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別式虎緒妖物事件帳  作者: CGF
神隠し
21/28

道中



「トラ……なんだその荷物は!?」



一明が目をむいたのも無理は無い。



駅の二階、人々の多くが待ち合わせ場所として利用する色彩硝子絵ステンドグラスの前。


現れた虎緒の後ろには二人の若者。父親の門下生だ。


それぞれ両手に旅行用鞄ボストンバッグが計四つ。全部虎緒のものである。


右腕が使えない虎緒の為に運んでくれたというのだが、両手が使えていても一人では無理だ。



「何が入っているんだ?」


「や、着替えを詰めてたら……何故かこんな量に」



その答えに一明は虎緒の姿を上から下まで眺めた。




いつもの羽織姿だ。




まさか下着ばかり入ってる訳はあるまい。着替えと云うがだいたい虎緒は着たきり雀なのだ、替えの羽織や袴をそんなに持ってくるはずがない。



「世話ンなったね、後は大丈夫だから」



一明の疑問をよそに、礼を云って虎緒は二人を帰してしまった。



「これ、湖西殿と僕で運ぶのか」



量は多くないが一明にも荷物はある。


残された荷物を眺めながら一明が溜め息をついていると、虎緒は買い物に行ってくると云い出した。


山の中では便利雑貨屋コンビニの類いはあるまい、今のうちに酒や乾き物、菓子など買って来る。そう云って一明が止めるのも聞かず売店に駆けて行く。



結局、湖西が迎えに来るまでの間、一明は独りで旅行用鞄ボストンバッグの番をするはめになった。






マイクロバスがガタガタゴトゴトと山道を登る。その度車内がギシギシと音を立てる。


湖西が運転する車だ。お陰で大量の荷物は無事に積む事が出来た。



「オッサン何でマイクロバスなんか持ってンだよ?」


「法事に来る檀家衆の送迎用でな。元は観光寺のもの。買い替えると云うので譲ってもらったのよ」



なるほど走行中揺れる度にギシギシと軋む訳である。舗装されていない砂利道、余計に響いた。


慣れている湖西、剣術で鍛えた虎緒と違い、一明の顔は蒼い。酔ったらしい。



「こ、湖西和尚、あとどれくらい……?」


「おぉ、済まん。休憩を取ろうか」



砂利道で速度が出ない為、あと小一時間はかかる。そう云われて一明は手で口を抑えた。



木々の枝が伸びる山道、車から降りた虎緒は片腕で伸びをした。酔いはしないがさすがに疲れる。


天気も良く涼しげな山の空気が吸い込む胸に心地好い。



「たまにゃ山ン中もいいなや」


「そうであろう」



山鳥の声が遠く聴こえる。


紅葉も終わりの山は、眼下の街より気温が二~三度低い。葉の落ちた雑木の、枯れた色彩も相まって物寂しさを感じさせる。


それでも虎緒の目には清浄に映る。妖物は人々の間に潜む。人里から離れたこの場には道端にわだかまる小物の姿さえ無い。



ただ時折、山の精気が形を成した精霊とでも呼ぶべきものが、小気味良い速さで枝々の合間を飛んでいく。遊んでいるかの様に。


その仕草を目で追いながら、虎緒の心は和んだ。




視える。その事で怖いこと、厭なことを今まで同時に見てきた。





うん、見鬼というのも悪くないじゃないか。初めてそう感じた虎緒であった。






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和語り企画
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