推察
聞き込みを済ませ陰陽課の公用車に乗り込む二人。運転席は一明だ。
エンジンを掛けず、座席に深く座って一息つく。聞き込みなど陰陽課ではあまりしない。
「解っかんねぇなや」
助手席で虎緒が腕を組む。
「なにが?」
「コレ、陰陽課の仕事か?」
「ふむ」
不満げな虎緒の問いには答えず、一明は今一度被害者達の顔写真を出してみる。
「まぁ、似ていると謂れれば似ているかな?」
見た目が似ているというのは連続殺人によくあるパターンだ。
無差別連続殺人鬼と呼ばれる殺人犯には『外見の特徴が一致する人物を狙う』『自分が殺した死体を飾る』『殺した相手の所持品・肉体の一部を記念品として所持する』といったパターンがよくみられる。
一明は写真を見比べながらそう云った。
「だいたい『外見が似ている』は元になる特定の人物の代替。『死体を飾る』は死体に対する愛好。『記念品』は几帳面な性格からだ」
「……キモいわ。カズ、陰陽師ってンな事まで覚えンの?」
一明は虎緒の言葉を無視して続ける。
「『食べる』の場合、二つパターンがあるかな。まず『相手と一つになりたい』」
「それは無ぇ。絶対無ぇ」
「なぜ?」
虎緒は現場写真を指で叩いた。
「喰い散らかしてンじゃん。一つになりたいってのは要するに惚れたはれただっちゃ?」
「……それにしては扱いが雑、か。ならもう一つのパターン。『食欲』」
「だ~から~!獣だろ。獣なら保健所の仕事だっちゃ、もしくは猟友会」
陰陽課の仕事では無いと云いたいらしい。
「妖物のなかには人喰いもいる」
「昔話のヒヒかよ?今時分出るか?いねーよ、絶滅してるよ」
一明は解剖所見の写しを見比べる。
「ヒヒみたいなのが人を喰うのは通力を得る為だが、コレは違うな」
妖物がいわゆる神通力を得る為、人を食害するには手順つまり儀式が必要である。また、食害する部位は肝と相場が決まっている。
「『数種類の咬み傷』これを考えればヒヒでは無いな。しかしトラよ、別種の生き物が同時に人を襲うと思うか?」
「……思わねぇ。チッ」
「つまり妖物だ、陰陽課の仕事だよ」
溜め息をつく虎緒。
その隣で一明がようやくエンジンを回した。
おらほ→お(俺)ら(等)ほ(方)、ウチの(東北弁)