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別式虎緒妖物事件帳  作者: CGF
人斬り
17/28

白刃対鉄塊


片膝を撃ち抜かれ、男はバランスを崩して倒れた。


なんとか立ち上がろうともがく。


その姿から敢えて視線を外し、虎緒は銃口からけぶる硝煙を一息吹いた。



「ぃやぃや、拳銃携帯許可の申請、なかなか通ンねくてさ、お奉行ば拝み倒したや」


「貴様……卑怯な」


「は?おヒトの話聞いてたか?オレは『尋常に』勝負しねッて云ったっちゃ?だいたいお身柄ガラは藩廻りに渡さねばなんねンだ、したら足撃つべよ」



拳銃を懐に戻した虎緒は二度三度右手の化け物鑢を振ると、男へ近寄る。



「おにこれ以上怪我ァさせねけンど、その妖刀にゃ引導渡さねばな」


「うぬ!?」



男は無理矢理に地面を転がると虎緒から距離を取り、鞘を杖代わりに立ち上がる。


いまだ戦う姿勢をみせる男に向かって虎緒は突進した。化け物鑢を妖刀に叩きつける。



撃たれた片足に重心はかけられない。男は防戦一方になった。




ギャリンッ!


    ガツンッ!


ギギギ、ギチギチギチ……




「ぐっ、ぐうぅ!」



妖刀に化け物鑢が当たるたび、男が苦悶の声を上げた。



「ぐおおっ!」



一声叫ぶと男は飛びさすった。よろけながらもなんとか倒れずに虎緒から間合いをとる。


荒い息を吐きながら男は刀に目を向けた。



刀身にいくつもの刃こぼれが見える。



「ぅ……ぅぉおおおお!!」



男は吼えた。


自分を魅了し、人斬りの快楽を覚えさせ、魔道へ堕としたその刀が傷付いている。


最愛の者が傷付けられた事に男は吼えた。




『欲シイ……』




頭の中に声が響く。



『欲シイ……欲シイ』



「お前か?お前なのか?」



男が刀に問うた。



「何が欲しいのだ?……この女の血か?」



男は刀がいつもの様に血を求めているのだと思った。



『身体ガ……汝ノ身体ガ欲シイ』


「なんだと!?」


『我ハ……斬ル為ニ……生マレタ。ダガ、我ハ……人ニ振ルワレネバ……斬レヌ』



男の脳裡にある光景が浮かぶ。それは戦場で振るわれるかつての大刀の姿。


白刃が煌めき、血飛沫と首が飛ぶ。


敵との鍔競り合いで火花が散る。



次の瞬間、戦場の景色はいずこかの屋敷と替わり、刀は床の間に飾られていた。


数百年、手入れ以外に柄が握られる事は無く、無為の時をただただ床の間で過ごし……



『……戦ダ。斬リ合ウ敵ガ……居ルノニ……欲シイ……身体ガ……』



その声は慟哭どうこくであった。



「しかし、お前はもはや……」



刀身はボロボロだ。


娘は、目の前の敵は刀を殺すつもりでいる。





『……戦場ヲ駆ケ、戦ニ散ルハ我ガ誉レ!』





刀が求めていたもの、それは血では無かった。男は自分の誤解に気付いた。


この戦いで刀は死ぬ。


男は刀の本懐を遂げさせる為、静かに呟いた。





「……ならば、俺の身体をくれてやる」







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和語り企画
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