば、多分まずくはないはず。

これでいけるんじゃ? と思った自分は、他に冷蔵庫に入っていたたまねぎを刻んで、これらを炒めて食べてみることにした。

もしこれで行ければいきなり塩分0生活成立である。

なんだ、6gなんて余裕じゃん?

まあいきなりそんなうまくいくわけはないのだが。


とりあえず鶏肉を炒め、その油分で他の食材も炒めて、簡単な野菜炒めが完成する。

それを皿に盛って、ご飯をよそう。

うん、水加減完全に失敗だな。べっちゃべちゃだ。

この時こうなることを予め予測していた自分は、水を張る時に目盛りがどの辺りか、きちんと記録していた。

なので次は水をそこからさらに減らせばいいわけだ。

この試行錯誤は数日続いて、いつしかちょうどいい固さのご飯が炊けるようになったが、数日はべちゃべちゃご飯を閉口しながら食べることになった。


米はそれでいいのだが、問題は野菜炒めのほうだった。

塩、醤油、味つけ一切なしのそれは、これがまた予想を裏切らずに恐ろしく不味い。

鶏肉はまだいいのだ。脂が乗っているし元々の味も濃いので、なんとかそれ単体で食べられなくもない。

元々肉はあまり味をつけなくても食べられると知っていた自分は、この効果に期待していた。


だがじゃがいもとにんじんがありえないくらい美味しくない。たまねぎも味がない状態ではかなりきつい。

また合わせて食べるとこれが駄目。

鶏肉の味でなんとか食べようと思っても、他の野菜が鶏肉の味を奪って、しかし補いきれず全てを駄目にする。

あまりにも酷かったため、途中から胡椒を持ってきてふりかけた。

味のアクセントとなって薄味でも食べられるはずだ……だが塩味が全く無いところに胡椒をしても、胡椒のピリピリ感が増すだけでちっとも美味しくない。

やはり0ではなく多少はベースになる味がないと、胡椒もアクセントにはなってくれない。


というわけで帰宅後初の食事は、とんでもない大失敗で終わった。

なんとか鶏肉と玉ねぎでご飯をかきこんだが、じゃがいもとにんじんは固くて中が生だったこともあって食べきれなかった。

苦い教訓は味つけにはなってくれなかった。やはり人は塩なしでは生きられないのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おかえりなさい。お待ちしておりましたよ、第三部。 減塩がしんどそうに拝読しましたが、便りを聞けた事は喜ばしいのですよ。
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