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別式虎緒妖物事件帳  作者: CGF
神隠し
26/28

四縦五横


湖西のマイクロバスが停まると虎緒が走り寄ってきた。



「どうしたねお嬢?」


「オッサン!カズが消えた!」



その言葉に湖西は首をひねる。


確かに人里離れた寺ではあるが、舗装されていなくとも道はしっかりしたものだ。麓まで枝道も無い。


では道を外れて山の中に入って迷ったのか?


これも考えにくい。既に紅葉の季節は過ぎ、樹々の間は視界がとれる。


第一この辺りは懐中電話スマホの電波が通るのだ。電源を切っている?それとも蓄電池バッテリー切れ?几帳面な一明に限ってありそうも無い話だ。




そう頭の中で考えた時、虎緒がおかしな事を云った。



「いったいあの蔵はなんなんだ!?」


「蔵?蔵だと?」



いきなり話が飛ぶ。一明と蔵と何の関係があるというのか。



「蔵の中に消えたんだカズは」



聞くが早いか湖西は走った。虎緒が後に続く。




蔵の前に着いた湖西はあんぐりと口を開けた。


蔵の扉が大きく開かれている。



「何で開いとる!?鍵などとうに無くなっておるのに」



湖西がこの寺に入った時、既に蔵の鍵は失われていた。先代住職が鍵をなくして以来この蔵は誰も入っていないのだ。


その事を告げると虎緒は憮然とした顔で云った。



「知らないよ、カズは何度も入ってるみたいだし、勝手に開いた……ンで……!?」



喋っているうちに虎緒の目がすわる。



「……オッサン、この中の物ッて、『曰く付き』のヤツなんだよな?」


「まぁ、いくつかはそうらしいな。もっとも人に仇なすものでは無いはずだ」


もしも人に危害を加える様なものであったなら、古株の檀家辺りが口にしている。



「仇をなさなくッたって、錠前くらい開けられるンでね?」


「む?」



可能性は有る。が、湖西が住職におさまって以来その様な事は今まで無かった。


何故、今になって……



「一明殿は蔵に何の用があったのだろう?」


「知らね。けど入った時、狩衣に着替えてた」



狩衣は一明の陰陽師としての仕事着だ。


しかし、一明の手をわずらわせる様なものなど蔵には無い。無いはずだ。



蔵の中を覗くと、埃の溜まった床板にくっきりとした足跡が一組。



「これはお嬢の足跡だな?」



なら、蔵の中を一明は歩いていない。


しばし熟慮した後、湖西は虎緒に告げた。



「一旦扉を閉めろ」



怪訝な顔をする虎緒。しかし有無を言わせぬ湖西の口調である。云う通りに重い扉を片腕で閉めた。



足跡が無い。


蔵の中を歩いていない。


ならば一明は異界に行ったとみるべきだ。蔵の扉は異界への入り口として使われたのだと湖西は考えた。



「お嬢、九字切りは知っておるな?」


「え?まぁ昔教わったけど」



虎緒は吊っている右腕を見る。片手で印は組めない。



「早九字で良い」



九字は異界へ入る為のものだ。術者の身を護る効果があると同時に異界への入り口を開く。



「……朱雀、玄武、白虎、青龍、勾陣、帝台、文王、三台、玉女」



九字と謂えば臨兵闘者皆陣列在前などが知られているが、虎緒のは一明に習った陰陽式だ。


声にあわせて四縦五横に指を走らせる。



「扉を開けよ」



湖西は今一度蔵の扉を開かせる。今度は軽く扉が開いた。


虎緒の目に中の様子は全く違って見える。長い廊下と庭のある屋敷の姿があった。





「……ちょっと行ってくる」



虎緒は足を踏み入れた。





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和語り企画
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